第5話
謎は深まりますが、ひかりとみこの楽しい掛け合いは健在です。気楽に楽しんで頂けると幸いです。
「昔々ある所に、恋い焦がれる1人の女子高生が居ました。そのJKは、来る日も来る日も、恋をしていました。しかし、決してその恋は実る事はないのだと、彼女は知っていましたぁたぁ」
神妙な趣で話を始める深優希先輩。あにゅう……これもしかして、ホラーなお話ですか?
アタシ、怖いのそんなに得意じゃないよぉ。
「それで、果恋先輩。どうして彼女は恋が実らないと知っていたんですか? ウルトラ気になります」
みこちゃんは、恐怖と歓喜の入り混じった表情で、深優希先輩に問いかけた。
「気になるぅ〜? そうだねぇ、彼女が恋をしていた相手というのはずばり、同性だったのさ。女の子が女の子に恋をしたって訳ぇけぇ」
指でハートを作りながら、お茶目な表情でアタシ達にそれを差し出す深優希先輩。
「だけど彼女は、恋が実らない事をマイナス事項として捉えてはいませんでした。むしろそれをプラス事項としていたのです! それは何故か。彼女は、愛してやまないそのお相手と、ずっと一緒に居れると思ったからですぅすぅ」
先輩はその彼女に入り込んだかのように、恋い焦がれる表情をしながら、合わせた両手で頬ずりをした。
「しかしっ。彼女のプラス事項は、そう長くは続かなかったのです……」
先輩にスポットライトが当たり、膝を付き、涙を流し、天を仰ぐ。
なんだろう。幽霊というから怖い物だと思って聞いてるのに、先輩の茶番劇のおかげで怖くないや。ありがと先輩☆
「意中の相手から、彼女はこう告げられてしまったのだ。『私、彼氏が出来ちゃったんだ〜♪』と。彼女は絶望した、まるで彼女を見放すかのように、あざ笑うかのように、意中の相手は嬉しそうに彼氏の話を続けた」
みこちゃんは、ずっと真剣な表情で話を聞いていた。かくいうアタシが真剣じゃないかと言われたら、さっきまではそうだった。が、今は変わっている。
なんとなく、この後にくる展開が、残酷な展開が予想されたからなのだ。あにゅう。
「彼女は、彼氏が出来たとしても、ずっと一緒に居れるから関係ない。そう思っていました。しかし実際にその場を目の当たりにすると、彼女の心がその事実に耐えきれないという事を知りました」
先輩は立ち上がる。
「彼女は意中の友達に"さよなら"と告げ、1人学校に戻り、日記に想いの丈を綴りました。その次に、本を読みました。意中の友達も大好きだった恋愛の本です。それも読み終えると、彼女は立ち上がってこう呟きました」
アタシとみこちゃんは、かなり真剣な表情で話を聞いていた。
「『優しい人なんて、この世に居たのだろうか。そんな人が居れば、私は孤独にならずに済んだのだろうか? この世界は……冷たい』と」
その言葉通り、世界を憎むような表情をしている先輩。いや、なんだろう。もはや憎しみを通り越して、世界を俯瞰し、呆れている。そんな表情にも見えた。
「その言葉を最後に、彼女は自らの命を絶ちました。意中の友達がそれを知ったのは、翌日の事。彼女の亡骸は、日記を抱えていました。友達はその日記の中身を見ました。内容は……」
先輩が、こちらをゆっくりと振り向く。アタシは生唾をゴクリと飲む。
「『○○ちゃん愛してるよ。好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き』という物でした。それ以降、その少女の幽霊が、日記を抱え、好き好き呟きながら、女の子への愛を求め、学校中をさまよい歩くようになりましたとさ――」
こ、こ、こ、こぉぉぉんわっ。えっ、待って。普通に怖っ。切ないし怖いし、えっ怖っ。
「そう……こんな風にだよぉよぉ!!」
ビビり散らかしてたアタシ達に、突然抱きついてきた深優希先輩。2人同時に抱きつけるのは器用過ぎる。
「わっ! う、ウルトラびっくりしたよ先輩! ちょっ、ひゃっ。らめっくすぐらないで下さいよもうぅ!」
はっ! みこちゃんが可愛らしいお声とお顔をしている! あにゅう! アタシが抱きつかれていなかったら、写真を撮る事が出来たのにぃ!
「むっふっふぅ! 先輩は可愛い後輩ちゃんを愛でる事が出来るという権利があるのだよ! へへぇ〜。2人共良い匂いするし、反応が可愛いねぇねぇ」
「先輩! アタシは別に先輩のコチョコチョとか、そんなのに動じませんからね! 優谷ひかりは、そんなのでへこたれるヤワな女じゃな――ひゃうっ! らめっ、そんなとこコチョコチョしちゃ! あにゅうぅ!」
我ながら恥ずかしすぎるぅ! なんて情けない声を出してるのよアタシぃ! このスケベ先輩めぇ〜。アタシが目に物見せて、"えへぇっ"てさせてやる!
「か、可愛いからって! そんな調子に乗っちゃだ、だ……"えへぇ"先輩から良い匂いが♪」
アタシが"えへぇっ"てしてどうすんだぁぁぁぁぁ!!!!!
