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第10話

 

 音がしたほうを振り向くと、さっきアタシ達が入ってきた入口には人が立っていた。


 その人を見た時、アタシは心底驚いた。なんせ、優莉乃(ゆりの)先輩やみこちゃんに負けじと劣らずなスタイルの良さだったからね。


 今この場に居る人の中で、一番スタイルが良いのではないかと思えるくらい。


 手足は細く、スラっとした体型で、胸は小さ過ぎず大き過ぎず、とても細いくびれから腰までの曲線美はもはやモデルさん並だった。


 凄い……脚もチョーー長いよ。それに……お顔もとびきり美人だぁ。


優美(ゆみ)ではないかぁ!!! ラインのやり取りは毎日していたが、会うのは久しぶりだなぁ!!」


 優莉乃先輩はアタシの隣を離れ、猛ダッシュで優美と呼んだその友達らしき人の所に向かい、抱き着いた。


 しかも、とても嬉しそーに。


 あにゅう……親友と呼べる存在が居るとは聞いていたけど、まさかこの人なのかな? 


 じゃなきゃ、あんな嬉しそうに抱き着かないよね。


 これで親友とかじゃなかったら、アタシの立場どうなるんですかぁ! って感じだから、ぜぇーひともっ。親友であって欲しいですねぇ。フンッ。


 まっ、まぁ? アタシの隣にはみこちゃんが居てくれるから? 別に良いんですけどぉ? 


「ね! みこちゃん!」


 アタシはみこちゃんの位置を確認せずに、後ろを振り向く。そして、愛おしい親友の名を呼ぶ。


「えっ、あっ、ウルトラうん」


 愛おしい親友は、少々引きつった顔をした。ね、ねぇ! なんかその反応悲しいんですけどぉ! 


「それにしても、凄い美人さんだよね〜あの人。優莉乃先輩の知り合いかなぁ」


「前、親友が居るって言ってたから、多分その人な気がする」


 抱き着かれたゆみさんとやらは、ミルクティー色のふんわりゆる巻きロングヘアーを美しく(なび)かせながら頬を赤くする。


 前髪は少なめで中央に集めたM字バング気味の形、その長さは両目の間まで伸びており、特徴的でスッキリとした前髪になっている。


 赤らめたままの顔は可愛らしいが、それは友達から抱き締められた展開がそうさせているのであって、顔自体は違う。


 大きくてパッチリとした目に、長く均等に整った美しいまつ毛、くっきりとした二重に高くスラッとした鼻が余計に大人っぽさを際立たせる。


 おまけに唇も少々赤めときた。こうして見てみると、優莉乃先輩が幼く見えてしまう程に大人っぽい人だった。


 白の長袖セーラー服に、黒のスカート、こちらから見て左足に黒、右足に白のニーハイという服装だった。


「ゆっ、優莉乃。す、スキンシップが激しいよ。久しぶりだと緊張しちゃうよ。四面楚歌(しめんそか)だよ」


 頬を赤らめて、そのまま背中に手を回し抱き締めるゆみさん。


「四面楚歌って、周りは敵だらけという意味の言葉じゃなかったかい〜? 全くぅ、君には『桜守(さくらもり) 優莉乃(ゆりの)』という大親友がいるではないか♪ ナッイカ〜♪」


 仰る通りですねぇ。アタシは初対面なので、敵とか味方とかの感情もまだ湧いてこないです。


 それに、少なくとも――『四面楚歌ってなんだっけぇけぇ? てかゆみちゃんお久ぁさぁ!』やら『七味サラダだが地面ポカだが知らねぇけど、あっしはマヨネーズをご飯に掛けてから箸に掛けるマヨ!!』。


 とか言ってる人達で溢れかえってるので、四面楚歌は無いでしょう(ていうか箸にマヨネーズ掛けるの!?)。


「だ、大親友……」


 そう呟くと、ゆみさんの真っ赤だった顔は徐々に変化し、浮かない真っ青な顔に変わった。


「ん? どうしたのだぁ、ゆみ」


「ううん。……何でもないよん。それより優莉乃、僕の話を聞いてくれないかな」

 

 ん〜? どうしたんだろ、ゆみさん。まぁでも、今から真っ青になった原因の話でもしてくれるのかな?


「いいよぉ! さあさあ優美、こっちのほうに来て!」


 ゆみさんの体から離れた優莉乃先輩は、彼女の手を握って、ニッセン部の皆の所へと連れてくる。


(うるさ)先生、こんにちは。先生も聞いてくれると嬉しいです。嬉々とします」


 煩先生にお辞儀をするゆみさん。


「ハァイこんにちはぁ。先生疲れたので、手短にシクヨロデェイス」


 右手の親指を立て、小指は伸ばし、人差し指と中指、薬指は折りたたむ。なんであの先生、釈迦のサインしてるの。


 なんならあれ、一杯行こうぜ! とかにも使われるやつなんですけど。シクヨロの時のサインと違うんですけど。ハードロック好きの人にそれを間違ってやってケンカになりそうなんですけど。


 もはや煩先生がエセヤンキー化しかけている。この人の将来も少し心配だぁ。


「皆、ありがとう。実は……ある人を探して欲しいんだ。その人というのは、ぼくも詳しくは知らないんだけど。手掛かりとなる物は、今からここに到着するから少し待ってほしい」


