3.朱眼と蒼髪
「めでたいなぁ、今夜は宴だ」
子を授かり、手放しで喜べるのは初めてだ。生け贄の事を考えなくても良い。皆で暮らしていけるのだ。
「ところで、名は決まっているのか」
ベッドを取り囲む村人たちは、キラキラと輝かせた目と微笑ましい顔付きで期待を高まらせている。その遥か後方には中年が佇んでいる。生け贄としてこの世を去った村長に代わり、今はこのホウセンという者がこの村を治めている。
「男の子がヒオーギで、女の子がルピナスです」
幸せ満載の笑みを浮かべながら、爽やかに返答する女性は、紛れもなく双子の母親だ。
可愛らしい名前、たくましいネーミングセンスだなどと、褒めちぎる村人たちの前に、待望の赤子が登場した。
朱い眼の男の子と、蒼い髪の女の子。
一瞬にして空気が凍りついた。ざわつく村人たちも、悪魔族のグロリオーサを噂程度にしか知らないが、その容姿は恐怖感を覚える。
「おいおい!どういう事だこれは」
堪らず大声を発したのは、ホウセンだ。
「俺はこの目ではっきりと見てるんだぞ、悪魔を。双子で分けあってはいるが、そのままだ」
実はホウセンは、村長を護衛していた一人だ。
「お前まさか、あの日……」
悪魔たちと何があった?
村人たちも、父親は分からないらしいよと、ヒソヒソと話し始めた。
「言いたくありません!それに産まれてきたこの子たちは、何も悪くないです」
必死に子を守る姿は、母の鑑だ。
「駄目だ!二人ともこの場で処刑する」
その言葉に、村人たちは息を呑む。
「待ってください。この子たちがどうやって危害を加えるのですか。まだ赤ん坊ですよ」
赤子だから殺すんだ。我々が内側から滅ぼされるぞ。
落ち着きを取り戻したように諭し、理解を得ようとする。村人たちは、どちらに賛同するかは決められずにいるようだ。