「むっふっふー。本当に2人共可愛すぎだよぉ! お姉さん、いっぱい可愛がってあげたくなっちゃうなぁ! へっへぇへぇ!」
お姉さんと子供っぽさの両属性を持つあなたに言われると、なんだか不思議な気分ですね。
「こら! あなた達。そんな所で何やってるの! 用がないなら早く帰りなさい!」
アタシ達の声がうるさかったのか、職員室から知らない先生が出てきて注意をしてきた。
まぁ確かに、職員室の周りでこんな事を繰り広げていたらそうなるよね……。
「す、すみませぇん! すぐ帰ります!」
深優希先輩が謝る。アタシ達も『すみません』と一緒に頭を下げてから、玄関に向かっていく。
「ごめんねぇ〜みゆきのせいで。後でなんかジュースおごるから、それで勘弁してね? じゃっ! 私はそういう事でおさらばするのだよ! 部活でまた会おうねぇねぇ〜!」
と、一旦立ち去ろうとした先輩だったが、すぐにこちらを振り向いてきた。
「さっきの話、誰かに話しちゃうと良くないらしいから、他言無用って事にしといてね! それじゃあじゃあ!」
可愛らしく手を振り、先輩は去っていった。まるで嵐が過ぎ去ったかのように、アタシ達は平穏を取り戻した。
てか、あの話ってしちゃダメなんだ。怖いよぉ、あにゅう。
玄関で靴を履き替え、再び第2棟に向かう。ちなみに、第1から第2までは中庭のような場所になっていて、第2の西側には校庭がある。
上空から学校を見ると、見取り図は以下のようになる。
縦長校舎の第1は右下の端っこ、L字形校舎の第2が左寄りの真ん中、第2と第1の間が中庭のような場所、左上は校庭、その下がプール。
ほぼ真ん中には体育館、上が先生の駐車場及び生徒と先生兼用の駐輪場。
多分こんな感じになると思う。説明下手でごめんね!
てな訳で、アタシ達は今その中庭を歩いている訳ですよ。
あ、更にちなみに、美実先輩が居た第2の校舎裏って、校庭側って事だからねっ。
「そういえばひかり、美実先輩は大丈夫かな? もしかしたら、変な事に巻き込まれてるかもしれないよね。ウルトラ心配だからまた見に行かない?」
「うっ……やっぱ、それ考えてた……? はぁ。あ〜、怖いけどなぁ。行くしかないかぁ。うううううよしっ! 優谷ひかり! 先輩を助けに行くぞぉ! おお!」
じゃあ、アタシ達は第2の校舎裏に行きますか!!
「さぁ! みこちゃん! 先輩の未来はアタシ達に掛かってるんだから、頑張って救出しちゃうよ!」
「さ、さっきまで嫌がってたのに……。っ、まぁ。それがひかりの面白い所か。ははっ。やっぱひかりはウルトラ最高だよ」
「あにゅにゅにゅ☆」
「あ、あのさ。こう言ったらあれかもしれないんだけど、なんかうちら、ずっと誰かに見られてる感じしない?」
小走りしながら、みこちゃんが問いかけてくる。
「えー? そんな感じしなくない? もしかしてさぁみこちゃん、さっきの女幽霊さんの話を聞いて怖くなっちゃったとかぁ??」
「ち、違うよ! あ、あんなので怖くなる訳ないじゃんバカっ! それとは違う、なんか……違うなんかだよっ」
ほほう。慌てて顔を赤らめる辺り、怖かったんですなぁ。やっぱりアタシの親友可愛すぎるよね、あにゅっ☆
「まぁまぁ、そんな誰かに見られてるとかもあり得ないし、ちょっとは怖いのから卒業しなきゃだ――」
カラカラカラっ。
「え……な、なにあれ?」
誰ですか、こんな時にドラマやアニメで言いそうな台詞を口走ってるのは。
だけど、その声がアタシの口から発せられた物だと知るのは、少し経ってからである。
それほどまでに、自分が声を発した事を忘れるほどに、目の前に現れた物が異様だったのだ。
『センター、センター』
黒マントを被ったそれは、ラインカーを持ち歩きながら、ゆっくりと歩いていた。
あっ、あっ、あっ、あにゅう!! なにあれ! えっ? はっ? んっ? むりむりむりむりむり!! 怖いよあれ!!
「ひかり……何あれ」
震える声で、みこちゃんが呟いた。そりゃそうだ。化け物や宇宙人の類い、或いはアタシ達の見間違いなら、そこまで問題じゃないであろう。
だけど、きっとその説は濃厚じゃない。だとすると、目の前に居るのは人間という事になる。
だが、人間であれば、あんな事をしているのは相当な不審者だ。つまり何が言いたいかと言うと、あれは確実に危険な存在だという事。
そうこう考えている内に、その黒マントはこちらを振り向いた。
顔に何かがある。目の前とは言うが、実際には10m程は離れているので、よくは見えないが、変なお面を被っていた。一層その存在を不気味にさせる――そんなお面だ。
「あ゛っ、振り向いたっっ! どうしようひかりぃ゛!」
「お、落ち着いてみこちゃん! 大丈夫、アタシが守るから!」
アタシはみこちゃんの前に立ち、守るようなポーズを取る。
だが、アタシ達の予想に反して、黒マントは血気盛んではなかった。
そのまま、第2の校舎裏に逃げていっちゃったのだ。
「あっ、行っちゃった。…………っ! もし美実先輩があそこにまだ居たら!?」
「えっ? でもひかり、あんなのとどうやって戦うの? 先生に言いに行こうよ……」
「じゃあ、アタシが1人で行く! みこちゃんは、先生に言ってきて!」
「で、でも! それじゃひかりが……」
ダメだ。震えが凄いし、怯えきっている。まずはみこちゃんをなだめないと。
みこちゃんをなだめようとしたその時、その後方にまたとんでもない物を発見した。
『好き……好き……好き……』
あっ……あっ……あれは…………。
『愛してる。好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き』
"告白魔の女幽霊"!!
「あにゅう! な、何が起こってるの!!」
女幽霊は、アタシ達に向かって走り出した。その手には、切っ先の尖っているシャーペンが握られていた。