第9話
今回で遂に、ニッセン部全員が顔を合わせる事になります。可愛い絡みもありますので、気軽に楽しんで頂けると幸いです。
優莉乃先輩の過去もちょっと出てくるかも……?
〈部活の時間に戻る〉
「てな感じで……本当に色々とあったんです。アタシ自身にわかには信じがたいのですけど、部活に行く数時間前にはこんな波乱万丈な出来事があったのです」
事の経緯を全て聞き終えた優莉乃先輩は、口を抑えて考え事をしていた。
そりゃそうだよね。普通は考え込むよね。だって『告白魔の女幽霊』とか『黒マント』とか、現実では考えられない話だもん。
まぁ? アタシがぁ? 漫画やアニメや小説やライトノベルの世界に入り込んだとしたならば、何も問題はない!
きっと誰かがアタシにチートを授けてくれるであろう!
…………はい、すみません。
「ひかり……」
「は、はいっ!!」
あにゅっ! これはもしや、お、怒られる!? いやぁ! これから毎日宿題を代わりにやれとか、そんなのご勘弁をぉ!
「すっっっごくすっっっごく面白そうじゃないか!!! ワクワクするなぁ!!! ワック〜♪ ワック〜♪」
え? なんか…………凄くキラキラした目でいらっしゃいますね。両手折り曲げて胸の所でガッツポーズとって。
「先輩、お、怒ったりしないんですか?」
と、アタシは少し戸惑った声色で先輩に聞く。
「そりゃまぁ、大切な2年の仲間や可愛い後輩達が、なんだかよく分からない事に巻き込まれていたのだから怒るさ。でも……それ以上にこれはワクワクしないかい!? そいつらの正体を、暴いてみたくはないかい!? 私も混ぜておくれよ!!」
同じ表情、同じポーズをとったままアタシの顔にぐっと近寄る先輩。
あぁ……そういえば先輩って、こういう人だったよね。
思い返してみれば、出会った時もそうだった。あの人は、どんな些細な日常でもユーモアを忘れない人だった。
――例えば、ボランティア活動で町内を掃除して周ろうとなった時の事(アタシはそれに参加していない)。
優莉乃先輩は急にこんな事を言い始めたらしい。
『今日のボランティア活動は! ゲームだ! そう、ゲームなのだよ皆! お宝をゲットして、自らのマネーを増やしていくのだ!』
他の部員達はそれに対して質問をしたの。すると先輩は、部員達に向かって喜々(きき)として説明していったの。
『良いかい皆! 町に落ちているゴミはマネーだ! そしてそのマネーをたくさんとった者には名誉として、1位から3位までの賞を授与してもらう!』
おーー! っと、やる気の上がった部員達に続けて説明をしていく。
『いいかい皆! あくまで町の為の掃除である事は忘れずに、しっかりと楽しんでいくように! かいさぁん!!』
とまぁ、その後も色々とルールを付け加えながら、楽しんでボランティアに勤しんだみたい。
ヒートアップしすぎて、大人の皆さんにちょっと怒られたみたいですけどね。んまぁ結局……その大人の皆さん達も混ざって、せっせとボランティアしたみたいですけどね♪
そうだった。この人はどんな逆境であろうと、それを後ろ向きに捉えることは無かった。いつだって、"楽しい"と言える人だったね。
そして、大きな心で人を包んできた。いつも……いつも。どんな相手に対しても、大きな心で――。
だからアタシは、そんな優莉乃先輩に憧れて、この学校に来た。みこちゃんも一緒に、引き連れて。
「先輩……やっぱり変わらないですね、ホント」
「えっ、何がなんだいひかり?」
先輩に対して微笑むと、まだ同じポーズをしている先輩がアタシからすすっと離れる。
「なーんでもないですよんっ」
腰の辺りで両指を絡めて、くるりと後ろを向く。憧れた時の先輩を思い出して、なんだか少し照れくさくなったのだ。あにゅう。
「てかせんぱーい。アタシらの事心配してるのかしてないのか分からない発言しないで下さいよ〜、何を1人でワクワクしちゃってるんですかぁ??」
振り向いたまま、顔を赤らめ、先輩にいじわるな質問をする。
「ひっ、ひかり! ち、違うんだよ誤解だ! 私は君達を守るというのを前提条件にして言っているのだ、だからその……言葉が抜けたというかなんというか……私はひかりを含めて皆大好きだから絶対にまも――」
