第12話
アタシたち一行は、第2棟の3階真ん中のフロアから、1階まで降りていく。
アタシの前には、右から萌奈先輩、美実先輩、ゆみさんが居た。
「それでだが、ひかり。第2棟のどこを調査するというのだい?」
肩をトントンと手で叩き考え事をする優莉乃先輩が、アタシの左隣に来た。
「そうマヨ! あの話だけで、なんで第2棟を捜査しようってなったんだマヨ?」
テニスラケットを抱っこしながら(可愛い)、一瞬だけこっちを見て質問した萌奈先輩。
後ろ向いたりして大丈夫かなぁ。少し心配。
「心辺りがあるのです。もちろん、板が第2棟に落ちていたというのも、考慮してのことなのですが」
アタシは明るく真っ直ぐな笑顔を先輩達に向けて、そうお告げする。
心辺りがあると、ぶっきらぼうに言ってるだけじゃあ、不安にさせる一方だからね。
「ひかりが大丈夫なら大丈夫なのですよ、先輩達。ひかりは可愛くて、頭も良いんですから」
先輩達に微笑みを見せながら、アタシを褒めてくれるみこちゃん。
あにゅう! 嬉しいけど、恥ずかしいぃ! ストレートな言葉過ぎて、目のやり場に困るならぬ耳のやり場に困るぅ!
いや、この場合は心のやり場に困るが正しいかな? まぁ、なんでもいっか♪
「ふふっ。本当にみこはひかりが好きだよね。幼なじみなだけあって、友情も深いね……いや、もはやそこには愛情すらも感じてしまうくらいだね」
大人(?)の余裕を感じさせる美しい微笑みで、アタシ達の友情を称賛してくれる優莉乃先輩。
こっちもこっちで、なんだか気恥ずかしいよぉ!! あにゅう!!
「それにしても、この板って不思議だよね。百歩譲って落とし物だとしてさ、誰がなんの目的でこの暗号を作ったのかなぁなぁ」
右後方ぐらいから、深優希先輩が心底不思議そうに思っている声を出した。
――そしてそれは、皆の意見の代弁でもあるはず。
アタシとしても、なんの為に作ったのか、さっぱり分からない。
それに、暗号文まで書いた大事な物を、そう簡単に落としたりしちゃうかな?
「あっ。今思ったのだけど、こういう推理はどうかしら? あの暗号文は、誰かからの挑戦状なのよ。それで、拾った人が謎を解けたら、ラスボスが待っているみたいな!」
ワクワクを抑えきれない小さな子供のような顔で、アタシ達に推理を披露する優莉乃先輩。
それを聞いた皆は、表情を変えた。一斉に考え始めたようだね。
さすがはニッセン部、こういう時の取り掛かりは早い!
――で、肝心の推理だけど……確かに、ありそうかもしれない。
でも、そうなると……大体そういうことやるのはニッセン部の人になっちゃうからなぁ……あにゅう。
「あっ……そろそろ1階に着くよ〜……皆……」
美実先輩が、1階への到着を知らせてくれた。
「うち、ウルトラ考えてみたんですけど、単純に誰かがその暗号文にメッセージを込めたんじゃないかと思うんです」
その瞬間に、ニッセン部の何人かがピクッと反応した。
みこちゃんを、不思議そうな人だと思わんばかりに。
確かに、普段は推理の発言を滅多にしないから、驚くのも無理ないかも。
「なんでそう思ったのか教えて、みこちゃん」
1階の階段近くにあった教室を借りて、話を聞き出す。
多分、使われてない教室なのかな? 机とかがあんまり無いや。
「なんというか……あんまり深いことまでは考えてないんだけど、暗号ってさうちのイメージでは誰かに伝える物ってのがあるから」
ニッセン部の皆で、うんうんと頷く。ゆみさんも、ぶっきらぼうに頷いていた。
「それで、準備をしたはいいんだけど……伝えたい本人に見つかっちゃって、慌てて落としちゃったとか」
なるほど……じゃあこれを、アタシ達が今日経験したことに当てはめてみたらどうだろう。
例えば、女幽霊や黒マントの中の人が、あの看板を作ったとしたら?
