第8話
少しずつ元の雰囲気に戻っていきます。謎は残りますが、女の子達の絡みは増えてくるので気楽に読んで頂けると幸いです。
「いやぁ〜このよく分かんない奴、倒すのに手こずっちゃったマヨ〜。なぁなぁ、後であっしになんか報酬とかくれないかマヨ〜?」
萌奈先輩は、ご機嫌うるわしゅうというか陽気というか、告白魔の女幽霊を前にして笑っている。呑気な物ですなぁ。
ちなみにだけど、先輩は意外と童顔なので笑うと凄く幼く見える。
男勝りで語尾がマヨ、テニスラケットで戦っている、いつもならヘッドフォンを首に掛けている、そんな力強い先輩のイメージとギャップがあって結構可愛く見えちゃうんだよねぇ。
身長も意外と低い。実はアタシより低い。確かえぇ〜っと、156くらいしかないらしいんだよね。
だけどもね? 風の噂によると先輩は昔、たくさんのヤンキーを手下に従えていた、ヤンキーの総長だったらしいのよね。
噂だから、審議の程は定かじゃないのだけれども。ちなみに、ヤンキーを従えて何をしていたかっていうと、街の治安を良くする活動をしていたみたい。
それを聞いたときはずこっとなったけど、同時に心がほっこりしたなぁ。だって、そういうのって萌奈先輩らしいからね。
見た目と言動、行動。それら全ては噛み合っていないのだけれど、先輩は何故か良い方向に向かう事が出来る。
魅力的だよねぇ。ギャップもあるというか。
そう(なんのそう?)、割とナチュラルにギャップ萌えする人物、それが優見沢 萌奈先輩です。
てか、今日はヘッドフォンしてないんだ……なんでだろ。先輩方は皆、"萌奈はヘッドフォンがトレードマークになるくらい毎日持ち歩く"と言っていたのに。
「お〜〜い後輩っ、聞いてるマヨ?」
「あっっ。す、すみませんっ! ちょっと考え事しちゃいました! あにゅう」
先輩に名前を呼ばれたアタシは、とっさに笑顔を作って手を首の後ろに回した。
先輩は呆けた顔をして、アタシを見ていた。危ない危ない、かなり考え事してたよ。もうぅ〜アタシったら!
「あっ! みこちゃんはどこですか!?」
きょろきょろと辺りを見渡し、大好きな親友を探す。萌奈先輩がいるからといっても、正直心配はしていた。
みこちゃんは怖い事が苦手だから、そういう目に合うとすぐに動けなくなっちゃうの。
お化け屋敷ならまだしも、現実であんなのに遭遇した日には、みこちゃんは大パニックだ。実際パニックになっていたしね。
「ひかりぃ〜。ふにゅうぅ〜」
あ! 見つけた!! アタシの大好きな親友!!
みこちゃんは、体育館の近くまで避難していたらしい。怯えた声を出しながら、その場に座り込んでいた。
「み・こ・ちゃ・んんんん!!!」
アタシは全速力で走り、震えるみこちゃんを抱き締めた。勢いで押し倒しそうになった。みこちゃんが相手ならば、押し倒す事もアタシはいとわないのですがね☆
「ひ゛が゛り゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛、ごめんねぇ守ってあげられなくてぇぇぇ。うえぇぇぇぇん、怖か゛っ゛た゛よ゛ぉ゛ぉ゛」
チョロチョロと涙を流して、アタシに謝るみこちゃん。
「良いんだよ……みこちゃんはいつも、アタシを守ってくれているんだから。だーいじょーぶっ。もー怖くないよ〜」
みこちゃんを優しく抱き締め、背中をさする。泣きじゃくってアタシにもたれ掛かるみこちゃんは、まるで赤ちゃんみたい。
へへっ、可愛いなぁホント。みこちゃんは、昔からずーーっと、チョーー可愛い。
こうしてみると、なんだかんだで昔から変わらないよね……みこちゃんは。あはは、色々と思い出すなぁ。
いじめっ子に立ち向かうみこちゃんとかね。
普段からそういう奴らに立ち向かって、みこちゃんを守るのがしょっちゅうだったのに、君はいつもアタシを守ろうとする。
アタシがいじめられた時は、怖くても、傷ついてでも、みこちゃんは立ち上がり、立ち向かった。
守れる立場じゃない人間――君はそういう立場の人間なのに、アタシの事を守れなかった時はいつも……泣くんだ。
"守れなかった"。"悔しい"。そう言うんだ、君は。自分の責任じゃないのに、君はいつも自分を責める。
「違うんだよ、みこちゃん。君はね……いつもアタシの事を守っているんだよ。アタシは……いつも幸せだよ。みこちゃんみたいな強い人――自分よりも友達を守ろうとする素敵な気持ちがある人と、ずーーっと親友でいれるからっ」
みこちゃんの体から離れ、顔を見つめながら大好きな親友にちょっとした告白をする。
何故このタイミングなのかは分からないし、みこちゃんを見つけた安心感から来てるのかも分からないけど。
まぁ、たまには良いかな〜なんて。あにゅう。
――アタシはずっと、あの時からみこちゃんの事が大好きだよ。変わらない。
例え他の子と仲良くしてても、アタシの側にいるのはみこちゃんであってほしい。それだけは、譲れないよ。
「うっ、ふっ、うえぇぇぇぇん。ひかりぃぃ。大好きぃぃ」
また涙をチョロチョロと流したみこちゃんは、アタシに抱きつく。さっきより強く。
もうぅ〜、なんなんだよぉ〜YO! 可愛すぎるじゃねえかYO!
