15 おいはぎ
なんやかやありながらも、俺たちはロッジを出て、食糧確保へ北の森に向かった。
確保する食料は主に果実。
果実ということはつまり、フルーツやクルミといった木の実が対象ということになる。
そして、フルーツがなっている場所なら、ほんの数時間前に愛音君に案内されたばかりだ。
そう、果樹園と呼ばれているあの場所である。
ゆるふわちゃんとポニテ女子の後に続いて、代わり映えのしない森の中を進む。
歩きながら、後ろから聞こえてくる足音の主に対して疑問をぶつけてみた。
「ところで、なぜ愛音君がついて来るんだね?」
「心配していることがあるからです」
「まさか、俺の心配か?」
「少し違いますが、大体あってますね。主に…………の方を、ですけど」
後半は小声だったので何を言ってるか聞こえなかったが、まあいいか。
先輩を心配してついて来てくれるとは、なんとできた後輩だろう。
ちょっとだけ嬉しかったりする。
ちなみに、森の中を歩く間は、主に日本にいた時のことを話す雑談タイムになっていた。
女三人寄れば姦しいというが、本当にその通りだ。
この無人島に猛獣とかがいれば、真っ先に狙われるんじゃなかろうか?
もちろん俺は会話には参加していない。
というか無理。
コスメが無くて大変だとか、この島のとある木の実が化粧水の代わりに使えるだとか、そういった話に全く興味がないわけでもないが、如何せん話に入って行けそうにない。
たまに日本の話になったりするものの、アイドルがどーだとか、好きな人はいたのかとか、俺があまり興味のない話に移っていってしまうのだ。
女子特有の不思議結界とでも言えばいいのだろうか?
なんというか、話が次から次へと何の脈絡もなく移り変わっていくので、会話に入っていくのが難しい。
女性の頭の中は、一体どういう構造をしているのだろうか?
不思議である。
「――ホントそうですよね。先輩もそう思いません?」
「……あ、ああ。そうだな」
だから、急に話を振らないでくれ。
俺は君たちの話についていけないんだ。
ただ、さっきとは打って変わって雰囲気は良好。
見ているだけでなんか和む。
こんな空気の中、果物狩りに行けると考えると、なんか悪くないな。
――とか、そんなことを考えていた時期が俺にもありました。
「それじゃ、服脱いで」
「……はい?」
果樹園に着いた途端、そんなことを言われた。
これはあれか、新手の追い剥ぎか?
それとも、俺の貞操が危機なのか?
「……今ここで、俺に全裸になれと?」
「なわけないでしょ!」
「じゃあ、どうしろと?」
「考えれば分かるでしょうが⁉ アンタの服を、果物を入れる袋の代わりにするに決まってるじゃない!」
服脱げって言われただけで、そんなんわかるか!
というかやっぱり、追い剥ぎのようなもんだった。
俺の服が犠牲になることは、ここに来る前にすでに決定していたらしい。
しかし、それを聞いて一つ納得したこともある。
男手が必要な理由だ。
俺が無人島に飛ばされた時点での日本の季節は夏。
もっと正確に言えば六月で、平均気温が二十五度くらいだった。
平均気温が二十五度ということは日中はもっと暑い。
それもあってか、無人島にいるほぼ全員が薄着だ。重ね着とかはしていない。
そんな状態で、女子に向かって「なんでお前たちは自分の服を使わないんだ?」とか、言えるわけがない。
つまり、女性の服は使えない。
となれば、男の服を使わざるを得ない。
そのうえ、まともな神経をしていれば、脱ぎたてほやほやの男の服を女子に渡して、「フルーツとって来て」とかもできるわけがないのだ。
俺もそれをしないくらいの気遣いは持ち合わせている。
それに、洋服一杯に詰め込まれた果物を女性が運ぶのはキツいだろう。
必然として、男手が必要になる。
ようは、生贄に選ばれたのが俺だったというだけの話だ。
つまり、チャラ男は死すべしということ。
寝ている間に鼻にレモン汁を流し込む刑に処してやろう。
略して鼻レモン。
なんかゴロが良いな。気に入った。
しかし、知らない間に俺は生贄にされていたのか。
どおりで愛音君が心配するわけだ。
……ん?
もしや。愛音君は俺の服が犠牲になることを知っていた?
ということはつまり――。
「もしかして愛音君、俺の上裸が見たくてついてきたんじゃ――?」
「なわけないです」
「すみません」
とても冷ややかな視線を頂いた。
こういう時はすぐに謝罪するに限る。
救いがあるとすれば、ゆるふわちゃんが笑ってくれたことだろう。
彼女の微笑みから得られるエネルギーが、活力に変わっていくのがわかる。
……君が天使か。
ちなみに俺のお気に入りのTシャツは、果樹園とロッジを何往復かしたら、果物の汁やらなんやらでぐじゅぐじゅになった。
泣きたい。
5/20(土)と5/21(日)に、現在ストックできている分を、ほとんど解放することに決めました。
それぞれの日に20話分ずつ投稿する予定です。ぜひお楽しみください!




