第4話
謎が増えてきて、日常青春とは? という展開になってますが、大筋は女の子同士の掛け合いとギャグなので、気楽に楽しんで頂けると幸いです。
〈部活に行く少し前にまた遡る〉
アタシとみこちゃんは、美実先輩達にバレないよう必死に走った。もちろん、向かった先は第1棟である。
いやぁ〜ほんっと危なかったね。色々と。
「息切らしてるみたいだけど大丈夫? ひかり」
背中をさすって心配してくれるみこちゃん。あにゅぅぅぅ天使がいるぅぅぅ。
「チョーー大丈夫だよっ。みこちゃんこそ大丈夫?」
「うちはウルトラ問題ないよ、ありがと。てか、さっきはごめん……くしゃみしたいって気付けなくて。後、放送が無かったらヤバかったかもだし、ひかりの機転が効いてなかったらもっとヤバかったかもだよ」
真剣な表情で、"くしゃみに気付けなくてごめん"というパワーワードを放つみこちゃんを見て笑いが込み上げてきそうになるが、今は失礼だからやめておこう。
「あっ、いやいやいやっ。チョーーそんな事ないよっ? まず、あの状況事態が意味分からないし、アタシがくしゃみしなければ良かった訳だし、大丈夫っ!」
「ほんと……? ぐすっ、信じるよ……?」
ちょちょちょ、そんなうるうるした瞳で見られたらアタシの心臓の鼓動が速まるじゃないですか……。
バクバクバクバク。
バクバクバクバクじゃないわよ心臓ちゃん! 普通の鼓動とは常軌を逸してるのよ! 明らかにテンポ早いのよ!
このテンポは完全にシャトルランで300周越えた辺りぐらいのテンポなのよ! アタシ体育の成績2なんだけど!? 死にたいのアタシ!? とりま落ち着いてチルダウンしようよあにゅう!
「あっ、そういえばひかりさ、放送が鳴った時になんで1棟まで走ろうと思ったの?」
いや切り替え早っ。はいカットーってなってそおぉんなすぐ涙引っ込められる? 大女優みこ?
ま、まぁいいか。確かにそれは教えないとね。
「いいかいみこちゃん? アタシはこう思ったのさ。もし美実先輩達に気付かれたとしても、"今の放送を聞いたアタシ達が慌てて第1棟に向かった"」
得意げに名探偵のような立ち振る舞いをして、生意気にみこちゃんに推理を披露する。
「と、彼女達の目に映り"話を聞かれた訳では無かったのか、なら良かった"。そう思わせられるに違いないとアタシは推測したのさぁ!」
「お、おぉー!! やっぱひかりは凄いね! ウルトラ名探偵じゃんか!」
えへへ〜。どういたしまして〜あにゅうにゅー。まぁでも、他にも理由はあるんだけどね〜。
それは何かって? えぇと〜……なんかあの場に居るのもヤバいかなって思っちゃったのですよねぇ! だから逃げちゃった☆ あにゅ☆
とはいえ、色々と疑問に残る展開でしたな……事実は小説よりも奇なりですなホント。まぁ、アタシのいるこの世界が現実ではない可能性だってあるのですがね。
例えばアタシが! 小説の中の主人公とか! っ…………なんかメタい感じなのは気のせいかな。
「それにしてもさ。な〜んか色々と、展開が怒涛過ぎてヤバかったよね。ウルトラ頭が追いつかないようちは」
第1棟の玄関で外履きから上履きに履き替えていたアタシに、もう準備万端で待ってくれているみこちゃんがため息をつきながら言った。
「本当にそうだったね〜。ごめんねみこちゃん、少ししか会話聞いてないのに、こっちまで引っ張ってきちゃって」
上履きに履き替えたアタシは、つま先をリズミカルに地面に軽く突きつける。右足、それから左足と。
よし、これで上履きは足にすっぽりハマりましたと。
「いや、いいんだよ。美実先輩のあの感じだと、なんか聞いちゃいけない話みたいだったしね。それに、うちが放送で呼ばれたのが悪いんだから、ひかりは謝らなくていいよ」
アタシの一連の動作を見ながら、みこちゃんは優しい笑顔でそう言ってくれた。
あにゅう!! みこちゃんチョーー優しい好き!!
