表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/76

15 おいはぎ

 なんやかやありながらも、俺たちはロッジを出て、食糧確保へ北の森に向かった。


 確保する食料は主に果実。

 果実ということはつまり、フルーツやクルミといった木の実が対象ということになる。

 そして、フルーツがなっている場所なら、ほんの数時間前に愛音君に案内されたばかりだ。

 そう、果樹園と呼ばれているあの場所である。


 ゆるふわちゃんとポニテ女子の後に続いて、代わり映えのしない森の中を進む。

 歩きながら、後ろから聞こえてくる足音の主に対して疑問をぶつけてみた。


「ところで、なぜ愛音君がついて来るんだね?」

「心配していることがあるからです」


「まさか、俺の心配か?」

「少し違いますが、大体あってますね。主に…………の方を、ですけど」


 後半は小声だったので何を言ってるか聞こえなかったが、まあいいか。

 先輩を心配してついて来てくれるとは、なんとできた後輩だろう。

 ちょっとだけ嬉しかったりする。


 ちなみに、森の中を歩く間は、主に日本にいた時のことを話す雑談タイムになっていた。

 女三人寄れば姦しいというが、本当にその通りだ。

 この無人島に猛獣とかがいれば、真っ先に狙われるんじゃなかろうか?


 もちろん俺は会話には参加していない。

 というか無理。


 コスメが無くて大変だとか、この島のとある木の実が化粧水の代わりに使えるだとか、そういった話に全く興味がないわけでもないが、如何せん話に入って行けそうにない。

 たまに日本の話になったりするものの、アイドルがどーだとか、好きな人はいたのかとか、俺があまり興味のない話に移っていってしまうのだ。


 女子特有の不思議結界とでも言えばいいのだろうか?

 なんというか、話が次から次へと何の脈絡もなく移り変わっていくので、会話に入っていくのが難しい。


 女性の頭の中は、一体どういう構造をしているのだろうか?

 不思議である。


「――ホントそうですよね。先輩もそう思いません?」

「……あ、ああ。そうだな」


 だから、急に話を振らないでくれ。

 俺は君たちの話についていけないんだ。


 ただ、さっきとは打って変わって雰囲気は良好。

 見ているだけでなんか和む。

 こんな空気の中、果物狩りに行けると考えると、なんか悪くないな。


 ――とか、そんなことを考えていた時期が俺にもありました。


「それじゃ、服脱いで」

「……はい?」


 果樹園に着いた途端、そんなことを言われた。

 これはあれか、新手の追い剥ぎか?

 それとも、俺の貞操が危機なのか?


「……今ここで、俺に全裸になれと?」

「なわけないでしょ!」


「じゃあ、どうしろと?」

「考えれば分かるでしょうが⁉ アンタの服を、果物を入れる袋の代わりにするに決まってるじゃない!」


 服脱げって言われただけで、そんなんわかるか!


 というかやっぱり、追い剥ぎのようなもんだった。

 俺の服が犠牲になることは、ここに来る前にすでに決定していたらしい。


 しかし、それを聞いて一つ納得したこともある。

 男手が必要な理由だ。


 俺が無人島に飛ばされた時点での日本の季節は夏。

 もっと正確に言えば六月で、平均気温が二十五度くらいだった。

 平均気温が二十五度ということは日中はもっと暑い。


 それもあってか、無人島にいるほぼ全員が薄着だ。重ね着とかはしていない。

 そんな状態で、女子に向かって「なんでお前たちは自分の服を使わないんだ?」とか、言えるわけがない。


 つまり、女性の服は使えない。

 となれば、男の服を使わざるを得ない。

 そのうえ、まともな神経をしていれば、脱ぎたてほやほやの男の服を女子に渡して、「フルーツとって来て」とかもできるわけがないのだ。


 俺もそれをしないくらいの気遣いは持ち合わせている。

 それに、洋服一杯に詰め込まれた果物を女性が運ぶのはキツいだろう。

 必然として、男手が必要になる。


 ようは、生贄に選ばれたのが俺だったというだけの話だ。

 つまり、チャラ男は死すべしということ。


 寝ている間に鼻にレモン汁を流し込む刑に処してやろう。

 略して鼻レモン。

 なんかゴロが良いな。気に入った。


 しかし、知らない間に俺は生贄にされていたのか。

 どおりで愛音君が心配するわけだ。


 ……ん?

 もしや。愛音君は俺の服が犠牲になることを知っていた?

 ということはつまり――。


「もしかして愛音君、俺の上裸が見たくてついてきたんじゃ――?」

「なわけないです」

「すみません」


 とても冷ややかな視線を頂いた。


 こういう時はすぐに謝罪するに限る。

 救いがあるとすれば、ゆるふわちゃんが笑ってくれたことだろう。

 彼女の微笑みから得られるエネルギーが、活力に変わっていくのがわかる。


 ……君が天使か。


 ちなみに俺のお気に入りのTシャツは、果樹園とロッジを何往復かしたら、果物の汁やらなんやらでぐじゅぐじゅになった。


 泣きたい。


5/20(土)と5/21(日)に、現在ストックできている分を、ほとんど解放することに決めました。

それぞれの日に20話分ずつ投稿する予定です。ぜひお楽しみください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