3話:叩きつけた挑戦状
大会前夜、アルバートはフレスベルク王国の応接広間にいた。そこでは記者達が大勢集まり、今か今かと記者会見を待ち望んでいた。
「リリアナ様が来たぞ!」
がちゃっとドアを開け、腰まである銀髪をなびかせながら美しい足取りで、リリアナが入ってくる。
(似顔絵なんかより数百倍美人だ……なのに覇王か。たぶんスレンダー美人だが、筋肉とかすごいんだろうな)
そんな事を考えながら隣の席に座るリリアナをちらっと見た。
「……ふぅん、あなたがアルバート」
「はい、この度はよろしくお願いします。似顔絵よりもお美しいですね」
「よく言われるわ、あなたも似顔絵よりもきれいな顔立ちね」
「お褒めいただき光栄です」
にこやかに挨拶を交わすと、記者達が一斉にフラッシュをたいた。
「えーそれでは、ハイリレン共和国とフレスベルク王国の親善試合の記者会見を始めます」
(とうとう始まった)
どくんどくんと心臓が耳元でなっているようだ。今からこの美しい女性を煽らねばならない。良心は痛むが、それが脚本なのだから仕方ない。相手もわかっているはず。
「では、両者意気込みを語ってもらいましょう」
そう言って司会者がリリアナにマイクを渡す。
「リリアナよ、親善試合とは言え全力で相手をぶちのめす、それだけよ」
そう言ってぽいっとマイクをアルバートに投げた。ごくりと唾を飲み込んで、アルバートはマイクを握る。
「アルバートです。リリアナ様は豪傑なお方ですね、意気込みも短くていらっしゃる。そんなあなたを負かして泣きっ面をさせるのかと思うと今から楽しみでなりません」
「はぁ!? 今何って言った!?」
ガタンと音を立ててリリアナが立ち上がる。だがアルバートはにこりと笑顔を顔に張り付けたまま続ける。
「お耳が遠いようだ、こんなに近い距離で言ったというのに。それとも、理解力が遅いのかな? お胸もぺったんこだし、もしかして幼女だったりします?」
「な、なんですって!?」
今まで彼女に対してこんなことを言った人などいなかったのだろう。リリアナは顔を真っ赤にして怒っている。
「幼女を泣かして完全勝利を決めるのは心が痛みますね、一応俺も紳士なもので」
「どこが紳士よ! この顔がいいからって何言っても許されると思わないことよ!!」
「おやおや、俺の顔はお好みでしたか? 聞けばお見合いをその最強の武力でけり散らかしているとか」
「当り前よ! 自分より弱い男に嫁ぐ気なんてないわ!!」
「なら、あなたに勝てば俺はお見合い相手になれるんですね、試合後、楽しみにしております。あ、幼女じゃ無理でしたね」
「な、な、だ、誰があんたなんかとお見合いなんかするもんですか!! 第一私は幼女じゃない!! れっきとした十八歳よ!! あんたより十歳若いけどれっきとしたレディよ!!」
「そうでしたか、ではそのレディに敬意を払って試合では全力で勝たせていただきます。勝つのはハイリレン共和国のアルバートです」
「いいえ!! フレスベルクのリリアナよ!!」
バチバチと両者火花を散らせながら記者会見は終了した。
記者会見を終え、宿に戻りアルバートはふぅとようやく生きた心地がした。
「ちょっと言い過ぎたか? しかし十八歳か、見た目はすごく大人びてたな」
煽るために幼女と言ったが、その言葉はまったく彼女には不似合いだったなと思った。スレンダーな美しく無駄のない体躯。スリットの入ったスカートから延びる白く長い足、すらりと長い指をしていたが、その手は修業を積んだ固いものだった。
「この国特有なのか? すっぴん美人が多いのか、はたまたすっぴんにしか見えないメイクが流行ってるのか」
フレスベルク入りをしてから、見る女性のほとんどがノーメイクに近い状態に見えた。皆メイクなどしなくても内面から溢れる活力や美しさ、そして造形や所作の美しさによりメイクなど必要なかった。
「美人だったな、リリアナ様。よし、明日はがんばるぞ」
さらりとした銀髪の美少女を思い返す。おそらくあの怒りようは演技ではないだろう。もしかすると彼女の地雷を踏みぬいたのかもしれない。ならば手加減をしてくれない可能性もある。自分も強いという自覚はあるが、それはハイリレン共和国内で、というもの。彼らはパフォーマンスに重きを置いて闘技場で常に戦っている。フレスベルクのような実力主義ではない。ましてやリリアナは覇王だ、どんなに強いかもわからない。
「……全力を尽くすまでだ」
あくまでパフォーマーとして、アルバートは明日を全力でやりきるぞと気合をいれたのだった。