「みこちゃん好き! やっぱり今夜は君と一緒に寝るよぉ! あにゅう!」
「こっ、こら! だから学校では抱きつくなってば! も、もう! ウルトラ恥ずかしいよっ、か、可愛いけどさ……」
「えっ!? 今可愛いって言った!?」
「あっ、ちっ違う! いや、ちがくはないけど……。と、とりあえずっ、部活もあるんだから、ウルトラ早く職員室に行って要件済ませるよ!」
ほほ〜。照れてますなぁこれは。あにゅにゅにゅ。これはとてもとても映えてますなぁ。
幼馴染の親友にしか見えない可愛い側面が見え隠れしてて最高ですなぁ。あにゅにゅにゅ。
「もう〜しょうがない子だなぁみこちゃんは☆ じゃ、職員室いこっか」
職員室まではそう遠くない。気が遠くなる作業じゃなくて良かったよぉ。
「ひかり、さっきの話の続きなんだけど……」
「ん? なになにみこちゃん。あっ、もしかして美実先輩の話?」
「そう。改めて考えてみても、先輩が挙動不審に行動して、何故あんな場所で密会してたのか、ウルトラさっぱりでさ」
「あ〜確かにそうだよね。でも美実先輩ってさ、静かでおしとやかっていうか、3点リーダーめっちゃ使って喋る感じっていうか。そんな感じするからアタシ的にあんまり違和感ないんだよね」
「ほんとに? それにしては少し動きがウルトラ怪しすぎじゃなかった? まるで何かを抱えているというか、大事件に巻き込まれているというか」
「え〜? みこちゃんの考え過ぎとかじゃないかなぁ。もしかしたら、ニッセン部の活動の考え事をしてただけかもやもしれないし〜?」
「それなら心配はないんだけどね……」
「みこちゃんっ、職員室着いたよ」
「あっ、うん。じゃあ一緒に入ろうか」
みこちゃんは職員室をノックし『失礼します。1年A組の麻優宮みこです。放送を聞いて職員室に来ました』と、丁寧な挨拶で職員室に入る。
アタシはそれに便乗し、同じように挨拶をする。テキトーに言って怒られるのも怖いからね。
余談ですが、どうでもいい感情を表現する時にテキトーという風に皆使うじゃないですか。でも元々は、適当という言葉でその物事に当てはまるという意味で使われてたはずなんですよ。
どうしてか言葉という物は、勝手に独り歩きして何もかもの意味が変化してしまうという宿命を背負いがちですよねぇ。
いやはや、アタシはなんだか少し悲し――。
「ごめんなさぁい! みゆきが間違えて、みこちゃんを呼んじゃったんです!」
ん? この声は……果恋 深優希先輩の声じゃないですか。
「あっ、えっと。果恋先輩が間違えて呼んじゃったんですか? じゃあ、うちは何かやらなきゃいけないとか、そういうのは無いって事で良いんですか?」
アタシが1人で謎の考え事をしていた間に、職員室の入口付近には深優希先輩とアタシの知らない女の先生、アタシ達が集まっていた。
あれ? いつの間にこんな大勢に?
「え、えぇ。果恋さんがいきなり『至急放送したい事があるので、貸して下さい!』と言ってきたから、私は彼女にやらせたのよ。でも、2分後ぐらいに――」
「みゆきがね、色々と勘違いをしてた事に気付いたの。だから、先生にさっき謝ったんだぁ。ごめんなさい! 急に貸してもらった上に、勘違いで放送してしまって! ってね」
「そうでしたか。そういう事なら、了解です。果恋先輩も、あまり自分を責めないで下さいね? それじゃ、うちらは部室に行きますんで、後よろしくお願いします」
おっ、おぉ……。大人な皆が、アタシを置いてけぼりにして話を進めていく……。
てかなんなら今終わったね。うん。みこちゃん終わらせたね。
なんだぁ〜。なんかワクワクなイベントでもあると思ったのに。ま、部活行けるからいっか!
うわぁ、てかまさかここで、この先輩に会うとは。
この明るく可愛らしいかつ少し大人な声で話し掛けてきた少女――果恋 深優希は、ニッセン部におけるアタシ達の先輩。
夏ノ目心高校の2年生である。
青髪ツインテール、ぱっつん前髪、ぱっちり2重に大きな目、ボン・キュッ・ボンのスタイルの良い体型。
ミニスカで白のニーハイを履いている。身長は確か……160cmだったと思う。
先程も言ったように、声だけでなく性格も可愛さと大人っぽさが混在していて、男子からも女子からも支持を得そうな人物なんだよね。
「了解です。じゃあ、皆気を付けて帰ってね」
「「「分かりました! 失礼しました!」」」
アタシ達3人は、職員室を元気よく退出していく。
「あれ? 果恋先輩も職員室から出ちゃうんですか?」
みこちゃんが深優希先輩にそう言うと、先輩は苦笑しながら答えた。
「えへへ……。まぁ良いんだぁだぁよ。2人は気にしなくてね。あっそうそう。2人はこんな噂、聞いた事ある?」
「えっ? 噂? なんですかそれチョーー気になる! ねっ、みこちゃん!」
「え、あっうん。ウルトラ少し気になる」
アタシ達がそう答えると、深優希先輩は少しいじわるそうな不敵な笑みを浮かべてこう言った。
『これはね、"放課後に現れる告白魔の女幽霊の話"だよ――』