6話:白い光
リリアナの新魔法、終焉連鎖は会場をも巻き込んでひどいことになった。この大会終了後、この闘技場は壊されて城外の城壁にされると聞いている。なら、ちょうどいいではないかとリリアナは高揚する気分で思っていた。
黒い太陽を一発食らわせる暗黒崩壊破ですら大抵のものは死に至る。だが、この終焉連鎖は何発も黒い太陽を相手にぶつける。頑丈に作られているのか、フィールドはボロボロにはなったが、崩れ落ちたりはしなかった。
(ふ、ふふ、我ながらやりすぎたわ。体中が痛い)
強い魔法にはそれなりの反動が来る。リリアナはフィールドのギリギリまで吹き飛ばされてしまった。体中も軋んで痛い。
(さすがに死んでるでしょ)
もはや親善試合であることなど、リリアナの頭になかった。もしかすると友好関係さえ危ぶまれるかもしれない。だがざまぁみろ、私をバカにしすぎたわねと思ってアルバートのほうを見て愕然とした。
「え、え、うそでしょ」
もうもうと土ぼこりが立つ中、剣を支えに立っている姿が見える。目をつむって立っているところを見ると、毒霧のせいで目が開けられないのだろう。
(あれを直撃で食らって、なぜ立っていられるの?)
リリアナの自信とプライドにヒビが入る。どうして? なぜなの? そんな言葉が頭に響く。
「……この程度ですか?」
遠く離れているはずなのに、なぜか耳元で囁かれたように聞こえた。
「今度はこちらからです……はぁぁぁぁ!! 奥義、聖光天滅!!」
剣を振り上げ、まばゆい白い光の剣破を投げつけてきた。それは徐々にスピードを上げ、光の強さをあげていく。リリアナの目の前に来たときは真っ白な光の壁になっていた。
「あ、いや、あぁ!」
リリアナの脳裏に、幼い頃おいたをして閉じ込められた真っ白な部屋を思い出す。窓もドアもない、真っ白なだけの部屋。錯覚の魔法がかけられていて、歩けどもあるけども壁にすら触れない。あまりに広くゴールのない、壁を壊して脱出することもできない。そしてその白は自分を責め、迫ってくるように感じた。その時の恐怖とトラウマが蘇り、リリアナは構えることを忘れた。
「しまっ」
受けた時には風圧で飛ばされ、場外の空中にいた。
(え? どういうこと? 痛くない?)
真っ白な光は受けてもまったく痛くなく、それどころかリリアナを包み込むようだった。
落ちる瞬間、アルバートを見ると金髪が煌めき、ふっと天使のような優しい笑みを浮かべているのが見えた。
(どうして? なぜ最後に痛みのない技を出したの?)
脚本には一応目を通したが、だいたいあっていればいいでしょという考えでしっかりとは見ていない。だからアルバートの最後の決め技がどんなものかをリリアナは知らなかった。
(そういえば、言ってたわ。あなたの柔肌を傷つけるのは怖いって)
ドキンと胸が高鳴った。心臓が痛いほどうるさい。大技を放つ時も、父に怒られた時もこんなにも緊張したことはなかった。あんな言葉、試合を盛り上げる煽り文句だとわかっている。わかっていても、胸の高鳴りは止まらない。
(何これ……完璧に負けじゃないの)
落ちる時、フィールドでやわらかい金髪が崩れ落ちたのが見えたような気がした。