2話:王女の反応
白は嫌い、あの日を思い出すから。
そう言い放った日から、彼女の部屋の壁は黒く塗りつぶされた。
自分の部屋の戻ると、机の上に必ず目を通すこと、重要書類と書かれたものが置いてあった。
「何よこれ」
「今回の武闘会の脚本だそうです」
「ふぅん」
ぺらっとめくってフレスベルク王国最強の王女、リリアナはふんと鼻で笑った。
「何これ、この脚本家は死人を出したいの?」
お付きのマリアに書類を渡した。マリアはざっと目を通してまぁと驚いた声をあげる。
「姫様の必殺技を受けて立っていられる人なんですね、アルバート様って」
「そんな人間いるのかしら」
「でもプロフィールによると、このアルバート様って負けたことがないみたいですよ」
「だから選ばれたのね」
この国、フレスベルクでは国王より偉い覇王という役職がある。強さを求めるこの国では時々、為政者に向かない強さとカリスマを持った者が生まれる。そのため、その王族をコントロールしつつ役職につけるために覇王というものを四百年前に制定した。リリアナは第五代目覇王である。
「覇王であるこのリリアナ様をひょろっちいハイリレンの人間が倒したら……会場は盛り上がるでしょうね、そりゃ」
覇王が各地から集まった英雄に倒され平和が訪れる話は美談としてよく好まれる。国民は負ける側の覇王も好み、この国では負けの美学というものが貴ばれている。
「見てよこれ、私が大技を出した後に、相手が聖光天滅を出し私が倒されるって。大技を最後に出して、それを破られて覇王が負けるってセオリーすぎるわ」
「我が国らしくていいのでは?」
ぷっと二人で噴き出し、クスクスと笑う。
「こんな脚本なんか出さずに、私の技で一撃! とかにすればいいのに」
「姫様、それだと親善試合になりませんわ」
「面倒くさいわね」
「でも姫様、このアルバートって強いだけでなくなかなかイケメンですわよ?」
そういわれて初めて似顔絵が書かれていることに気づく。
そこにはやわらかい少しウェーブかかったショートの金髪の髪に優し気な面差しの青年が描かれていた。
「へぇ、どうせあれでしょ。似顔絵だから三割増しにイケメンに描かれているのよ」
「かもしれませんわね。姫様、試合の前日に記者会見があるみたいですわ。その会見の言葉と試合でのマイクパフォーマンスをちゃんと考えてくることって赤字で書かれてます、たぶんこれ左大臣の字ですね」
「私の性格、よくわかってるわね。めんどくさーい! マリア、代わりに考えてよ」
「思いつきません」
「あなた趣味で小説とか書いてるじゃない」
「んーでもこういうのは本人が書いたほうが迫力が出ますよ」
「はいはい、わかったわよ」
ため息を吐きながら、リリアナはアルバートの個人情報の紙に目を通す。
「……混血を極めし者って何よ、今時珍しいことじゃないでしょうに」
「ハイリレンはいろんな民族が集まった国ですものね」
他にも顔はいいのに女気がない、物腰が柔らかでしゃべっていると楽しい、イケメン、などまったく煽りに使えないことばかり書いてある。
「誰よこのアルバートの情報調べたやつ……私この情報見て煽ったら愛の告白みたいになるじゃない、やめてよ」
「素敵じゃありませんか、強い方好きでしょう?」
「お父様ぐらい強かったらね、最低でも私より強くないといやよ」
アルバートはどれくらい強いのだろう。脚本ありの戦いとはいえ、真剣にぶつかり合うのだ。
「……確かに、イケメンね」
似顔絵を見て、リリアナはふっと微笑んだ。