……う〜ん。そもそも、中の人自体が分からないから、なんだか微妙な所かも。
「へぇ〜。みこちゃん、もしかして結構頭良い? わぁ! 可愛い見た目でカッコいい所もあるとか、最強じゃあん♪」
ゆみさんが、教室の隅から話し掛けてきた。
なんだろう、ちょっと嫌味な感じがあるなぁ……。いや、アタシの考え過ぎかも。やも。
「あぁ、いえ……どうも」
一瞬ゆみさんのほうを見ると、それからすぐに下を向いて浮かない顔をしたみこちゃん。
さっきのことがあってか、ちょっと気まずそう。
「でも、凄く良いアイディアかもしれないねみこちゃん!」
「えっ、あっ、そうかな……ひかり。へへ、ウルトラありがとね」
「うむ。良い友情だ! お姉さんは涙しちゃうわよ〜! へうっ、あうっ。あっ、ところでなのだが、ひかりはどこを捜査するつもりでいたのだい?」
切り替え早っ。まぁ、確かにそこは気になる所か。
「では、その場所に案内しましょう。その前に……アタシちょっと、お手洗いに行ってもいいですか!? 結構あぶなめなんですよぉ!」
そう言いながらアタシは優莉乃先輩の手を取り、耳打ちをした。
お話があるので、少し遅れてから来てくださいと。
○●○●
「遅くなってすみません!」
お手洗いから出たアタシ達は、車に変身したかのような猛スピードでニッセン部員の元へと急ぐ。
皆は、昇降口近くに集まっていた。
「遅かったじゃん優莉乃〜。寂しかったんだからぁ」
どこかわざとらしいような甘えた声を出すゆみさん。
んー、でもあれか。優莉乃先輩にはこれが通常運転か。
「こらぁー。廊下走るでナァイ」
「あにゅう。先生すみませ〜ん」
「いやぁ〜トイレットペーパーが無いもんだから、ついでに探してしまったよぉ」
優莉乃先輩が後頭部に手を回して、申し訳なさそうにする。
「アタシまだ案内してないですけど、トイレ行ってる間に何か情報はありましたか?」
アタシは皆に質問をする。
「なにも無かったよぉよぉ〜」
深優希先輩が、残念そうに呟く。
「そうでしたか〜。あっ、そうだ! 萌奈先輩、一緒に捜査したいところがあるんですけど良いですか?」
「ん? 構わんぞ?」
「ありがとうございますー! あ、他の皆さんはそれぞれで好きなように捜査しておいて下さい! それじゃこっちに〜」
アタシは、優莉乃先輩と萌奈先輩を引き連れて、昇降口から離れていく。
「どこに行くマヨ?」
「萌奈先輩が……女幽霊を見た場所ですっ♪」
「あ〜、どこら辺だったっけ。多分、部活行くのに真ん中の階段から行こうとしてたから、その近くの窓から見たと思うんだよな〜」
なるほど、その場所なら……。
「まず萌奈先輩に質問なんですけど、なんであの時、黒マントを追えって言ったんですか?」
萌奈先輩の眉毛がピクッと動いた。
「そりゃあ、あっしは後輩らに怪我をさせたくないし、美実のことも心配だったからなぁ」
「あ〜、確かにそうでしたね。あの時は、何がなんだかーって感じだったので、そんな言葉も出ますよねっ」
「萌奈、3人を助けてくれてありがとうだよ」
優莉乃先輩が、萌奈先輩の手を握る。
「べっ、別にいいさっ。あっしが出来ることをしたまでだ」
その手を振り払って、照れくさそうにする萌奈先輩。
「へへっ。先輩かわいーなー! あっ、そうだ。先輩はなんで今日、ヘッドホンをしてないんですか?」
「あ〜。最近なんか妙に調子悪くてさ、音質も悪いから家に置いてきてるんだよなぁ」
女幽霊を見たという場所に着いた時に、萌奈先輩は機嫌悪そうにそう言った。
「なるほど〜。てか、あれでいつも何聴いてるんですか?」
「えっ……いや、別になんだっていいだろ」
