第3話
女の子達による日常青春物ですが、もっぱらミステリーっぽい展開が続きます。さぁ、次はどうなる。
騙す!? 今……騙すって言いました!? えっ、なにその急なミステリーというかスパイというかなんというかエトセトラ!!
なになになにぃーーー! ホワッツゴーイングオン!? あにゅっつゴーイングあにゅー!?
…………ちょっとアタシうるさいな。一旦落ち着くか。
美実先輩に今何が起きてるんだろう? 不良にでも絡まれてるってこと? えぇ……だとしたら大変だけど、ちょっと怖いなぁ。
もしくは、悪い頼み事ではないのだけど、それが美実先輩的には許容できない範囲の物だったとか?
んん? なんだかよく分からなくなってきたぞ……。でもなんか、話し相手の人ぼくって言ってたような……。
ぼく? あれっなんかアタシ、そんなのをどこかで聞いた事あったような。
アタシの口を抑えているみこちゃんの手の上に、アタシの手を重ねて考え込む。あれだ。名探偵が推理する時に顎に手をやるあれの真似。
「ひゃっ、なんでうちの手を掴むのよぉひかり(小声)」
なになにみこちゃん、アタシの可愛い可愛いおててが触れたからって〜そんな子犬ちゃんみたいな声出しちゃって〜☆
ほんっっっとーにチョーー可愛いなぁみこちゃんは☆
と、心の中でふざけていたアタシだが、みこちゃんの手がなんだかヤケにしめっぽい事に気が付いた。
それと同時に、アタシは鼻に妙な違和感があることを覚える。
更にいえば、その違和感から予想される未来を頭の中に描き出す事も出来た。そうだ。あれはトリハダモノの恐怖だ。
その…………。これってもしかしてあのぉ――。
『くしゃみ出るやつじゃね????』
は、はぁぁぁぁぁ!!? こぉっんな大事な場面でくしゃみ出そうとかあるぅ!?
ダメだよぉぉぉ!!!! 今くしゃみが出たら確実にバレる気がするー! なんかっ、そういうフラグな気がするぅーーー!!
えっどうしよう。どうする? どうしちゃう? くしゃみしてDoしちゃう? ハハっ☆ ってつまらんダジャレでふざけてる場合じゃないのよ優谷ひかりぃ!!!
えっと……ま、まずはみこちゃんの手を口から遠ざけさせよう。この子の手汗が原因で鼻がかゆい気がするし。うん。
も、もしかしたらさ? それがなくなったらかゆみも止まるんじゃないかなぁ〜って気もするじゃないですかぁ? よし! みこちゃんにまずは言おう!
アタシはみこちゃんの手をツンツンしてから、口から離してよー! ってジェスチャーをしてみる。
「ひかり? もしかして、手を離してもらいたいの? 分かった、離すね(小声)」
そうそう。そうやってアタシの口から手を離してもらえればそれでおーk――。
その瞬間、彼女はアタシの鼻と口を撫でるように手を動かし始めた。
いやちがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁう!!!!!!!!
そのまま鼻から手を離せぇぇぇぇぇぇ!!!! アタシの鼻を推定1000億の価値でもありそうな世界的な宝みたいに扱うなぁぁぁぁぁ!!!!!!
チョーーかゆいわぁ!!!!
ね? そのままパッと離してくれないかな?? ねぇ☆
あなたの手汗が原因でアタシは鼻がかゆいんですけど(苦笑)。
ねぇ? なんで? どうして? いつも常識人なのにどうしてこんな場面だけ発想が飛ぶのぉ?
なんで? ねぇえぇぇえぇ(音程の上下が激しい心の声)?
何故なんだろうねぇ〜。お茶目なんだろうねぇ〜。
可愛いよ? うん。
親友だからチョーー可愛いくて癒やされるけど、今は違うかなぁ☆
そうツッコミを入れてる間にも、みこちゃんの手はゆっくりと動いており、それはまだ鼻の付近にあった。
いや遅くね??? ごめん、あの……オソクネ????
ねぇちょマジ、やばいっ、くしゃみ出るって。尾行して聞き耳立ててたのバレるって。
マジであの人が不良だったらどうする?
え、アタシ人生詰んだ? えっこれ詰んでるよね? 詰みゲーじゃね?
