第2話
日常青春物ですが、ミステリーっぽい要素が続きます。お気を付け下さい。
彼女の名前は『煩 稲毛』。エセ英語ウーマンというあだ名を付けられ(しかも先生公認)、生徒からイジられたりしている英語担当の教師。
何だかんだで面倒見が良かったりする噂を聞くので、煩先生を支持する生徒も居たりするんだけど……。
名前やら口調やらの癖が強いし、授業も凄く厳しい。だから、先生に対して本気でムキーってなってる生徒も居たりする。
ちなみにアタシは、授業中にトイレに行こうとしたらこう言われたよ。
『何事もっ、前準備が必要デェイス。お手洗いに行きたくなるかもって想定して先に済ませておくべきデェイス。優谷さん。イエスっ、マイナスポーイント。牛乳飲みなさぁい』
って感じで減点されたんです……あにゅう。
良いじゃん。生理現象だよ? 想定するのなんてチョーー難しいんだよおぉう! てか……牛乳飲めってドユコトッ。
「っ、煩先生。部長がちゃんと許可を貰いに行った筈では?」
煩先生を見ながら、ボーっと立ち尽くしてしまっていたアタシに代わって、優莉乃先輩が先生に話を切り出す。
確かに……。部長である『優木 美実』先輩が許可を申請した筈。アタシも、美実先輩が許可を貰ったのを確認したのに。
あにゅう……どーゆー事なんだろう。
「ワッツ? うーん……おかしいですね、職員室には活動許可証等は届いておりまセーヌヨ?」
煩先生は、不思議そうに首を傾げていた……。ストレートでキレイに纏まった赤髪のミディアムヘアが、揺れる。前髪を分けたセンターパートは、癖の強い雰囲気と対象的な美しさを醸し出していた。
煩先生ってイジられてるけど、顔はメチャクチャ美人なんだよねぇ……。癖強な上に気も強そうだから、美人である事を忘れさせちゃうけど……。
っ……それよりも、なんでアタシ達の許可証がないんだろう。それが疑問だ。
「あれぇ……じゃあ、美実が持ってきた生徒控え用の許可証って……。間違い? それとも……ニセモノ?」
優莉乃先輩が、肩を叩いて考えていた。考える仕草はかなり独特だけど、先輩の洞察力や推理力はかなり凄い。
「じゃ、じゃあ! とりあえず、美実先輩の所に行きましょう優莉乃先輩!」
「そうだね……そうしようか。――お騒がせしてすみませんでした、煩先生。部員達には、今日の活動を一旦中止する様に伝えます」
優莉乃先輩は、キリっとした表情で煩先生に頭を下げる。アタシも一緒に頭を下げて、先生にお詫びの記しを見せる。
にしても、優莉乃先輩チョーー大人! ちゃんと頭下げられるとか尊敬しかないなぁ! まぁ……さっきのヤバめな先輩の記憶さえ消せれば、の話だけど。
「おや。何か訳ありデショーカ。先生、今少し忙しいのでお手伝い出来ませんが、何かあったら職員室にカムインしてクダーサイ。何かあったら協力シマース」
アタシと優莉乃先輩は、その言葉を聞いて頭を上げる。お互い、少しびっくりした感じで頭を上げたのだ。
お、おぉぉぉ。噂をすればなんとやら! 本当に面倒見の良さそうな発言が出たーー☆
ちょっとアタシ、感動しちゃったかも。やも。
「ありがとう先生! アタシ、先生の為に頑張るからね!」
アタシは目をキラキラと輝かせながら、先生の手を握ってブンブンと縦に振る。
「そ、それはどうもデース。でも、先生には敬語を使わないとダメですよ、優谷さん。牛乳飲みなさぁい」
優莉乃先輩はその光景を見て、フフフと温かい目で見てくれた。
ん? 自分で言っといてなんだけど、先生の為に頑張る必要なくない……? まぁ……いっか☆
「では煩先生。何かあったら、その時はよろしくお願い致します。失礼致しました」
アタシ達は煩先生と別れて、教室に戻る事にした。
「ねぇひかり、美実がそんなミスをするって……どう思う? 確かにその、彼女は天然な所があるしおっとりはしているが、部活の事でミスをするってのはあまり無かったように思うのだが……」
先輩は、少し落ち込んだような顔を見せた。
なんだろう、美実先輩のミスがそんなにショックだったのかな?
「アタシはたぶ――っ……うぅん、ちょっと分からないですねっ」
ダメっ。さっき起きた運の悪い事は、内密にしてって言われたじゃない。
優莉乃先輩がこの話を聞いたら、きっと心配しちゃう……。
「……私ね、美実が最近、何かに悩んでるんじゃないかと思ってたのさ。だから……許可証のミスもそれと繋がってるんじゃないかって、さっき思ったんだ」
「先輩っ…………」
そんな話があったなんて……美実先輩、一度も言ってくれなかったな。
もしかして、先輩のミスは今日の出来事と全く関係の無い事だった……?
てか、確かにあれは不可思議過ぎて、関係の無い事のように思える。
「友人関係とか部活内での関係、あるいは家族との関係、はたまた将来への不安、あの子はそんな悩みを抱えているんじゃないのだろうか……」
――!
もしかしたら……うぅ、でも。……いや、あの人を信頼していない訳ではないけど、最悪な展開だけは免れないといけない。
大丈夫よ……『優谷ひかり』、ただの確認なのよっこれは。
ごめんなさい……ごめんなさいっ! 萌奈先輩!
