☆1☆10年後の子供たち
共に10歳の誕生日を向かえた日、二人に少しずつ変化が訪れた。悪魔の能力が芽吹き始めた。
「俺が先に見つけたんだぞ」
「いいえ、私よ!」
庭で見つけた綺麗な一輪の花を二人が取り合った。激昂したヒオーギが力を込めた瞬間、パチパチと朱い眼から火花をちらつかせ、火の粉が花に移り燃えてしまった。
ヒオーギは驚き、ルピナスが悪いんだからなと言い放ちその場を離れ、家の中へと入っていった。ルピナスは花の燃えカスを見つめ、あなたは悪くないよ、と呟いて涙を一粒落とした。すると、散らばった燃えカスが一つに集まり元の姿に復元された。まるで時間が戻ったかのように。
「どうして?」
思わず呟いた口をすぐに手で塞いだ。何度も読み聞かせてもらった絵本が、頭をよぎった。急いで花をその辺の草木で覆い隠し、何事もなかったかを装い家へと戻った。
ヒオーギは、感情を抑える事が苦手なようだが、ルピナスは違う。少々大人びている。
数日後、村では10歳を迎えた子供たちを祝うパーティーが開かれた。悪魔が滅んだ、大噴火のあった日を記念日としている。十年祭だ。
悪魔に支配されていた時は、生け贄として犠牲になっていた。でも今はもう、そんな世界ではない。10年生きた子供たちは、この先も生き続けるのだ。
「10歳になった子供たちよ、おめでとう」
ホウセンは、村長職を引き継いでから、随分と白髪が増してきた。同い年のマリーゴは、各地を飛び回っているせいか、まだまだ凛々しい顔立ちだ。
十年祭と書かれた幟やお祝いの横断幕が、それぞれの家から掲出され、きらびやかな装飾で彩られている。
村の広場では、豪華な食事やデザートが振る舞われていた。皆、普段は口にすることのない食べ物ばかりなので、夢中になり過ぎている。故に、ホウセンの話など誰も聞いていない。
「ヒオーギ、文字の読み書きは上達したか」
「どうせ、絵本の絵しか見てないよ」
「教えてやれよな、ルピナス」
二人の前に、同じ10歳の悪がき男子3人組が現れた。
ヒオーギとルピナスでは、頭の出来に雲泥の差が生じているようだ。
「もう、放っておいてよ、関係ないでしょ」
ルピナスは、いつもこうして庇っている。ヒオーギも、バカにされていることくらいは、感づいている。だから、すぐに手を出してしまう。その感情を抑えるのをルピナスが担っている。
家へ帰ろう。元々二人は長居するつもりもなかった。毎年この十年祭が催される日は、母・リリーが一歩も部屋から出られない日だから。
10歳になるまでは、ホウセンが預かってくれていたけれど、もう頼れない。
ようやくたどり着いた二人は、明かりの消えた真っ暗な家へと入っていった。
「早く部屋に入っちゃおう」
寝ているかもしれない母を起こさないように、足音を最小限に進んでいく。
「待って、なんか濡れてない?」
ヒオーギの服の袖を引っ張りながら、母の寝室を指差す。
扉が少し開いており、その隙間から液体のようなものが漏れ出ている。暗くてとても見えづらいが、月明かりで床が光っている。
「開けて……みる?」
二人で目配せしながら、恐る恐る扉に近づいた。冷たく感じる液体が、足を濡らしていく。そっと、ドアノブに手を伸ばした。
「駄目だ、熱くて触れない」
ドアノブに触れる前から熱気が伝わってきた。ヒオーギが片付け忘れていた玩具の短剣が落ちていたので、拾って手渡した。
「隙間から入れて、こじ開けてみて」
言われるがまま指示に従うヒオーギは、剣を右手で持ち左手を右手の下の空間に差し、壁に向かってテコの原理で一気に押した!
「何だよ、これ……」
言葉を失うヒオーギとルピナスの目の前には、ベッドに横たわるリリーともう一人いる。
「ん?おぉ!!我が子よ。大きくなったな」
野太い音に、どこか金切り声混じりに聞こえる声の主は、大きな身体だった。いかんせん暗い。しかし、今まさに母の大事な何かを持ち去ろうとしてるように思えた。
「じゃあ、またどこかでな」
唖然とする二人にそう言うと、立ち去ろうとした。
「待て!待て!!」
思わず手に持った短剣を大きな身体の者に向かって、投げつけた。感情の高ぶったヒオーギの朱眼から、火花が散り短剣に纏わりついた。
しかし、それは幻影であり当たらなかった。短剣は脆くも焼け焦げ、辺りの水により消火された。
強張っていた体から急に気が抜けた二人は、その場へ倒れ込み意識を失うかのように眠ってしまった。
☆登場人物紹介☆
ヒオーギ☆悪魔の子
ルピナスは双子の妹
朱い眼から散らつかせた火花での攻撃が特徴
ルピナス☆悪魔の子
ヒオーギは双子の兄
流す涙には時間を操れる効果がある
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グロリオーサ☆悪魔族の族長
大噴火による天災で滅ぶ
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リリー☆四ツ星村の住人
ヒオーギとルピナスの母親
ホウセン☆四ツ星村の村長
元々は護衛の職に就いていた
マリーゴ☆四ツ星村の住人
元々は護衛の職に就いていた