4.悪魔の子
「なぁ、リリー。分かってくれよ」
双子に覆い被さるように守り、決して離れない。
「私だって、悪魔に虐げられてきた村人の一人ですから、ホウセンさんの言うことは理解できます」
でも、やっぱりこの子たちは私の子です。
「悪魔の子なんかじゃ、ありません!」
言い返そうとしたホウセンだったが、ぐっと堪えた。これ以上言い争っても仕方がない。革製の肩掛け鞄を探り、一冊の絵本を取り出した。
「悪魔と剣士の物語だ。言葉が理解できるようになったら、読み聞かせなさい」
悪魔の血を呼び起こさせないために、恐ろしさを植え付けなさい。我々は二度と惨劇を繰り返してはならない。
そう言い残し、その場を離れた。
安堵の表情のリリーは、双子の顔をもう一度よく見る。笑った顔の二人はまるで、天使のようだ。
__________________________
「他の集落でも、父親の分からない女性から子供が産まれたそうだ」
外へ視察に出ていたマリーゴは、もう一人の護衛だ。
「そうか、恐らくはあの時に連れて行かされた女性達だろう」
十中八九、悪魔の子に間違いない。ホウセンは、すぐに全村会議に向かった。
悪魔が滅んだ後に設立された会議では、医療や貿易など千差万別に話し合いが行われる。医師の派遣や作物の売買が盛んになっていった。
もちろん、緊急を要する場合にも開催される。今はその時だ。
「悪魔の血を流した子供は、生かしてはおけん!」
「しかし、確証はありませんよ」
それぞれの村で意見が違い、まとまらない。
「私の村の話なのですが……」
立ち上がり話し始めたのは、ホウセンだ。
「双子でした」
他村の人々は、驚愕した。
「私も生かしてはおけないと思っていました。しかし、母親の愛は固く頑丈でした。悪魔に利用させれてきた我々が、悪魔と同じように殺めても良いのでしょうか」
だんだんと場の熱は収まってきた。
「たとえ、悪魔の血が流れていたとしても、人間から産まれてきたのです。我々で育てていきましょう」
拍手と共に賛同を得られ、悪魔の子は生かされることになった。
◎ ◎ ◎
それから、10年の時が流れた。
ヒオーギとルピナスは、互いに10歳の誕生日を迎えた。