第6話
今回はいつもと違った展開が続きます。お読みになる際は、ご注意してお読み下さい。
走ってきた! 女幽霊はさっきの黒マントより遠い位置に居るっ。けどっ、あのスピードだとすぐにやられる!
黒マントは後回し! 今はとりあえず、みこちゃんを守らなきゃ!
アタシはみこちゃんの後ろ側に立ち、鞄を体の前に持ってきて守りの体勢を取る。
シャーペンくらいなら、鞄でどうにかなる!
「え! な、なにあれ! あっ……ひかりっ! 危ない!!」
女幽霊はアタシの目の前まで接近し、シャーペンを振り下ろそうとその腕を高く掲げていた。
うっ……! 流石にこれは怖い! どうしよう、変なやり方で振り下ろしてきたら、アタシ怪我しちゃう?
まっ、待って! 怖いよやめようよ! ねぇ! ちょっ、わわわ! が、ガードガードガードーー!!!
アタシの中の時間がゆっくりと流れて、走馬灯を見ているかのような気分になった。恐らくこれは、自分がいつも心に留めていた事なのだと思う。
自分の身に何かあったら、後悔をしないように動く。深くは考えていないが、アタシの根底にあるのはその考えなのかもしれない。
きっとそれが、今ここで出ているのだろうね。みこちゃんの笑顔や優莉乃先輩との出会い、それを思い出していた。
一瞬の時間で、こんなに色々と出てくるなんて、アタシも凄く面白い女の子だね。ホント。そういや先輩にも、なんだか大事にしてる親友がいるって言ってたな。
その人にも会ってみたかったな……。
女幽霊はそのシャーペンをアタシに、今、振り下ろそうとしていた。
ポォンッ!!!!
爽快で軽快な高音が鳴り響いた直後、女幽霊の腕に何かが当たっていた。
それは――テニスボールだった。
「んぐっ!!」
腕に痛みが走ったのか、女幽霊はシャーペンを落としてテニスボールが放たれた方向を睨んでいた。
「なんだいなんだいなんだい?? そぉんな物騒な物振り回しちゃってさぁ! マァジこわマヨ! ――後輩! あっしが来たからには、もう〜大丈夫マヨ!」
黒髪のミディアムヘアーが宙を舞う。頭にはハチマキが、右手にはテニスラケットが、その姿と口調にアタシは見覚えがあった。
あれは……あ、あ、あにゅう!!!!! 萌奈先輩!!
第2棟のすぐ近くから現れたのは、ニッセン部の先輩である『優見沢 萌奈先輩』だった。
わぁぁぁぁ! チョーーかっこいいヒーローの登場の仕方しますねぇ先輩ぃ!!
これはちょっと……優莉乃先輩も危ういですねぇ? なんちゃって☆
「右手にシャーペン持って、左手に日記ですかぁ。なぁに考えてんだかぁホント。あんたが右利きだってんなら、威力の弱まる左手で襲えってんだこの黒マスク!」
何言ってるかよく分かんないけど、チョーーかっこいい!
「優見沢先輩なの……? 助けに来てくれたの……? ひ、ひかりはっ? どこにいるの!?」
みこちゃんが地面に座り込みながら、萌奈先輩とアタシの名前を呼ぶ。
「みこちゃん! 大丈夫っ、アタシはここに居るよ! それにっ、萌奈先輩も来たからもう安心だよ! そうだみこちゃん、立てる?」
みこちゃんをぎゅっと抱き締めてから、彼女の手を取って立ち上がる手助けをした。
「どうしよう……ひかりぃ」
「萌奈先輩の後ろにいて! きっとあの人なら大丈夫。だって、暴漢でも倒せそうな人なんだからね! 分かった? しっかりと先輩の言う事聞くんだよ?」
「……うんっ。わかってゃ」
「うんうんっ。今日も可愛いみこちゃんだね♪ 大好きだよ……それじゃまた後で!」
みこちゃんを再び抱き締めて、背中を軽くさすった。これで大丈夫!
「萌奈先輩! みこちゃん頼みましたよ!」
「言われなくてもっ、こっ、ちはっ! やってるよぉぉ!」
萌奈先輩は、女幽霊と激しい戦闘をしていた。アクション映画さながらの動きで、女幽霊の猛攻をかわす先輩。
す、すっごぉい! 右っ左っ下っと、パンチを避けてる! んてか、幽霊がパンチとか現実的すぎて夢が無いですね。
「せぇぇい!」
萌奈先輩の掛け声と共に、縦にしたラケットが右から左へと薙ぎ払われる。
危ないから良い子の皆は真似しないでね☆
「いったい! くそ……なんのつもりだ」
女幽霊から、意味深な発言が飛び出した。
その発言の原因となったのは、アタシ達から見た時の女幽霊の右腕にストリングが当たっていたからだと思う。
腕には跡がついていた。妙に痛がっている様子だが、何故そんなに痛いのか分からない。
ん……そうか。さっきの、テニスボールの当たった箇所が痣になってるのか!
でもなんだろう。なんだか、変に違和感を覚える。この違和感は……。
「何してるんだ! 早く黒マントを追えよ!」
はっ! そ、そうだ! 美実先輩がヤバいかもしれない!
「助けてぇんだろ! 女幽霊もお前の友達もどうにかするから後輩っ、お前は早くいくマヨ!」
「わ、分かりました! よろしくお願い致します!」
萌奈先輩にその場を任せ、アタシは第2の校舎裏に向かって走り出した。
走りながらアタシは考える。なんだかアタシの中に、取り除けない変なモヤモヤがある――さっきからずっとそう感じていた。
胸に取り付いて離れない、何かが。
今日はなんだか変だ。よく考えれば、いやこれはよく考えなくても変だ。
全ての出来事の適応力が、何故こんなに高い? アタシも、周りも。何故だ?
……とりあえず今は美実先輩だ。あの人をどうにかしないと!
「センター、センター」
聞こえた! まさかまだいたのか!?
第2棟はL字形になっていて、2回左に曲がって先輩の安否を確かめる必要がある。
だけど、あの黒マントが居るとなれば、少し曲がり方を変えないといけない。
小回りではなく、大回りをして曲がる!
アタシは右足を思いっ切り踏み込み、曲がり角を全速力で走り抜ける。
あっ、ま、待った! もしかしたら人にぶつかるかも!
アタシは急ブレーキをして、立ち止まる。立ち止まったせいか、心臓の鼓動が脈打ってるのが痛いほど伝わってきた。
くぅ! 気にしないよ気にしない。――さぁ! 黒マントよ出てこい!
人が出てきて衝突しない事を確認したアタシは、校舎裏まで走った。
「っ……!? 誰も、居ない?」
辺りを見回しても、人っ子一人いない。じゃあ、あの声は聞き間違いだった?
それとも、黒マントは人間じゃなかった?
「あれ……ひかりちゃんだ……。何してるの……?」
声のする方向を見ると、そこには美実先輩が立っていた。
「み、美実先輩!? どこに居たんですか!? アタシさっきキョロキョロしてたけど、どこにもいませんでしたよ!? てか、さっき黒マント被ってセンターセンター言ってる人見ませんでした!?」
「え……そんな人いたかな……。う〜ん……見てないよ、みみは。あ、あとね……みみはさっきまでそこに居たんだよ」
美実先輩が指差した方向を見ると、そこには見覚えのある物が置いてあった。
「あれは――――」