☆4☆双子姉妹は突然に…
「俺らってさ、もう必要なくね?」
外側の門番は、座り込みあぐらをかきながら、内側の門番へと話しかけた。
「そうだよね、悪魔はいないわけだし」
そうは言っても、他に秀でたこともないので、現状を維持するしかない2人は、今日も門の前にいる。
「ちょっと良いかしら」
うたた寝をし損なった外側の門番は顔を上げると、二人の女の子が立っていた。よく見ると、長袖からはみ出た掌がやけに赤っぽかった。
「この村に悪魔はいますか」
そんなのいないよ、滅びたんだから。そう、軽くあしらうと、うたた寝の続きを始めようとした。もう一人は、紫がかっていた。
「滅んでなどいない!」
初めに話しかけた女の子が激しい口調で怒り、ピンク色に変色した手からまとまった液体が放たれた。
『猛毒液玉』
水風船のような大きさのそれは、門番の脇をかすめ、地面に強く当たり割れた。すると、辺りの雑草は溶け地面も少しえぐれた。
驚き慌てる門番は飛び上がり、頼りない槍を構えた。門番である職務を全うするため、初めて人に向かって敵意を露にした。悪魔に支配されていた時でさえ、槍はいつも空を差していた。
「話にならない、早く退きなさい」
虫を払うかの如く、手を振った。それでも門番は、断固として動こうとしなかった。
紫がかった女の子が、一歩前へ進み手を青く変色させたかと思うと、おもむろに門番の心臓付近に手で指差した。
「ごめんなさい、急いでいますの」
『毒薬銃』
門番は、何が起きたのか理解できない状態のまま、白目をむき泡を吹いて気絶した。
門戸が大きく開かれると、内側の門番は怯えていた。外で異常が発生していることは分かった。しかし、ホウセンら頼れる人はいないし、自分には何が出来るのかと自問自答している内に、時が過ぎた。頼りない槍が呆れている様子だ。
二人の女の子は、戦意のない者には構わず、敷地内に足を踏み入れた。
「生活レベルは、そんなに高くないわね」
「空気は美味しいですの」
鼻に突く言い方の赤い子と目一杯深呼吸をする紫の子。二人は、ヒオーギやルピナスよりも洗練された能力を使える悪魔の子のようだ。お揃いの衣装に身を包んだ二人は、そのまま村の中心地まで歩を進めた。
悪魔を探す目的で訪れているこの四ツ星村には、悪魔はいない。そもそも、どの村にも存在するはずがない。外側の門番が言った通り、滅んでいる。では、どういう意図の発言なのか。悪魔と人間の間に生まれた子を、人間として扱う事が正しいと信じる者、はたまた悪魔として扱う者。人間離れした能力を使う時点で、悪魔に分類されるのかもしれない。そう考えると二人の発言は、少数派の者をあぶり出すのには適している。
「いたーーー!」
必死の形相でホウセンら4人のもとへと駆け寄った。四足歩行で近づく門番に、何事かと目を細めるや否や、ホウセンの視界いっぱいに接近してきていた。物凄く大変なことをアピールしている。
非常事態であることを理解したホウセンらは、二人の女の子に目を向けた。毅然とした態度でゆっくりと近寄った。
「ようこそ、四ツ星村へ。私は、村長のホウセンと申します」
ご用件を伺いましょうと、家の中へと案内しようとしたが、断られた。
「よろしいですわ」
「もう、用は済みましたの」
どういう事かと問うたとき、ヒオーギとルピナスに目線を送り
「あなた方は悪魔ね」
「私たちと同じなの」
悪魔の子を生かした選択が、悪い方へと進んでしまったのかもしれない。必ずしもヒオーギやルピナスのように、善人になるとは限らないのか。
そう頭によぎったホウセンは、はぐらかそうとした。
「な、何を言ってるんだ君たちは」
村長さんなら、知らないはずないですよね。と見透かしたように対応した。
反論をやめたホウセンは、悪魔の子である事実を公にした。しかし、悪魔ではなく人間であることは、方向性を曲げなかった。
「悪魔として生きるんじゃなく、人間から生まれたのは間違ってないんだから、人間の尊厳を持って生きるんだ」
ホウセンの熱い訴えも虚しく、十歳の女の子たちにはかすりもしていないようだ。
「もう用は済んだって言ってるでしょ」
怒りレベルが上がり、門の前で見せた技を再び繰り出そうとした。
「ねぇ、仲良くしようよ、同じ境遇なんだからさ」
割って入ったヒオーギは、その場の熱を冷ました。
「悪魔に魂を持っていかれた、お母さんを助けたいんだ。その為だったら何だって頑張れる。ね、協力してよ」
皆が注目する中、握手を求めた。
「そんなの出来ない」
腕を組み握手を拒否した。居場所を求めたヒオーギの右手は、静かにルピナスの手へと伸びていた。
「いや、何でよ」
慣れない真似をするから、断られた時の事を全く想定していなかった。苦虫を噛み潰したような顔をルピナスに向けるヒオーギは、そのまま後ろに下がった。
「どうして、仲良くできないの?」
ヒオーギに変わって前へと押し出された格好のルピナスは、直球で疑問を投げ掛けた。
「私たちは、悪魔族の族長であるグロリオーサの復活を果たそうとしているのよ」
語気を強めて悪魔の名を口にした。
「教えすぎですの!」
目的を深く言いすぎた故に、赤は紫に怒られている。良いじゃない、どうせ黙ってなんかいられない。とコソコソと話している。
「もう行きますの」
「グロリオーサ復活隊のアネとモネに会って、命が助かって良かったわね」
そう言い残した二人は、風を起こし辺りの砂や枯れ葉を巻き上げて、姿を消した。
☆登場人物紹介☆
ヒオーギ☆悪魔の子
ルピナスは双子の妹
朱い眼から散らつかせた火花での攻撃が特徴
ルピナス☆悪魔の子
ヒオーギは双子の兄
流す涙には時間を操れる効果がある
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グロリオーサ☆悪魔族の族長
大噴火による天災で滅ぶ
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リリー☆四ツ星村の住人
ヒオーギとルピナスの母親
ホウセン☆四ツ星村の村長
元々は護衛の職に就いていた
マリーゴ☆四ツ星村の住人
元々は護衛の職に就いていた