あぁぁぁ優莉乃先輩…………アタシ、先輩と仲良くなれずに終わってしまうんですねぇ……。
あっ、ダメだ。みこちゃんの手が口から離れたけど、普通にもーかゆくてくしゃみ出るわこれ。あー。
もうオワタ。皆ぁ……どうか私のこと忘れないでいへっ、へっ、へっっっっ。
【キーンコーンカーンコーン】
くしゅん!!!!!
【1年B組『麻優宮みこ』さん。至急、職員室までお越しください】
えっ……なにこれ? まさかの奇跡起きちゃった? よ……良かったぁぁぁぁ(泣)。これで、バレずに済むぅぅぅ。っ、待って。急がないと!
アタシはみこちゃんの手を掴み、なりふり構わず走り出した。
みこちゃんは少し驚いた様子だったけど、とりあえず"喋っちゃダメっ"てポーズを見せて彼女に自分の意識を伝達させる。
コクリとうなずいてくれましたね。良かったぁ〜さすがアタシの親友(心でガッツポーズ)!
幸い、走り出した時にはまだ放送が終わってなかったので、足音には気付かれずに済んだ。と……思いたいっ。あにゅう。
とにかく今は、職員室に急がなきゃ――!
○●○●
〈部活の時に戻る〉
「という事がありましてですねぇ〜、美実先輩に関する事はざっとこんな感じです」
「そ、そうなのね……不可思議で危険というから身構えてしまったけど、美実が何かで悩んでるという事が分かって、とりあえずは良かったわ」
「へへぇ〜。と、言いましても……まだその、不可思議で危険なお話はしてないのです……てへっ」
アタシは頭の後ろに手を置いて、20年くらい前の萌えキャラがやってそうなテヘってポーズをしてみせた。
そう、あれだよ? 舌を出してやるやつ。
――って、何してるんだろアタシ。優莉乃先輩、こんなんで和む訳ないのに……。
「それにしても、なんでそんな大事な話を私にしてくれなかったの? ひかり」
うっ……そうですよね。アタシがおふざけテンションで言っても、そうなりますよね……。
「早く言ってくれてたら……君との楽しい部活を中断しなくて済んだかもしれないのに。――ごめんっ、つい君を想うあまりに取り乱したわ。続きを聞かせてちょうだい」
寂しいような怒ってるような、複雑な表情でアタシを見つめる優莉乃先輩。
そして、その表情の中には――厳密には心の奥底には、アタシを含めた部員への愛情が込められている気がした。
「ご、ごめんなさい先輩。その……今はまだ言えないです。なので、この後のお話が終わってから、先輩に納得してもらえるように頑張ります……」
「……そうなんだね。ふふっ、しょうがないなぁ。これ以上、私が取り乱してもどうしようもないしね」
「あっ、ありがとうございます! うっ、うぅ〜」
深くお辞儀した後、もはや慈愛とも呼べる優莉乃先輩の優しさに、ついほろっと涙をこぼしてしまったアタシ。
「あぁもうほらほら、泣かない泣かない。私も少々キツく言い過ぎてしまったからね。大丈夫だよ、ひかりなら話せるっ、ね?」
「ずびっ、ん」
「くはぁぁぁカワユイィィ!!! なんだねその両手を可愛く丸めて上目遣いで見つめてくぅるっやぁぁつぅーー!!! ヤッツー!♪ ヤッツー!♪」
あ、あにゅう。「ん」は、単純にしゃっくりみたいな感じで出ちゃっただけだったけど……。
先輩は気分良さそうだし、これでとりあえず進めますか(ニコニコ)。
「とりあえず、先程の話の続き、聞かせてもらえないかな? 不可思議で危険って、私個人としても大変興味深い話なんだよね」
体をクネクネさせて、悶絶(?)していた先輩の心が落ち着いたらしく、話の続きを聞きたがっていた。
それにしても、うわぁ〜。あれを説明するのかぁ〜。色々と難しそうですなぁ〜。
黙って体をくねらせているアタシを見た優莉乃先輩は、何をもじもじしているんだい? とでも思っていそうな顔で、首を傾げる。
アタシは顔を上げ、先輩の顔を見つめた。
「黒色のマントに謎のお面をした人物が『センターセンター』って言いながら、ラインカーを持って歩いていたんです――」