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16 かたよくのてんし

今から怒涛の二十連投を開始します。十分おきくらいの投稿になりそうです。

 やっとこさ目標量の食料を集め終え、俺は最後の運搬作業に取り掛かっていた。

 ゆるふわちゃんとポニテ女子は先にロッジに戻ってもらっているため、今は愛音君と二人きりだ。

 無言でただ歩くのもなんだったので、話し掛けることに。

 もちろん上裸の状態で。


「そういえば愛音君、キミの心配事は解消されたかね?」

「まだですけど。どうしたんですか、急に?」


「無人島から出られないことを、彼女達に知られたくなかったんじゃないのか?」

「……」


 愛音君は口を閉ざしたまま。

 それはイエスと受け取っていいんだな?


「残酷だな、君達は」

「……仕方ないじゃないですか」


「仕方がない?」

「先輩は、これ以上無用な混乱を招かない方が良いとは思いませんか?」


「思わんな」

「ゲームが始まっても、誰も殺し合わないようにすれば……そうすれば、いつか脱出する方法が見つかるかもしれないじゃないですか」


「それこそあり得ん」

「……見解の相違ですね」


「相違? 違うぞ? 君達の見通しが甘いだけだ」

「どこが甘いと思うんです?」

「そうだな……」


 チャラ男とかに聞かれても、俺の考えを教える気なんてないが、愛音君ならいいか。

 とりあえず結論からぶっこんでみる。


「愛音君は、人肉を食べたいのか?」

「急に何キモいこと言ってるんですか、先輩?」


「食べたくないと?」

「当たり前です。というか、その話がどう関係あるんです?」


「関係あるさ。俺たちはこれから、フルータリアンと同じ食生活を送らなきゃいけないんだからな」

「フルータリアン……ですか?」


「菜食主義者に区分されるものの一つだ。その中でも果物しか口にしないレベルのものは、実行するのが難しいものに分類されている。愛音君もダイエットをする時の栄養管理の難しさ、というのは知っているだろう? それのさらに専門知識が必要なバージョンだと思ってくれていい」

「……知識なしでやるとどうなるんですか?」


「最悪死ぬな」

「でも、そんなにすぐに死ぬことなんて」


「素人がやれば一年くらいで病院送りだぞ? 炭水化物をタンパク質に変えてくれる特殊な細菌を持った人間でもなければ、だけども」

「そんな……⁉」


 驚きをあらわにする愛音君。

 やっぱり知らなかったのか。


「でもそんなこと、どうして知っているんですか?」

「面白そうだから中学生の時にやってみた」

「……え?」


 おかしな奴を見る目で見られた。

 若気の至りというやつだ、気にするな。


 結果として、俺は特殊な細菌を持つような特別な人間じゃなかった、ということが判明したのだから、全くの無意味だったというわけではなかったのだし。


「動物性タンパク質に含まれる特定のビタミンや、脂質、鉄分などが不足すると、筋力の低下、神経障害、貧血など様々な症状が現れるようになるな」

「そんなに詳しいんだったら、ライト先輩なら何とか――」

「無理だ。この無人島に動物性の蛋白源はほとんど確認できなかった。小川の小魚くらいじゃ全然足りん」


 というか、何が悲しくて現実逃避している集団の面倒を見なくてはいけないのか。

 しかも、一年で病院送りということは、症状が現れるのはもっと前ということになる。

 これらのことから、無人島の脱出は必然的に時間との勝負になってくるわけだ。


 また仮に、バリアを突破する方法が見つかって、海に出られたとしよう。

 その場合でも、十三人分のタンパク質の供給となると難しいだろう。

 タンパク質が供給されなければ、筋力の低下は免れない。


 そんな状況下で、十三人全員で海を渡る?

 あり得ない。

 過去に起こった、数多の遭難事件でもそうだったように――。


 デスゲームで人を殺す覚悟がないのなら、他人の死肉を食らってまで生き延びる覚悟を決める必要がある。

 それも、助けが迎えに来るその時まで。

 これはそういう話なのだ。


「さて、それを踏まえてもう一度聞こう。愛音君は人肉を食べたいのか?」

「……」


 愛音君は難しい顔で考え込んでしまった。

 沈黙が下りた森の中、二人分の足音だけが聞こえる。


 けっこう久々にお堅い話をしたから疲れたな。

 これ以上説明するのはもう面倒臭い。


 まあ、愛音君なら勝手に答えを出すだろうし、いいか。

 どう転んでも、俺たちはデスゲームから逃れられないということに気づくはずだ。

 そう――救助を待ち、誰か一人でも生き延びるという方向にシフトしたとしても、『ラ・コメディア』とかいうふざけたゲームのルールが許してくれないのだ、と。


 すると、しばらく経ってから、愛音君が口を開いた。


「……先輩はどうなんですか?」

「何がだ?」


「人の肉、食べたいですか?」

「もちろん、ごめん被る」


 キッパリそう言ってやると、愛音君がふふっと笑みを零した。


「ただ……」

「ただ、何ですか?」

「君が人の肉を食う道を選ぶというのなら止めはしないぞ? その場合は、俺が死んだら食ってくれていい。というか、愛音君以外に食われたくはないな」


 他の奴らが死のうが生きようが、今のところどうでもいいし。

 ……やっぱり、お淑やかさんとゆるふわちゃんは、死んだらちょっとは悲しいかもしれん。


「そ、そうですか……」


 なんでちょっと嬉しそうなんだね、愛音君や?

 そんなに俺のお肉が食べたいのか?

 さすがの俺も引いちゃうぞ?


 それとなく愛音君に尋ねてみたら、背中を思い切りひっぱたかれた。


 何をする⁉

 俺は今、上裸なんだぞ?


 あと少しで果物の袋……じゃなくて、俺の服を落とすところだったじゃないか。

 しかも、背中がヒリヒリするし。

 多分いい感じに手形の痕がついているんじゃなかろうか?


 天使の羽みたいに。


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