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5話:食らい尽くせ!! 終焉連鎖(カタストロフィ)

「えーでは試合!! 開始!!」


 カーンと鐘がなる。リリアナが銀髪を揺らして高速に舞うと風が生じ、それが鋭い刃となってアルバートへとむけられる。


「疾風槍破!!」


 鋭い風がアルバートに向かって次々と槍のように降り注ぐ。アルバートはそれを何とか避けつつ、剣で地面に円を描くように高速に回転し、摩擦で炎を生み出す。


「はぁぁ!! 炎舞壁破!!」


 炎が壁のようにリリアナに向かって繰り出される。リリアナはそれを強く息を吸い込むと、とてつもなく大きな息でかき消してしまった。


「おおっと!! リリアナ様の風の槍はアルバート氏によって避けられる!! だがアルバート氏も負けてない! 炎の壁を作り出し、ぶつけたーーー!! だがさすがリリアナ様!! 気力によって気が混ざり合った呼吸で火を消し飛ばしたぁぁぁあl!!」


 司会者の解説に観客がうをぉぉっと盛り上がり、リリアナ! リリアナ! と声が飛ぶ。


「こんなものなの? そのお得意の剣でかかってきなさいな。それとも、素手の小娘は怖い?」

「いいえ? その柔肌を傷つけるのは怖いですが」

「うるさい!! さっさとかかってきなさいよ!!」


 すると姫様―と王室席から声がして、大きなハルバートがひゅぅぅぅんっと投げ込まれてきた。


(あんな小柄な少女がハルバートをあの距離で投げたのか)


 マリアありがとうーと言いながらリリアナはハルバートを受け取る。そしてバトンのようにクルクルとまわしてアルバートを挑発した。


「まだ小手調べよ、さぁかかってきなさい!」

「ではお言葉に甘えて」


 アルバートの顔から笑みが消える。両者武器を持ってぶつかり合った。アルバートの高速の剣技にリリアナは多少押されつつハルバートで応戦した。


「おおっとぉ!? 姫様押されてますねーちなみにハルバートを投げてくださったマリア様はリリアナ様お付きの貴族の子女様で、その愛らしさと強さにファンクラブがあります。そのファンクラブの勢いはリリアナ様ファンクラブを凌ぐ勢いだとか」

「リリアナ様も美しいのですが、お胸が、ね」

「マリア様はお強いだけでなく、その柔らかなプロポーションが最高です」

「マシュマロおっぱい万歳」

「客席うるさいわよ!!」


 リリアナが一瞬客席に気を取られた瞬間、アルバートが距離を詰め剣を大きく振りハルバートをリリアナの手からたたき飛ばした。


「「しまった……!!」」


 脚本ならリリアナが武器を捨てて素手の徒手空拳なるはずだった。だが、武器を飛ばされてカチンときたのもあり、あせったリリアナはぶぅぅと緑の毒霧をアルバートの顔面目掛けて繰り出してしまった。


「ぐあっ!?」


 想定していなかった毒霧をモロに顔面に食らってしまい、目に直接毒霧が入る。


(ぐ、ぐらぐらする。視界が定まらない……!!)


 リリアナの毒霧には本当の毒がある。それはプロフィールで知っていた。だが何の毒かまでは載っておらず、それ対策にアルバートは大会まで何種類もの毒を少しずつ服用し続けた。毒になれるためだ。


(それでもなおこの苦しみ……!! あの苦痛の期間がなければ一瞬で死んでいただろうな……!!)


 もはや視界は霞み、リリアナの姿も定まらない。銀色の何かにしか見えない。


「わ、私の毒霧を受けて立っているですって……!?」


 その声は揺らいでいた。アルバートは決してきいていることを悟られないように、なるべくにこやかな表情を浮かべて口を開いた。


「おやおや、この程度で毒というのですか? さすが姫様、お上品ですね」

「強がりはよしなさい。私の毒霧を受けたものは大抵三秒で気絶よ」

「では、きっと手加減なさってくださったんですね。いやぁ姫様はお優しい。それとも、俺に負けたくてわざとそうしたのでしょうか? そうですね、姫様だってもう十八歳、王族で言えばお嫁の行き遅れですもんね」


 ぷちんと何かがキレる音がした。見えないが、おそらく青筋を浮かべてブチぎれているのだろう。


「お父様でも遠慮して言わなくなった言葉を、よくも言ったわね……!! コロス!! お前は絶対コロス!!」

「姫様気にしてたんだ……」

「俺、永遠に独身貫く気なんだって勝手に思ってた」

「たぶん、白馬に乗った王子様が、なんじゃないか以意外と」


 すると声にならないびりりりぃぃぃと空気音が会場全体に響いた。がやがやしていた観客は押し黙り、緊張感が会場を重く支配する。


「さっきからぺちゃぱいだの婚期が遅れてるだの好き放題いいやがって……覚悟はできてるでしょうね……!!」

(姫の気合か、すごい効き目だな)


 さすが覇王と呼ばれることはある、とアルバートはびりびりといまだにリリアナの放った気合で痺れる手をぎゅっと握る。


「望むところです」

「再起不能にしてあげるわ!!」


 はぁぁぁとリリアナが拳を振り上げてとびかかる。拳に気を込めてアルバートを粉骨するつもりだ。


(やりすぎたな、それとも脚本通りに演じていらっしゃるのか?)