「優莉乃先輩。ごめんなさい、実は……美実先輩の話も含めて、しなければいけない大事な話があるのです」
先輩のほうを、真剣な面持ちで向き直す。
「大事な話……?」
キョトンとした顔で、首をかしげる優莉乃先輩。
「極めて不可思議で、極めて危険な、そんなお話です」
○●○●
〈部活に行く少し前〉
「わぁいわぁい! 夏ノ目心高校だぁ! 日常を鮮やかにしてやるぜ部だぁ!」
あにゅうぅぅ! ここで……優莉乃先輩と……チョーー楽しみ!!
『私達の『日常を鮮やかにしてやるぜ部』に来なさい。そこでまた、答え合わせをしましょう。そして一緒に……日常を青春に変えていこうじゃない。私達が……あなたを待ってるわ』
ふと、あの時の言葉を思い出す。アタシはここで……人生を変えるんだっ。
「まぁでも……ひかり。教室でそんなに騒ぐと、皆びっくりするからウルトラ辞めときなよ」
アタシにそう声を掛けて来たのは、幼馴染の麻優宮みこちゃんだった。みこちゃんはね! チョーー良い子で、アタシなんかにも分け隔てなく接してくれてぇ…………教室??
アタシは、今どこで何をしたのか、よーーやく理解した。
うん、ここは教室。周りを恐る恐る見渡すと、あーらまぁ皆さんオソロイでアタシの事見つめちゃって〜。
あはは。そんなに見られると、まるで芸能人になって脚光を浴びてるみたいで照れるじゃないですかぁ〜。あははっ、あはははぁ〜…………。
「――すみません…………」
みこちゃん含め、アタシは皆に苦笑いされながら教室を後にする。
「いやぁ〜、日常を鮮やかにしてやるぜ部の活動が出来ると思うと、つい張り切っちゃって」
日常を鮮やかにしてやるぜ部のある、第2棟の2階真ん中のフロアを目指し歩くアタシ達。
ちなみに、アタシ達1年生は第1棟の3階にあるので、かなり大変。渡り廊下で別棟に繋がってる訳じゃないから、昇降口を一旦通ってから第2棟に行くんだぁ。
「まぁ、しょうがないね〜。あんたは昔っからそんな感じだもんね。まっ、そこがひかりの良さって感じだし、ウルトラ良いんじゃない?」
「あにゅうぅぅ! さすがみこちゃん、良い事言いますねぇ! 愛しておりますよー!」
「こっ、こら! 学校の中では抱き付くの禁止! ウルトラ恥ずかしいんだからっ、もう」
アタシの身長は158cm、みこちゃんは163cm。少し身長差はあるけど、かなり抱き付き安くて安心するんですよねぇ!
「なんですかぁ? 小さい頃は、あーんなに抱き付かれるの嬉しがってたのにっ。んでもって、抱き付かれなかったりすると『ねぇ……みこの事嫌いになったの?』とかチョーー落ち込んでたりしてた癖にぃっ!!」
「なっっ。や、やめてよ! 昔の話は無しだよぉ! あっ、ちょっとこら! くっ、くすぐらないのっもうぅ〜」
はぁ……可愛いなぁ。アタシの幼馴染カワイイなぁ!! もう、今日はこのまま抱き付いたままここで寝ようかな。ナンチャッテ☆
「あっ……ひかり。あれ見て!」
「ん?」
アタシは、みこちゃんの指差す方向を見た。
ん〜? なになに……。あれって、美実先輩? 何してるんだろう。
美実先輩は、第2棟の昇降口辺りをキョロキョロしながら、挙動不審に動いている。
「なんか……先輩ウルトラ怪しくない?」
「あにゅう……。確かに……なんであんなオドオドした感じなんだろう」
「誰か探してるのかな」
「う〜ん……そうだっ! 声掛けてみようよ! なんか困ってるかもしれないしっ」
そうして、アタシが声を掛けようとした瞬間に、美実先輩は動いた。
第2棟の校舎裏に走っていったのだ。えっ、どうしよう。てか走るの速っ! 追いつけないYO☆
「どうする? ウルトラ気になるんだけど」
「じゃ、じゃあ少しだけ見にいってみようか。なんか、変な事に巻き込まれてるかもだし。やもだし」
みこちゃんはこくりと頷く。そして、先輩を追って第2棟の校舎裏まで走る。
ふぅ……。お昼のお弁当が、お腹の中でグルグル暴れ回ってるんですけど!!
あにゅうぅぅぅぅ。学食も食べるんじゃなかったぁぁぁぁ!!!
「だ、大丈夫かひかり。ウルトラ顔色悪いぞ」
「だっ、大丈夫っ。う、うんっ。お腹の中で、バトルが起きてるだけだから」
「そ、そうか……」
そ、そろそろ校舎裏着くから、頑張れアタシ!!
「はぁ……はぁ……とりあえず着いた……あにゅう……」
何これ……部活以上に疲れてる気がするんですけど……。いや決して、部活が疲れない訳じゃないんですけども……。はぁ、はぁ。
アタシは膝に手を置いて、少しだけ呼吸を整える。
その時、近くから声が聞こえた。
「それ……ホントに言ってるの? それ、大分大掛かりになるけど……」
あっ! これ、美実先輩の声だ!
「やばいひかり、隠れるよ(小声)」
みこちゃんは、アタシの口を塞ぎながら曲がり角の近くに隠れた。万が一、誰か来ても怪しまれない様に、携帯をいじってるフリをしてみこちゃんは待機した。
「そうしないと、ダメなんです! ぼくはもう……手遅れなんだから! 美実ちゃん……お願いだよ」
「でも……それは……美実がやるには荷が重いよ……。――ますなんて」
え? 美実先輩、もっとおーーきな声で喋って欲しいんですけどーーー?
「美実が……その……。――のちゃんを騙すなんて、無理だよ」