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14 かくしつ

 チャラ男に顎で使われるのはなんか腹立つけども、別に食料確保に行きたくないというわけじゃない。

 働かざる者食うべからず。

 それは真理ではあるため、ここは大人しく従うことに。


 ところが、ゆるふわちゃんと一緒にロッジへ戻ろうとしたら、神妙な表情をしたチャラ男が話しかけて来た。

 しかも、小声で。


「なあ……」

「なにか?」

「『あのこと』については、今は話さないでおいてくれないか?」

「……わかった」


 出来るだけ真剣な表情を意識しながら頷きを返すと、チャラ男は自分のグループのもとへ戻っていった。

 俺はそれを見送ることなく、ゆるふわちゃんの後を追う。


 ところで、『あのこと』って何のことだ?

 誰に何を秘密にしたいのかすら、いまいちよく分からん。

 まあ、チャラ男に聞き返すのも面倒だし、そのままでいいか。


 それにもし、『あのこと』とやらが『無人島に閉じ込められたこと』を指しているのだとしたら、それを秘密にするという行為に、俺が加担しなければならない理由が分からない。


 さらに秘密にすることによって生じるであろう物事や、そのメリットとデメリットを提示し説明し、説得することを放棄しているチャラ男の言うこととかマジでどうでもよかったりする。


 となると、そのことに思考を割くこと自体が脳みその容量の無駄遣いなので、さっさと忘れてしまおう。そうしよう。

 そんなことより、食料確保だ。

 異世界の果実が、新たな味覚が俺を呼んでいる!


 胸を高鳴らせてロッジの中に入ると、ちょうどゆるふわちゃんがポニテ女子を宥めているところだった。


 少女二人の横では、だらしなく椅子に凭れかかった酔っ払いのオッサンが、酒らしきものを呷っている。

 ちなみに、テーブルに着いているのは酔っ払いのオッサンだけでなく、モデル女とそのお付きの黒縁眼鏡君もいて、二人とも静かに本を読んでいた。


 ロッジの中には本棚はないから、教会から持ってきたものだろう。

 さっき、酔っ払いのオッサンとポニテ女子が言い争っていた時もそうだったが、ああやって無関心を決め込んでいるあたり、二人とも実にいい性格をしている。


 そういえば、悪魔様がロッジに現れた時もそんなに慌てていなかったな。

 肝が据わっているというかなんというか、そこはかとなく俺と同じ匂いがする。

 仲良くなれるかもしれん。


 そんなことを考えていると、ポニテ女子に話し掛けられた。


「手伝ってくれるのって、アンタ?」

「……あ、ああ」

「助かったわ。ありがと」


 少しだけ頬を上げ、ニッと微笑むポニテ女子。

 年相応のさっぱりとした笑顔は可愛らしい。

 ――が、その表情もすぐに濁ってしまった。


「ほんと、どこかの飲んだくれとは全然違うわね。アンタの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいよ……」

「凛ちゃん!」


 まだ怒りが収まらなかったらしく、嫌味を言い始めたポニテ女子を、ゆるふわちゃんが小声で諫めた。

 ただ、悲しいことにロッジの中はほとんど無音だ。

 酔っ払いのオッサンに、ポニテ女子の嫌味が聞こえないはずがなかった。


 面倒臭そうにこっちを見る酔っ払いのオッサン。

 オッサンはまだら模様の瓢箪から口を離すと、ぷはっと息を吐いた。


「そう怒らんでもいいだろ? 働きたくねぇって言ってるわけじゃないんだからな」

「そういう問題じゃ――」

「それによ……あそこの女だって働いちゃいないじゃないか。俺にだけ怒るってのは違うんじゃないか、嬢ちゃんよ?」


 酔っ払いのオッサンは、そんな言い訳を並べてモデル女の方に視線をやった。


 これもまた、無音のロッジの中でその発言が当人に聞こえないはずもなく――。

 本から視線を外したモデル女がこっちを向いた。

 汚物を見るような眼が、酔っ払いのオッサンに向けられる。


 ……あれが絶対零度の侮蔑の視線というやつか。

 向けられたのが俺じゃなくて良かった。


 というか、このオッサン何してくれてんの?

 アンタの近くにいることで、モデル女からの印象が悪くなったらどうしてくれるんだ?

 せっかくシンパシーを感じていたというのに。


 俺がそんなことを考えている間も、ポニテ女子はオッサンに言い返す言葉を探している様子だったが、モデル女と目が合った途端に「う……」と、言い淀んでしまう。

 すると、口を噤んでしまったポニテ女子に変わって、モデルの女が酔っ払いのオッサンに言い返した。


「私はいるだけで価値があるの。アナタみたいな落伍者と一緒にしないでくれる?」


 ええ……。

 何という直球の「見下しています」発言。


 それを聞いた酔っ払いも流石にピクリと眉を動かし、モデル女を睨みつけた。

 しかし、モデル女の隣の黒縁眼鏡君に睨み返されると、「けっ!」とだけ言って、酒盛りに戻ってしまう。

 それを見て、モデル女たちも読書に戻った。


 なにこれ……。超絶空気悪いんだけど。


 この空気の悪い中、黙々と読書を続けられる神経は俺にも分からない。

 まことに残念だが、モデル女とはお友達にはなれないかもしれないな。


 さっきまではシンパシー♪

 今はどうにもアンティパシー♪

 だからお前にまじアパシー♪

 そんな俺はこれから使いパシリぃだぜ♪

 いぇーい?


 ……我ながらアホすぎる。


 ラップとかはあまり聞かないけども、頭の中でそんなアホみたいなビートを刻んじゃうくらいには蚊帳の外過ぎて暇だったし、雰囲気がなんかアレすぎた。


主人公は「アパシー」を「無関心」という意味で使用していますが、気にしないでください。たぶん間違っています。

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