はっ! なんか、段々と恥ずかしくなってきた気がする! なんだろう! 急なポエムというか、ナルシストというか、エモい感じになっちゃったから凄い告白しちゃったよ!
恥ずかしぃ! 良い事だとは思うけど恥ずかしい! あにゅう!!
「おーおー、お熱いねぇ♪ ヒューヒュー♪」
萌奈先輩がアタシ達に近付いて、少しからかうように言う。
「もっ、もう! 先輩はあんまり見ちゃいけないんですからね! めっですよ先輩!」
顔を赤らめながら、先輩に対して謎キャラのノリで鑑賞を拒ませる。
「はいはい〜。了解マヨっ」
さてさて……美少女みこちゃんの良い匂いを嗅ぎながら、考え事をしようじゃないか。
何を考えるって? うーんとね、それは。
――――どうして、黒マントの人は居ないのかなぁって事。
「それにしても、女幽霊の近くに何故黒マントとお面が……」
第2棟校舎の真ん中ら辺、外壁に寄りかかって座る女幽霊を見ながら、先輩に質問を投げかける。
「ん? なんかよく分かんないけど、ポケットから出てきたよ? これ」
呆けた顔を続けながら、軽やかに事実を告げる先輩。
「え!? マジですか! じゃ、じゃあ……もしかして女幽霊と黒マントは――っ!?」
待って……そういや、萌奈先輩って黒マントの事知らないよね。危ないな、知らない人にこんな変な事を言って巻き込んじゃ。
それに……アタシがアホの子だと思われるのも嫌だもぉぉん! あにゅう♪
「しっかしまぁ、こいつも凄い不審者だなぁ。何者なんだぁ? 第2棟の中から見てて、こいつが出てきた時は心底驚いたマヨォ」
「え! そこから見て、すぐに駆けつけて来てくれたんですか!?」
先輩のほうを振り向き、驚きと喜び、感謝の気持ちが入り混じった表情を浮かべる。
「あ、あぁ。本当にびっくりしたよ。こいつがいきなり現れて『好き好き好き』とか、言い出すもんだからさぁ」
「確かに……あれは怖いですよねぇ。あはは。先輩はずっと第2の中に居たんですか?」
「そうマヨ〜。課題の提出が終わらなくてさぁ、ずーーっと中に居たマヨ」
うわぁ、確かに課題の提出とかって面倒だよねぇ〜アタシもそういうのやるのは、結構辛いもんだよね――――"ずっと中に居た"?
なんでアタシは……こんなに引っ掛かっているんだろう。なんで…………。っ!?
『何してるんだ! 早く黒マントを追えよ!』
『助けてぇんだろ! 女幽霊もお前の友達もどうにかするから後輩っ、お前は早くいくマヨ!』
そうだ……先輩はあの時、こう言っていたんだ! だから、アタシはずっと何か引っ掛かっていた。
じゃあ……なんで先輩は今、あんな事を? 先輩の記憶違い……なの?
それとも……。
「後輩。とりあえずさぁ、今回のこの話は内密にしておこうよ。さっき、深優希から連絡があったんだ。ちょっと、変な人がうろついてて危ないって」
考え事をしていると、先輩からまた声を掛けられる。さっきまでとは違う、少し真剣な表情を浮かべていた。
「深優希先輩からっ?」
「そう。先生方と色々な相談して動いてるらしいから、誰にも言わないで欲しいってさ。優莉乃にもな。あいつには、部活を楽しんで欲しいんだよ。それに、あっしは後輩にも部活を楽しんで貰いたいと思ってる」
先輩はアタシの肩に手を置き、上目遣いになるような形でアタシを見る。
「で、でも……」
「いいんだよ、気にする事はない。アタシらが何とかするから、ゆりのと後輩の友達と一緒に楽しむマヨ!」
先輩はそう言って、にこやかな笑顔を浮かべる。
そっか……確かに、女幽霊も黒マントもこれで一応解決したし、先輩方がそこまで気を遣ってくれてるのだったら……ここはそれに甘えるべきだよね。
「っ、分かりました! それじゃ、アタシはみこちゃんを連れて、部室に向かわせて頂きたいと思います!」
ずっとアタシに寄り掛かっていたみこちゃん(安心しちゃってもはや寝てないこの子?)から離れて、みこちゃんの手をとる。
「ゆっくり立ってね」
「ん……わかってゃ」
手を取られたみこちゃんはゆっくりと立ち上がり、スカートについた埃やらを払う。
「ありがとひかりっ。助かった」
「どういたしまして♪」
「優見沢先輩、守ってくれてありがとうございました。本当に感謝しています」
「萌奈先輩、色々とお世話してくれてありがとうございました! 後でジュース買いますねぇ♪ それでは!」
2人でペコリと頭を下げてお礼をする。それから、先輩に心配を掛けまいと、ニッコニコな笑顔で別れを告げる。
「おう! 気を付けて部室に行くマヨ! じゃあなマヨ!」
萌奈先輩はキリっとした表情でアタシを見送り、女幽霊をどこかに連れていこうとしていた。
行き先は気になるけど、とりあえず今は部室に行きますか……。
○●○●
その依頼者は、アタシ達に向かって自己紹介をした。
「ぼくは『宮古園 優美』」
「あたし! 『優波 はる』!」
「この板? みたいな物が第2棟にあったから、ぼく達と一緒に持ち主を探して欲しいのです」