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4話:試合前のパフォーマンス

 大会が始まった。客席はほぼフレスベルクの者だった。ハイリレンの一部の富裕層が客席に少し見えた。


(しかし広いな、ここ)


 ハイリレンの闘技場があまりに大きく、そして闘技者と客席の間が遠いことにアルバートは驚いていた。

 ハイリレンの闘技場は客席と闘技者の距離が近い。そのため試合が間近で見れるしワクワク感が増す。その代わり闘技者はその限られた場所で全力を出さなければいけない。だがフレスベルクの闘技場は重厚な石造りで、客席も闘技場自体も広い。音響施設も簡単なものしか設置されておらず、まさに戦うためだけの場所である。


(というか、落ちたら死ぬだろこの高さ)


 試合のフィールドまで結構の高さの階段を上がって登場することになっている。当然落ちたらその高さを落ちることになる。打ち所が悪かったら最悪死ぬだろう。


「レディースアンドジェントルメーン!! さぁ、いよいよハイリレン共和国とフレスベルク王国の親善試合が始まりまーす! 司会はこの私、シンザルです!!」


 司会者がマイクで声を張り上げると、観客からうをぉぉっという声が上がる。


「では、両者フィールドに上がってきてくださいませー!」


 ドルルルルルと太鼓の音が鳴り響く。アルバートはどくんどくんと主張する心臓を押さえつけて、きっと階段の上を見据えた。


(落ち着け、今まで幾多の試合を乗り越えてきたじゃないか。やるんだ、やるしかないんだ)


 すぅぅと深呼吸をして、階段を上っていく。フィールドに上がると観客の熱気にやられそうだった。


「ハイリレン共和国の超者、アルバート!!」


 ジャーンとシンバルが鳴り響く。


「対するは我がフレスベルク王国の覇王、リリアナ・フレスベルク様だぁぁぁぁぁあ!!!」


 ジャーンというシンバルの音と共に客席から何者かが飛び出してくる。


(嘘だろ、あの高さと距離だぞ!?)


 だが飛び出してきた者はくるくると回転しながら華麗にフィールドに着地した。スラリとした体躯に美しい、白いチャイナ服を着て華麗の躍り出たのはリリアナだった。銀の長い髪をお団子にし、目じりに赤い花を咲かせている。太ももまであるスリットから出た生足がなまめかしく輝いている。彼女はきっとアルバートを睨むと司会者からマイクを奪い取った。


「何よ、せっかくの親善試合だっていうのにおしゃれ一つもしてこないのね、ハイリレンの男って。やぼったくて、女性にもてないでしょーね! 僕が言い過ぎました、すみませんでしたっていうまでぶちのめしてあげるわ!」


 ふんと鼻息を荒くして、マイクをアルバートに投げつけた。


(綺麗だ、だが心を鬼にしてやるぞ……!!)


 きゅっと一瞬目をつむって、すっとにこやかな笑顔を浮かべる。


「えぇ、フレスベルクの人は美しいですね。これから拳と技で語り合うのに綺麗に着飾ってくるとは。泣いてそのメイクがぐちゃぐちゃになっても知りませんよ? それとも、昨日お見合いの話を出したから、その気になって美しく着飾ってきてくれたのでしょうか? いい心がけですね。しかるところそれは花嫁衣裳と思っていいのでしょうか?」

「は? はぁぁぁぁ!? ふざけんじゃないわよ!! どんな思考回路してんの!?」


 かぁぁと白い肌を真っ赤にして、マイクなしでもよく通る声でリリアナは怒鳴った。


「このままじゃ姫様がお嫁にいっちゃうぅぅ」

「もうあのぺちゃぱいを見れなくなるのか……」

「寂しいな……きっと人妻になれば大きくなるな」

「惜しいぺちゃぱいをなくした……」

「黙れ観客!!」


 観客をリリアナが睨むときゃぁっという声が客席から漏れた。仲がいいなと思いつつもアルバートは言葉を続ける。


「聞くところによると、昔とある衣装が気に入ってこの衣装を着ないのなら舞踏会に出ないと言い張り、周りの反対を押し切ってその衣装を着たものの、胸のサイズが圧倒的に足りなくてタオルを大量に詰めたそうですね。ですが、ダンスを踊った男性に後で口説かれてカチンと来た際、回し蹴りをして胸の詰め物が吹っ飛んで以来、舞踏会には参加しなくなったそうで。フレスベルクの貴族の間では伝説だとか」

「な、なんであんたがその話知ってんのよ……!?」


 リリアナが眼光するどく王室が座っている客席あたりを睨んだ。だが彼らはがんばれーとにこやかに言い返すだけだった。慣れているのだろう。


「また聞くところによると、十五歳の時お父様のお気に入りの絵画を破ってしまい、尻が腫れ上がるまでお尻ぺんぺんされたそうですね」

「あ、あれはあっちが悪いのよ! あんなに普通においてるから、いらないのかと思って……」

「十五歳にもなって父親にお尻ぺんぺんされた感想は?」

「バカじゃないの!? そんなの試合と何の関係もないわよ!!」

「どうやら姫は強い男性に泣かされるのがお好きのようだ」

「ふっざけんな!! この!! イケメンが!!」

「姫様―それだとただの誉め言葉ですー!!」


 観客から届いた声に会場の皆がどっと笑った。


「この! ぐぅ! コロス!! もう!! いいわ、今から叩きのめしてやる!!」

「望むところです、姫様のその美しい化粧を涙でぐちゃぐちゃにしてさしあげましょう。それとも、それが望みですか?」

「コロス!! 絶対コロス!!」


 アルバートがにこやかな顔のまま内面冷や汗でダラダなのを知らず、リリアナが構えだした。アルバートはマイクを司会者に投げて同じく構えた。

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