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12 ゆいがどくそん

 帰り道。誰も口を開こうとしないまま、重苦しい雰囲気で森の中を歩く。

 SFのような事件に巻き込まれたことを信じていたカップルの男だけでなく、このグループのムードメーカー的ポジションにいるらしい、チャラ男までもが静かだった。


 チャラ男からチャラい成分を引いたら何も残らないぞ?

 没個性もいいところだ、やはりお前は主人公の器じゃないな。とは思うも、カップルの女と気の弱そうな青年の二人が、御通夜みたいな雰囲気を醸し出しているせいでもあるし、仕方のないことなのかもしれない。


 さすがのチャラ男も、何の根拠もなく、「どうにかなるさ」といった、無責任なことは言わなかった。

 思考を放棄しているっぽい、気の弱そうな青年よりはマシである。


 終始おどおどしている感じの青年からは、主体性のようなものを感じない。

 自分の意見を持たず、他者の意見に従順。己の主張を持たないが故に、周りの意見に流され易く、自分の身に起こったことを他責にする。俺の苦手なタイプだ。


 また、そのことに一切の疑問を持たない人種というのは、どこにでもいたりする。

 であればそれは、思考停止していると言い替えていいはずだ。

 ついでに、昔の哲学者が「人間は考える葦である」と言っているので、思考停止した人間は、「ただの葦」であると言い替えられるだろう。


 ならば、「気の弱そうな青年」といちいち呼ぶには長いので、これからは彼のことを「アッシー君」と呼ぶことにしよう。


 ちなみに、この理論を適用した場合に、カップルの女の方は「アッシーさん」には当たらない。

 ただ意気消沈しているだけの普通のOLだ。


 聞くに、デスゲームのようなものが苦手であるらしい。

 理不尽に人が殺されるような映画とかもダメなのだとか。


 これに関してはカップルの女は不憫であるとしか言いようがないが、アッシー君といい、チンピラといい、チャラ男といい、不安要素が多いな。

 前途多難な感じがする。


 愛音君なら共感してくれるだろうと思い、そんな趣旨の話を振ってみたら、なんともいえない顔をされた。


「何言ってるんですか? 先輩もですよ?」


 ……?


「何が『俺も』なんだね……愛音君や?」

「先輩も不安要素の一つだということです」


 何を言ってるんだ君は?

 俺ほどこの世界に適応しようとしている人間はいないだろう?

 現実逃避して、悪魔様のゲームから逃げようとした奴らと一緒にしないで欲しい。

 それに、この世界が異世界だというロマンを追い求めることの何が悪いというんだね?


「心外だな」


 自信を持ってそう返してやったら、ため息を吐かれた。


「先輩は唯我独尊という言葉を知っていますか?」

「もちろん知っているぞ? 自分以上に優れた存在はいないとうぬ惚れたり、独りよがりなことを指してそう言うな……それがどうしたんだ?」


 すると、俺の返答を聞いた愛音君がこれみよがしに「はぁ」と、ため息を吐いた。

 なんかちょっと失礼じゃないかね、君?

 愛音君が誰のことを思い浮かべてそう問うてきたのかは皆目見当もつかないが、もし俺のことを指しているのだとしたら、それは間違いだぞ?


 俺はうぬ惚れてはいないし、独善的でもない。

 仮に欠点をあげるならば、人の情というモノが希薄といったところだろうか。

 ただし、決して非情というわけではない。

 すべてはバランス、天秤の問題なのだ。


 そう、現状の最優先事項はゲームにおける生存であって、こいつらとのなれ合いでは決してない。

 重要なのは死なないこと。

 もっと言えば、投票で処刑されないことと、人狼に殺されないことだ。


 コミュニケーションを取れば絶対に生き残れる、または生存率が絶対に上がるというのなら、俺は今からでもコミュニケーションに勤しむつもりでいる。

 しかしそうでないのなら、必要以上にコミュニケーションをとるメリットが分からない。


 それよりも、この無人島に来たばかりで何も情報がないというディスアドバンテージを解消することと、こいつらがおよそ二十四時間で作り上げたであろう人間関係を観察しておくことの方が重要なように思える。


 ただそれだけのこと。


 決して、自身の考えが絶対正しいと信じているわけでも、自惚れているわけでもない。

 仲良くなったら、投票して殺すのを躊躇ってしまうかもしれないじゃないか。

 仲良くなったら、人狼になった時、誰かを殺せなくなってしまうかもしれないじゃないか。

 そのせいで、仲良くなった誰かが死んだりしたら悲しいじゃないか。


 だから、名前を覚えない。

 情というモノが邪魔をしないように。

 ただ、生き残るために。


 これは決して、他人の名前が覚えられないことの言い訳に使っているわけじゃない。

 俺たちの置かれている状況が、免罪符になっているだけである。


 結果として、俺は許された。

 これにより、俺は愛音君の言う唯我独尊にはあたらないことが証明されたわけだ。


 ついでに言うと、今のところ俺の脳内理論に矛盾は見当たらない。

 しかし、おかしい。

 俺は許されたはずなのに、なぜか愛音君からのジト目が止まらない。


 お淑やかさんならまだしも、君に見つめられても嬉しくないぞ?

 そう言ったら、どつかれた。


 痛い。

 理不尽だ。


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