「せんぱいっ。ちょっともう……恥ずかしくなってきたので大丈夫です。もうっ、お人好しなんだから、ばか」
アタシはくるりと先輩のほうを振り向く。
嬉しくて……嬉しくて、恥ずかしくて。だからアタシは、治まらない顔の火照りをごまかすようにムスッとした顔をしてやった。
先輩は少し動揺していた。ちょっといじわるしすぎたかな。
「先輩っ! アタシ……先輩の事大好きですよ!」
ニコっと笑い、小首をかしげてみせた。いじわるのお詫びというかなんというか、今の時代"ばか"というだけでネガティブに捉えられかねないからね。
ちゃーんとっ、好きって気持ちを素直に表現したよんっ♪
「な、ななななな! なんでそんなっ……んん! 可愛いからもうなんでも良いのだ……。許そう。ユルッソ〜ユルッソ〜。ひかり、と、とりあえず教室に入ろう! ホントに君は小悪魔ちゃんなのだから(小声)……」
物凄く顔を赤らめた優莉乃先輩に、なんだかよく分からないけど許されたアタシ。
小声でボソボソと何か喋ってたけど、よく分からないしとりあえず教室に戻る事になった。
先輩はドアを開ける。それに続いて、アタシも入る。なんだか先輩の後ろ姿が、やけに可愛く見えるのは気のせいかな? へへ♪
「あ! 優莉乃ちぃん! ちょっとあれ見てよあれぇれぇ!」
教室に入ると、優莉乃先輩を呼ぶ大きくて可愛い声が。声の主は、深優希先輩だった。
窓のほうから、大きく手を振ってこちらを呼んでいた。
「どうしたの? 深優希」
先輩はそう言いながら窓に近付いていく。
教室の1番左端にある窓の側には、美実先輩、深優希先輩、みこちゃんの3人が左から順に並んでいた。
すると、みこちゃんがアタシに気付いたのか、不安そうな表情を微笑みに変えて手を振ってくれた。
はぁ! アタシにしか見せない表情きたぁぁぁ!!!! みこちゃん可愛いラブ!!
アタシもニコニコしてみこちゃんに手を振る。
「あっ、ひかりちゃんも! この双眼鏡であれ見てよぉよぉ!」
深優希先輩はそう言って、優莉乃先輩に双眼鏡を渡した。優莉乃先輩はそれを右手で受け取ると、美実先輩と深優希先輩の間に入って覗き込んだ。
え〜なんですかなんですか? まさか、さっきの黒マントが居るとか? ひいっ! それは怖いよぉ!
「ふむ……なるほどね――ひかり」
優莉乃先輩はアタシの名前を呼びながら振り向き、双眼鏡を渡してきた。
「えっ、アタシも見ろって事ですか?」
少し動揺した表情で先輩に質問する。
「うん。そうだよ。怖い物じゃないから安心して、むしろ……"あれは楽しい物よ"」
双眼鏡を手で持ちながら、疑問符を浮かべるアタシ。楽しいって……ドユコト? ううん……考えても仕方ないし覗き込みますか。
アタシは、優莉乃先輩と深優希先輩の間に入って、双眼鏡を覗き込んだ。
校庭では、何かが動いていた。何あれ、板? 人が板を持って歩いている?
何事? あにゅっつゴーイングあにゅー? ん、なんだろ、文字が書かれてるぞ。
『はがゆいぞ おくりびと ぼくのきみ さがすんだ あのきみを』
んんん??? ドユコト? 何を探すというのだい。うーむ、よく分からない。でも確かにこれは……。
"楽しい物だね"。
「皆さん……あれ、なんなんですかね! ちょっとちょっと!! 楽しくなってきましたよ!! とりあえず、あの板を持ってる人の所に行きませんか!?」
双眼鏡から目を離して、子供のように目をキラキラと輝かせながら、全員の顔をキョロキョロと見るアタシ。
「そうだな、ひかりの言う通りだ! 私も楽しくなってきちゃったよー!! 美実! 深優希! みこ! 皆で突撃していかないかい!?」
手をグッと握って、アタシと同じような表情をする優莉乃先輩。今すぐにでも行きたそう。
対する皆の反応ですが、美実先輩はキョトンと、深優希先輩は興味深そうに、みこちゃんは不安げといった感じ。
「んっ、だけどちょっと待って。そういや美実、君は部活の許可をとっていなかったよね。まずはそれをしてからじゃないと、ちょっと厳しいかな?」
さっきまでのワクワクした雰囲気から、冷静な雰囲気に戻った優莉乃先輩。
あ! 確かに! 煩先生からそう言われてたんだった!
