プロローグ
日常青春物で、時々や推理、アクションが入ります。軽い気持ちで読んで貰えると嬉しいです。
「――群雄割拠に我こそがと歩く人々に……アタシはパンチしたいです!!」
ある街の、なんでもない普通の公園。
そこに響き渡った、訳の分からない言葉。
その言葉を発していたのは、顎くらいにまで伸ばした短い髪に、ツインテールを施した髪型の少女。
その少女はアタシ――『優谷 ひかり』であった。
アタシは、秋の日も暮れ掛かっていた夕方の公園で、夏ノ目心高校の先輩方と向き合う形で話している。
『え? 今の言葉ってどうゆう事ぉとぉ?』
『ぷははは! ウケマヨ!』
『私は……センスのある文学表現だとは思うよ……』
台詞の順に、『果恋 深優希先輩』『優見沢 萌奈先輩』『優木 美実先輩』の3人が、それぞれの反応を見せてくれた。
確かに変な事を言ったと思ったけどぉ……。もぅ! そんなに笑わなくて良いじゃんっ!
まったくぅ……近頃の年上ときたら!
っ、まぁ、でも……。
――でも……アタシはそれで良い。
アタシの答えは曲げない。
アタシは、先輩方に真剣な眼差しを向ける。いや、正確には――『桜守 優莉乃』先輩に目を向けていた。
笑っていた諸先輩方はその光景を見てまずいと思ったのか、笑いを自粛してくれた模様。
生意気だとは思うけどそれを見たアタシは、先輩方が空気の読める人達なんだなぁと深く関心してしまった。
というかそもそも、先輩方が笑っていたのはアタシの言葉にパンチラインが効きすぎていたのが原因だしね。
そりゃまぁ……笑うのはしょうがないかなっ。うんっ。
「優谷ひかりさん……だったかな? あなたの名前。ふふ……面白い子ね。ゆみやはるにも教えてあげたい子だね、ふっふっふっ」
「は、はい! そうでふ!」
き……緊張して噛んじゃった! やっっば! さっきまであったアタシの威厳台無しじゃあぁん。
あにゅうぅぅぅぅ……。恥ずかしいよぉ。
チラッと優莉乃先輩の方を見ると、よく顔は見えなかったが笑ってるようにも見えた。
うぅ。バカにされてる笑いじゃなければ良いんだけど……。
「ふふ、緊張してるんだね。大丈夫よ、リラックスして」
な……なにその優しさ。
――アタシを呼ぶ美しい声……。悠然に、堂々に、気高くも優しく、そこに居る。
先程まで対戦をしていた優莉乃先輩と、また別のオーラを纏った優莉乃先輩が居た。
銀髪のロングヘアー、大きくてキラキラパッチリしたお目々、パッツンで所々軽く梳いている前髪、その前髪には水色のメッシュが見える。
美人オーラ全開の優莉乃先輩が、アタシを優しい目と笑顔で見つめてくれた。
夕日の位置が変わったからか、さっきよりも鮮明に顔が見えている。
「それにしても、私がした質問――『1日1回の自己主張が許されるなら何をしたい?』に対して、あんな答えを返すなんて……。あれはどういう意味なの?」
ふぁっ! そんなキレイな顔で、純粋に真実を知りたいですよって声で聞かれると……ちょっと言いたくないかも! やも!
「ア……アタシっ。えぇ〜とーー。ちょっと……言いたくないかも…………やも……です」
な、何を言っちゃってるんだろうアタシ。言えば良いじゃない! もぅ〜、アタシがこんな事言うから、他の先輩方は肩透かし食らってるみたいだしぃぃぃ。
てか多分、アタシの口癖の『かもやも』にも動揺してるよきっと。
「ほう……じゃあ、また今度聞かせてよ。その話の続きを」
「えっ?」
優莉乃先輩は、そう言うなりニコっと微笑んだ。明らかに……何かを楽しんでいた。
でもそれは、決してイジワルな微笑みじゃない。
「あのっ……それってどういう意味ですか?」
すると、優莉乃先輩はゆっくりとアタシに近付いて来てこう言ってきた。
「優谷ひかりさん……私達の高校――夏ノ目心高校に来なさい」
優莉乃先輩の右手が、アタシの右手を優しく握った。これはきっと、アタシに交わしてくれた…………約束の握手――。
不思議な気持ち……。
アタシは優莉乃先輩に手を取られてると、タダの日常がゆっくりスローモーションになって、青春って最強のアイテムがアタシ達のレベルをMAXにしてくれる気がした。
へへ……変な表現だね。でも……この空間、この時間が……暖かかった。
キレイな水晶玉――その中でアタシ達は、絶え間ない幸せを纏ったクラシックをバックに、ぎこちのないダンスを踊る……。
そしてこの時、優莉乃先輩の口からアタシの人生を190度変える……ちょっと10度越え過ぎちゃったけど、アタシにとって最高の言葉が、飛び出してきたのでありました。
青春の1ページを……"ここには居ない親友"が、"夏ノ目心高校の先輩方"が、刻ませてくれた。
優莉乃先輩が、アタシの目を見て…………こう言ってくれたんだ――――。
「私達の『日常を鮮やかにしてやるぜ部』に来なさい。そこでまた、答え合わせをしましょう。そして一緒に……日常を青春に変えていこうじゃない。私達が……あなたを待ってるわ」
風が舞った――。そして、髪が靡く。
夕日が、公園を照らす。影の無かった場所に……光を照らす。
アタシの人生に……光が照らされた。
夕日、アタシ、先輩方、優莉乃先輩。
今はここに居ない親友も含めた先輩方との時間を、この時間を……アタシは一生忘れない。
そうだ、この経験がアタシに……。
『優谷ひかり観測史上では類を見ない、記録的ドキドキとワクワクの…………青春の感情をもたらすでしょうっ――――――』
○●○●
ここは『夏ノ目心高校』。
県内でも、随一の大学進学率を誇る女子校。
この学校の廊下で、今日も和気あいあいと……ある部活動が活動を行っていた――。
そう……アタシ達『日常を鮮やかにしてやるぜ部』の部活動を!!!!
「さぁ、優谷ひかり。あなたのクイズを教えて頂戴」
そう言いながら、早歩きの為のウォーミングアップをしている桜守優莉乃先輩。
あにゅう!! 今日も美しいですぅ!!
――公園でのあの出来事以来、アタシはこの高校に入学する事を目標にしてきた。
元々そこまで成績悪くないし、時期が秋だったこともあって、筆記試験までにはなんとか間に合った。
良かった……本当に良かった! 嬉しいよおぅ……。
今日はかなり運の悪い事ばかり起きてたけど、『ニッセン部』の皆さんや、みこちゃん、そして優莉乃先輩がいれば……そんな悪い事ゼーーンブ忘れられるもんねっ!
「優莉乃先輩……。アタシからのクイズはですね……ズバリ!」
アタシは、ムフフとした顔から目をキラキラした顔に一変させ、両手をグーで握り、憧れの大好きな先輩にクイズを告げる。
「ある女の人が、海辺で山登りの格好をしていました……。それは何故でしょう!! ヒントは『海にいる状況』です!」
よっし! 勝つぞぉ!! 左足を前に出して支える……。
「ふふっ。負けないわよ〜!」
笑顔の優莉乃先輩を横目に、アタシは準備をしていた。右足と右手に力を溜めてぇ……早歩き!!
その瞬間……アタシは、つま先がツルっと行く感覚を覚えた。フワッ……。あっ……。
アタシの高校生活……ちょっと危ないかもっ♪ やもっ♪