 ゆみさんの話を聞いて、一同顔を見合わせる。にゃにごと? って感じの顔をしてます、皆。


 ゆみさんの今言ってくれたことだと、なんかよく話が見えてこないんだもん。


「人探しなのか? 物探しなのかマヨ?」


 萌奈(もな)先輩が問いかける。


「人探しだよ、萌奈。相変わらず今日も――あっ、身長が低くて可愛いね萌奈。大なり小なり」


 優しく微笑みかけるゆみさん。身長が低いことを別の言い方で表そうとしたが、もなさん的には失敗に終わったようである。あにゅう。


「うるせぇ。あっしはかっこいいのが良い。可愛いって言うなカバマヨ」


 カバさんにマヨネーズ掛かってますよ、萌奈先輩。


 もうなんかそれ、ジャングルの狩猟メニューみたいになっちゃってますから。まだ箸のほうが可愛いですから。


「あ……もしかして……さっきの板みたいなやつのこと……?」


 おっとりジト目の美実(みみ)先輩が、人差し指で閃いたって! ポーズをしながら、答えっぽい答えを出してきた。


「あ〜そうだよ美実ぃ! よくぞぼくの言いたいことを分かってくれたよぉ! もう、ぼくはなんて言えば良いか分からなくて困ってたんだよぉ〜」


 両手を合わせた後、両の頬にそれらそれぞれを当てて、可愛らしい困り顔を作ってクネクネと動くゆみさん。


 見た目に反して、愛らしくて子供っぽい反応をする人だなぁ。


 てか、板の説明は出来ないのに、熟語や四字熟語は理解してるのね。分かりますそれ。


 基本技を覚えるのは面倒だけど、必殺技は大好きという少年心ってやつですよね。


 ……ごめん、自分でも例え合ってないし間違ったかもと思ってます。あにゅう。


「あ、そろそろ来るみたい!」


 そう言うと、ゆみさんは入ってきた扉を見る。すると、廊下のほうから上履きの(こす)れる音や、地面を蹴る音がした。


「ファーーー!! 遅くなったぁーー!! どぅごっ、これは「2:7」の計算式だねぇ!」


 なにやら只者じゃない人が来たようですね。触れたら火傷しそうなくらい、癖が強い。


 もはや既に火傷の危機にさらされてるかも、やも。


 その人は、先程皆が双眼鏡で見ていた板を持っていた。


「わぁーー!! 皆さん久方ぶりだねっ! この気持ちは「10×10=10000」くらいであって欲しいなぁ!」


 ……え?


「はるちゃあん! 久方ぶりぃりぃ! てか、髪切った!? はるちゃんが持ってるって気づけなかったんだけどぉどぉ!」


 と、手を振りながら嬉しさと驚きの表情を交互に見せた深優希(みゆき)先輩。


「おう! あっしらがあんたに出会えた嬉しさは10000マヨ!」


 と、胸を叩く萌奈先輩。えなに、会話通じるの? チョーー凄すぎる……。


「わーー!! 皆ぁーーー!! 煩先生までぇーー!! こんにちは!」


 水しぶきでも舞っていそうな泣き方をする、えっと……はる、さん? という人物。板を持ったまま、教室に入ってくる。


「え〜っと、じゃあ、改めて自己紹介と相談内容の説明をしよっか。後輩ちゃんも居るみたいだし。……じゃあ、はるもやるよ」


「うん!」


 その依頼者は、私達に向かって自己紹介をした。


「ぼくは、『宮古園(みやこぞの) 優美(ゆみ)』」


「あたし! 『優波(ゆうなみ) はる』!」


「この板? みたいな物が第2棟にあったから、ぼく達と一緒に持ち主を探して欲しいのです」


 なぁるほどなるほどね……。落とし物だったという訳ですね。で、アタシ達は、これを拾ってる途中だったはるさんを見つけたってことだね。


「ひかり! みこ! この二人は、元ニッセン部のメンバーなのだよ! 学年は私達と同じ2年。しっかりと挨拶するんだよ」


 凛とした(ただず)まいで、アタシ達に二人の説明及び挨拶への(うなが)しをする優莉乃先輩。


 なんとなく察しはついていたけど、同じ部活の人達だったのね。そりゃ仲も良さそうな訳だね。


「は、はい。『麻優宮(まゆみや) みこ』です。よろしくお願いします、お二人共」


 淡々と二人に挨拶をするみこちゃん。緊張してるのもあるんだろうけど、みこちゃんはこういう挨拶しかしなくなったんだよねぇ。


 まぁ、"昔あったあのこと"を気にしてるのかもしれないけど。


「よろしく〜みこちゃん、可愛いね♪ 豪華絢爛(ごうかけんらん)だぁ♪」


「可愛い! 「0×1=100」だね!」


 ニコニコで挨拶をする二人の先輩。みこちゃんはニコリともせず、真顔でお辞儀をする。


「優谷ひかりです! お二人共、よろしくお願いします!」


 アタシは流れに任せて、二人にお辞儀をする。


「よろしくねひかりちゃん! お顔丸っこくて赤ちゃんみたいで可愛いい! ベイズの定理を使ってあなたの顔の丸さを証明したいな!」


 絶対ノリで言ってるでしょこの人。それを産み出したラプラスさんに怒られて下さいマジで。


「へぇ〜、ひかりちゃん……か」


 微笑みを見せている……けど、どこか温かみが無いような気がする。


「は、はい! どうしましたか?」


 アタシは笑顔を作り、一生懸命に質問をする。


「あなた……あれだね。月を指差して、これが私の想いですってやるのをバカにしそう」


 明らかに温かみが無く、冷徹と言うと失礼かもしれないが、そんなことも感じさせてしまうような冷たい表情だった。


「えっ、えっと……どういうことですか?」


 ゆみさんはアタシに近付き、腰を折った後、その指で頬をゆっくりと掴んできた。


 顔を近付けて、彼女は呟く。




『ぼくは凍っている。君は燃えている。だけどそれは……"偽りの炎だ"――――』


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