「あっ! 確かにそうだったわねぇ……。ごめんねぇ……みみ、色々とやってたからつい忘れちゃった……。許してっ、てへっ☆」
舌を出して左目を閉じる美実先輩。可愛い……そして将来が心配だ……。
「そうだと思ったから、煩先生連れてきたマヨ!」
後方――つまり教室の入口(教卓の反対側近く)から、元気の良い声が聞こえてきた。
先程アタシ達を窮地から救ってくれた、萌奈先輩の声だった。
「んもおぉ。確かに協力するとは言いましターガ、教室に行くとまでは言いませんデシタァヨ。先生筋肉痛で明日学校休みそうデェス」
更に萌奈先輩の後ろから、煩先生がぜぇぜぇ言いながら入ってきた。
2人が教室に入ると、先生は汗を拭おうと髪を振り払った。美しい赤髪が宙を舞う。それからすぐに、先生は部活の許可証を取り出してくれた。
「先生! わざわざ持ってきて下さったんですね……ありがとうございます! 萌奈もありがとうだよ! ダッヨー♪ ダッヨー♪」
優莉乃先輩は、ニコニコとした顔で2人にお礼をする。
「せんせーと萌奈ちん、こんちゃあちゃあ!」「せんせーと萌奈ちゃん……こんにちは……」「優見沢先輩、煩先生、ウルトラこんにちは」
と、深優希先輩、美実先輩、みこちゃんの順に挨拶をしていく。
「ハァイ、皆さんこんにちはぁ。運動不足の先生には、ちょいとキツすぎましタヨォ」
先生はそう言って、真ん中の列の1番後ろの机に近付いた。
「うっす皆! 元気マヨね!」
そう言って、萌奈先輩も先生に付いていく。
「じゃあ美実、はんこを貰いに行こうか」
「うん……」
全員、窓側から先生達の居る机へと近付く。
「先生っ萌奈先輩っこんにちは! 2人共、これから面白い事が待ってるから、楽しみにしてて下さいよ〜♪」
ニコニコな笑顔で2人にはにかむアタシ。煩先生はキツそうな表情を、萌奈先輩は望むところだ! という表情をしていた。
「じゃあ、書きます……。先生、萌奈ちゃん。ごめんなさい……みみが忘れちゃったから2人に迷惑を……」
「まぁ、そういう時もありマース。これから気を付ければいいのデェス。それよりも早く、記入してクダサァイ」
先生は右隣の机に両手を乗せ、息を整えていた。
「そうだよそうだよ。今度から気を付ければいいマヨ」
萌奈先輩は美実先輩の肩を軽くポンポンと叩いて、優しく微笑んでいた。
なんだかんだ、ニッセン部の周りの人は温かいよね。
「あれ……シャーペンどこ行ったっけ……あっ。そっか……あの子に貸したままだったかも」
「え? どうしたんですか?」
可愛いピンク色の筆箱の中をガサゴソと探す美実先輩に、アタシは質問をする。
「あっ……ううん。なんでもないよ……他のがあったから……」
ん? なんだなんだ? どうしたんだ美実先輩。見つかったのなら良かったけ――。
「そういやひかり! さっきのクイズの答え、教えてくれないかい!」
楽しそうな顔で、アタシの所に来た優莉乃先輩。
「あぁ。さっきのやつですね。えぇ〜と、あの答えはです――」
パンっ! と手のひらから繰り出されたであろう中音が、空を切り裂いて教室中に響いた。
「皆、久しぶりっ。ぼくなんだけど……ちょっと話を聞いてもらってもいい?」