先輩はうつむいて、顔を赤くしていた。なんか、小さい子供を見てるみたいで楽しいな。
「なんですかぁ〜? 別にアタシは、先輩の聴いてる音楽を知って、笑ったりしませんよ?」
いじわるな笑顔を浮かべるアタシは、萌奈先輩から見たら邪悪な魔王のような存在であろう。はっはっはっ。
「あ、あっ……アイドルソング」
「キャーーー! なにそれ可愛いぃぃ!! えっ、先輩アイドルソング聴くの!? マジ!? 可愛いぃぃ!!」
萌奈先輩のギャップに萌えまくったアタシは目をキラキラ輝かせてテンションMAXではしゃぎまくる。
「うっ、うるせぇ! どつきまわすマヨ!」
「いひゃあい! いひゃいせんひゃあい! ごめんなすぁい〜!」
怒った先輩は、左手で頬をつねってきた。怒ってる顔も可愛い〜☆
「はははっ。全く萌奈は〜それぐらいにしておきなさい、もう。2人共可愛いな! ――って、おや? 見覚えのある顔が近付いてくるぞ?」
優莉乃先輩は、外側の窓を指差す。
「あにゅう! みこちゃんだー! 依頼してた別件、調べ終わったのかな?」
萌奈先輩の手から開放されたアタシは、愛しい親友に向かって手を振る。
「別件の依頼ってなんだマヨ?」
「まぁ、それはおいおい教えますね! あれっ、みこちゃんなんかアタシ達に話し掛けてる」
「ん〜。何言ってるかあんまり聞き取れないマヨなぁ。しかもけっこう遠い場所から喋ってるし」
「そういえば先輩、女幽霊を見つけた時ってその人どこら辺に居たんですか?」
「あぁ、丁度後輩の友達が居る位置で見かけたマヨ」
指差す萌奈先輩。
「にしても、本当に聞こえないね〜。頑張って声出してるのに可哀想――っなんかみこ、ラジオ体操し始めたよ?」
優莉乃先輩が、どう反応したらいいか分からないと言いたげな顔で言う。
「いや……多分あれは、朝か夕方にやってた教育番組のダンスですかね。みこちゃん、子供向けの可愛い番組が昔から好きだから……」
なんでそれを今やってるのかは不明なんだけど、なんか可愛いからこれはこれでよし!☆
「なんか、あのまんまなのもあれだし、昇降口から入るように呼びかけるかマヨ」
昇降口か――。
「そうしましょうか」
アタシは、昇降口を指差して、そこからこっちに来るようにジェスチャーした。
するとみこちゃんは、踊りをやめて力強き頷き、右へと走っていった。
さて……萌奈先輩のほうはこれでよし、あとは――。
アタシはスマホを取り出して、文字を打ち始める。
「……?」
優莉乃先輩は、アタシのほうを振り向き、審議の程を確かめる。
そこに書いてある通りですよ、先輩。
満面の笑みを浮かべ、大丈夫っすいけるっす的なことを言ってそうな後輩の顔をする(どんな顔!?)。
「あっ! ひかりぃっ! ふぅっ! 走るの疲れるぅ!」
みこちゃんが、全速力で走り抜けてきた。
大丈夫だよみこちゃん。アタシの笑顔さえあれば、HPだって500まで回復するよ! あにゅう!
…………調子乗ってすみません。
「こらぁぁ!! 廊下走るでないデスヨォ!!」
遠くから、煩先生の怒声が響き渡る。あとで何かお礼しないと。
なんか今日は、お礼しないといけない人が多すぎて困っちゃうなぁ。
ギフト祭りじゃギフト祭り!!
「はぁっ……はぁっ……」
みこちゃんは膝に手を付いて、肩で息をする。程無くしてその格好をやめると、胸元を掴んで体に風を送る仕草をする。
な、なんか……みこちゃんみたいにスタイル良い人がそれすると、変になんかこうその……色っぽさがあると言いますか……。
あっ、なんかすみません。
「ひかり。やっぱりあれの犯人は、果恋先輩だよ」