怒りと、カウンセリング
「分かっているの?」
と母親に問い詰められたって、何のことかは分からないさ。ただ、僕は僕の友達と遊んでいただけだからね。
けれどもさ、母親が僕を叱るときの……あの目だけは、慣れないね。
本気で僕を心配している眼差しに、なぜか悲劇的な怒りがこもっているんだ。
ほんと、心が締め付けられるんだ。僕が小さい頃から母親は僕のことを、壮絶な不安と心配と怒りとを込めた目付きで見るんだ。
何度も、何度も同じあの目でみるから、母親のオーラはいつも強ばっている。
まるで僕が、ひび割れた瀬戸物みたいだ。
でも、でも、僕は僕の信念を譲れない。
このお兄さんと遊ぶなって母親が言うんなら、僕は反抗するつもりなんだ。
あんまり怒られたら反抗するつもりだったけど、この後すぐに先生とのカウンセリングがあるから、あまり怒られずに済んだ。
カウンセリングはまあまあ退屈なものだったよ。なんか、この前来たときと、おんなじ感じって気がして。
同じことの繰り返しさ、学校ではうまくやっているの? とか困っていることとか辛いことはない?
って。なんか親戚のおばさん。みたいだね。
ありったけの心を込めて、心と心とを通わせ僕を慰めようとしている。
僕の心の中に、不安や苦しみなど存在しないはずなのに、その存在しない苦痛を取り除こうと、カウンセラーの先生は一生懸命になって心を通わせようとしている。
先生、先生はだからカウンセラーの先生なんだね。
それでも先生は親切だからべつに悪い気はしないよ。本当に頑張っているんだなぁ。って僕は思った。
それでさ、カウンセリングが終わってさ。僕は待合室をウロウロしていたわけ、
母親は、なぜか分からないけど先生とずっとお話をしていたよ。
僕はその間、つかのま、自由ってわけさ。
まだ本当の自由ではないけどね。
そうしたら、待合室に僕と同じくらいの年齢の女の子がいたんだよね。
その子と目があってさ、しばらく見つめあっていた。
僕はその時、何かを直感したんだ。
僕はその時、何か運命的に鮮やかな何かを見つけた気がした。
僕はその女の子にすごく親近感を抱いたんだ。
だってその子、きっと僕と同じように、親や先生から「特別な子」だと思われているだけの、普通の人間だと思ったのさ。
確証はないよ。でも分かるんだよ。誰からも理解されない境遇を抱えている人は。僕には分かるんだ。
僕はその子に話しかけた。
「ねぇ、良かったら僕とお話ししない?」
彼女は言った。
「見てほしいものがあるの。びっくりしないでね」
初対面だというのに、僕らは驚くほど打ち解けあった。
これが、ゆいちゃんとの出会いだ。