表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/44

〈37〉可憐な双子の誕生会(1)

 

 秋が過ぎ、落ち葉が舞う頃。日毎に寒さが増して、冷たい風が吹くようになった。

 アリーシャが都市で暮らすようになって初めての誕生日を迎えた。エヴァンズ夫妻は、娘二人の誕生日を盛大に祝うパーティを開催した。


 しかし。アリーシャは、朝から憂鬱だった。


「ナターシャちゃんにアリーシャちゃん。本当によく似合ってるわ……! かわいい私の子どもたち……!」


 感激して目に涙を浮かべる母を、アリーシャは冷めた目で見ていた。


 アリーシャは、ナターシャと揃いのドレスを着せられている。フリルとレースがふんだんにあしらわれた華やかなドレスだ。胸や肩、そこかしこに色とりどりのリボンが飾られている。……少し、どころかかなり子どもっぽいデザイン。


「すごく気に入ったよ、お母様……! 私もアリーシャちゃんとお揃いが着れて凄く嬉しい……!」

(もし本心でそう思っているなら、正気とは思えませんね)


 母のセンスはかなり前衛的だ。ナターシャとて、このドレスに思うところはあるだろう。しかし、母を落胆させまいと気遣い、さも本気で気に入ってように振る舞うところは、どこまでもお人好しだ。

 アリーシャは正直、不満しかない。この姿で人前に出るなんてありえない。もちろん、小心者なので何も言えないのだが。


 ナターシャは愛嬌があるので、年齢に不相応なドレスさえも着こなしているが、無愛想なアリーシャでは、余計にアンバランスに見える。


 アリーシャが仏頂面を浮かべていると、母が不安そうに顔を覗き込んだ。


「あら……? アリーシャちゃん、もしかしてこのドレス、気に入らなかった?」

「……そういう訳ではありません。素敵……です」

「そう……ならいいわ」


 百点満点の反応を取ったナターシャ。しかし、アリーシャは不器用だった。愛情の受け取り方も、あまり気に入らない贈り物にどう答えるべきかも、これまで希薄な人間関係の中で生きてきたせいで分からなかった。


 すると、重くなった空気を察したナターシャが言った。


「私、お母様が考えてくれたこのドレス、ずっと宝物にするね!」

「まぁまぁ。ナターシャちゃんたらすぐ調子のよいことを言うんだから」

「だってお母様の気持ちが嬉しいんだもの!」


 恥じらいさえせず、笑みを浮かべて母に抱きついたナターシャ。アリーシャの心に劣等感が広がる。別に、この二人が悪いという訳ではない。

 ただ、親子として健全に愛情と絆を育んできた彼らが羨ましいのだ。


 大きな姿見があるこの部屋には、今朝()()()()()に届いた贈り物が山積みになっている。中でも、王家の紋章が刻印された箱が大量にあり、マティアスからの贈り物だと分かった。

 一方、アリーシャには知人が少ないため、ほとんど届かなかった。プレゼントの数だけで劣等感を感じてしまう。


(なんて私は心の狭い人間なんでしょう。お母様のプレゼントを素直に喜んで差し上げることもできなくて、お姉様を妬んだりして……)


 自分のことを責め始めたとき、頭にレイシアのことが思い浮かんだ。ピクニックに二人で出掛けたとき、彼女が話してくれた一言一言が思い出され、固くなった心が解されていく。「自分を責めないで」と言ってくれた彼女に励まされ、こんな自分の悪いところも、許容できる気がした。


(楽しいことを考えてみましょう。……そうだ。今日はタイス様やポリーナ様たちもいらっしゃる。きっととても賑やかになるでしょう。……楽しみです)


 すると、ナターシャがこちらを覗き見て言った。


「あれ、アリーシャちゃんどうしたの?」

「何がですか」

「だって、笑ってる……」

「……っ!」


 ナターシャの指摘に、唇に手を当てる。ほんの微かに口角が上がっていることに気付き、アリーシャは自分でも驚いた。

 表情の機微に乏しいアリーシャが笑顔になる瞬間は、滅多になかったのだ。――レイシアに出会う前までは。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