 アルバートは霊力を駆使して会場の石床を浮き上がらせ壁を作る。するとそれを拳連打でリリアナはすべて粉々にしてしまった。


「はぁぁぁ、粉骨雷神!!」


 チカっと黄色い早い光を感じ、アルバートは風で防御壁を作り出し、攻撃を避ける。


「でたぁぁぁぁ!! 姫様の粉骨雷神!! 雷力を纏わせ、重く速い蹴りによって粉骨する技だ!! だがアルバート氏も負けてない!! 風で応戦し、見事に避けた!!」

(雷力だって? ナマズ族しか使えないんじゃなかったのか?)


 やばいな、とアルバートはフラフラする意識の中生命の危機を感じ始めた。姫がどれだけ技を持っているかわからない。この毒にやられた状態でどれだけ戦えるか。


(くっ、しっかりしろ。俺はパフォーマーだ。アドリブも大事だけど、脚本通りに観客に魅せなければ意味がない……!!)


 己の矜持にかけて、アルバートはキレたリリアナの魔法と攻撃を受け身や風の防御壁でしのぐ。


(呼吸を整えるんだ、理力と気を掛け合わせて最強の防御と作り出すんだ……!!)


 毒でやられたからもあるが、リリアナの攻撃はどれも一級品だった。蹴りが来たかと思えば拳が飛び、凪返せば空中で舞ってかかと落としが頭上から振り落とされる。


「おおっと、アルバート氏、押されつつあるように見えるがさすが超者と呼ばれるだけある!! あのリリアナ様の攻撃をすべて受けてまだ立っている!!」

「ふふ、全然痛くもかゆくもないですね。リリアナ様が最強だなんて、フレスベルクの国は弱いですね」


 その言葉に観客たちがなんだとっといきり立つ。そしてリリアナ様やっちまえーーー!! と会場が一致団結してリリアナを応援しだす。


(これじゃ俺がヒールだな、すまん脚本家)


 カチンときたのは観客だけではないようで。リリアナはばっと飛びずさり攻撃をやめた。


「もういいわ、国民までも愚弄するなんて。次で決めてやる……!!!」


 はぁぁぁぁとリリアナの低い声がどこか遠く聞こえる。


(何かするぞ、暗黒崩壊破(デスペラード)じゃない。何か絶対想定外の大技だ)


 もはや理力と気力で乗り切るしかない。なぜなら脚本で次のアルバートの行動は大技を受ける、だからだ。


(俺はプロだ、やりきってみせる……!!)


 それは向こうだってきっと同じなはずだ。多少の文化の違いはあれど、これは親善試合。殺し合いではないのだ。


「出るか姫様の超魔法暗黒崩壊破(デスペラード)!! おおっと、ファンクラブの皆さま用意がいいですね、サングラスをもう着用なさってる!!」

「別名黒い太陽ですからね」

「その代わり裾が浮かび上がってお尻が丸出しになるのがいいんですよね」

「姫様、スタイルいいですからね。美尻です」


 もはや観客たちの声すら彼女の耳には届かないらしい。リリアナは手と手の間にバチバチと黒い電撃に似た光を作り出す。彼女の気と魔法によって髪の毛と裾が浮かび上がり、白く形のよいヒップが丸出しになる。黒レースのパンツが白い肌に似合っていた。


「おやおや、かわいらしいクマのパンツでも履いていると思いきや、意外と黒レースなんですね」

「そこがギャップ萌えです」

「さて、どうするアルバート氏!!」


 皆その暗黒崩壊破が出ると思っている。だがリリアナはにやっと笑ってさらに息を吸い込み、黒い光の玉を大きくしていく。


「おや? 姫様の様子がおかしいですよ?」

「あれはもしや新しい魔法では?」

「姫様の新しい魔法ですと?」


 がやがやと観客がざわめきだす。それは不安と恐怖によるものだった。


「おおっと! 見ると王族の席だけにバリアーが張られております!! ズルイです!!」

「いいえ、ズルくありません。いやならバリアーの張れる護衛をつけてください」

「そんな力も金もありません!!」

「それに皆さま姫様のファンなのでしょう? それなら姫様の魔法のとばっちりを食らっても本望でしょう」

「おおっと! マリア様笑顔でひどいことを言っておられます!! ちなみにバリアはマリア様が張られております!! 私も避難したいと思います!!」


 そう言って、茶化していた司会者の声がしなくなった。真剣にヤバイらしい。


(だが、受けるしかない!!)


 最大の防御をもってアルバートは構えた。


「食らい尽くせ!! 終焉連鎖(カタストロフィ)!!」


 巨大な黒い太陽が連続で何発もアルバートに向かって放たれた。

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