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☆16☆兄妹の絆


 私の声が届かない。気配も感じてもらえず、振り向いてもくれない。望まれた子供ではなかったけれど、2人でいたから、ヒオーギと一緒だったから、生きてこられた。つらい時も悲しい時も、もちろん嬉しい時や楽しい時も、常に共有してきた。


「これからも、ずっとずっと一緒だよ」

 ヒオーギに直接触れようとするルピナスは、ゆっくりと火柱に手を伸ばした。兄の生成した火は、とても熱い。でも、どんなことでも共有してきた妹にとって、兄のピンチを放っておけるわけがない。熱さなんて我慢できた。

 

「フッ、バカなことを……息絶えるのも時間の問題ね」

 

「やめな、ルピナス!」


 デイジーの軽蔑する態度や、ネリネの声は眼中にない。引き離そうとするネリネも、その熱さに耐えきれず、近付くことが出来ない。


 火は、あっという間にルピナスを飲み込んだ。火に包まれたルピナスは、立っているだけでも不思議なくらいだ。




☆     ☆     ☆




「はい、今回も100点ね」

 学校においてヒオーギは、いつも満点の成績をとり、クラスメートからも慕われている。

 誇らしげな顔のヒオーギは、ルピナスからも尊敬の眼差しを向けられる。


 太陽が姿を現し、母親も無事で、世界は平和に満ちている。そんな世の中をヒオーギは、思い描いている。理想どおりの世界に、もう疑問を持たなくなっている。


 その日の帰り道、ルピナスと共にいるヒオーギは、暑さを指摘した。

「今日は、いつもより太陽が元気だな」

 半歩後ろを歩くルピナスの反応が薄い。

「暑さにやられたか?」

 振り返るヒオーギは、火に包まれるルピナスを見て、言葉が詰まった。



「「ヒオーギ!」」


 

 ルピナスの声であることは確かだ。しかし、どこから聞こえているのか。



「「ヒオーギ!」」



 目の前にいる妹からではない。どこか遠くの空から聞こえてくるようだ。


「「目を覚まして!」」



 近付いてくる声に怯えるヒオーギは、辺りを見回す。




「「バカ兄貴!」」



 声は、ヒオーギの目の前にいる、ルピナスから聞こえた。

 その瞬間、火に包まれた右手がヒオーギを掴む。驚く兄は、咄嗟に目を瞑った。



 悪魔の子だ。花が燃えちゃった。どうしてこんなにも頭の出来に、差があるのだろう。剣さばきは得意なようだ。母を救うんだ。ルピナスと一緒なら、どんな困難でも乗り越えられる。


 一気に本当の世界へ引き戻され、今までの出来事を思い出した。


 

☆     ☆     ☆



 目を開けると辺り一面、炎に包まれている。


「どうなっているんだ?」

 キョロキョロ見回すヒオーギは、火に包まれた人影を確認した。


「ルピナス!」


 一直線に駆け寄った。火から引き剥がし抱き抱えた妹は、まだ意識がある。必死に妹の名を叫ぶヒオーギは、ありがとうと感謝を述べた。その眼から涙が流れることはない。

 ルピナスをゆっくりと寝かせ、立ち上がるヒオーギは、剣でドーム状の火柱に穴を開けた。ネリネと入れ替わる形で外へと出た。

 


「俺の妹にこんなつらい思いをさせるなんて、絶対に許さない」

 メラメラと燃える眼から、火花が散る。さらに、ヒオーギの頭から悪魔の角が生え始める。


「覚悟しろ」


 1歩ずつデイジーに近付きながら、熱風を放つヒオーギに、洗脳された村人は、次々に吹き飛ばされていく。 

 剣先を首筋に向けられたデイジーは、両手を挙げ降参するかのように泣きわめいた。


「ごめんなさい、ごめんなさい。皆から美しいと言われたいだけだったの」

 謝り続けるデイジーの姿を見てヒオーギは、戦意が無いことを確認し剣を下ろした。それと同時に、悪魔の角は髪に埋もれていった。



「皆を洗脳領域から解放するんだ」

 孤独だったのだろう。皆に認めてもらいたかったのだろう。そして、能力の使い方を誤った。

 分かったと言いながら頷くデイジーは、地面に手を触れ村人たちからの洗脳を解いた。

 洗脳状態時の記憶がない村人は、状況理解に時間を要した。家族や友人を確認し合いながら、互いに抱き合う姿にデイジーは、何を思うのだろうか。また孤独に戻ってしまう。そんな不安を抱えていることに違いない。

 ヒオーギは、デイジーに歩み寄り耳元で囁いた。


「村の皆と協力して、火を消してくれないか。もちろん能力は使わず、デイジーの声を届けるんだ」

 

 その言葉を聞いて泣き止むデイジーは、立ち上がり村の皆へと向けて話し始めた。


「皆、聞いてほしいの。今さら謝っても謝りきれないほど悪いことしたけど……お願いします。私の、私の友達を助けてほしいの。力を貸してください」


 深く頭を下げ懺悔する様子に村人たちは、黙って聞いた。そして、村のピンチにただ佇むものは誰一人いなかった。村から長く続くバケツリレーは、直ちに形成された。その団結力にデイジーも、心が晴れやかな気持ちになった。孤独を味わう陰りは、どこからも消え去っていく。

 ネリネの内側から放つ水と合わせて、すぐに消火されていった。


「ルピナス、ルピナス」

 ヒオーギは、横たわるルピナスに声を掛ける。ゆっくりと(まぶた)を開き、起き上がるルピナスは、信頼する兄に抱きついた。火傷を負った皮膚が、お互いに信じぬいた証だ。まだ、話すことは難しそうだったが、ルピナスの言いたいことは分かる。双子だからだ。

 ルピナスの目から涙が落ちるが、自らの皮膚の時間は戻せない。村人に担ぎ上げられベッドへ移され、応急処置を施されたルピナスは、静かに眠った。数日間は、体を動かすことさえできず、村に留まらせてもらった。

 デイジーは、その後も能力を使うこと無く、家族の元へと帰ることができた。畑仕事に汗を流す日々が続く。不器用で時間も掛かるが、着実に進めている。その一生懸命頑張る姿に、両親からの信頼も高まっていく。いつしか、話しかけられることも多くなった。友達と呼べる者もできた彼女の顔は、満開の笑顔に咲き誇っている。



☆登場人物紹介☆


ヒオーギ☆悪魔の子

     ルピナスは双子の妹

     朱い眼から火花を散らつかせられる

     周囲の温度を上げられる

     火技:火炎狙撃(ファイアシューティング)



ルピナス☆悪魔の子

     ヒオーギは双子の兄

     蒼い髪には時間を操れる効果がある

     時間技:時間超正転(タイムアドバンス)



ネリネ☆悪魔の子

    全身から溢れ出る水で、通った道はいつもぬかるむ

    水技:水力鉄壁(ハイドロウォール)



___________________________



グロリオーサ☆悪魔族の族長

       大噴火による天災で滅ぶ



___________________________


アネ☆悪魔の子

   モネは双子の妹

   グロリオーサ復活隊を構成する一人

   赤い掌→変色するとピンク色

   風を起こせる

   毒技:猛毒液玉(ポイズンボール)




モネ☆悪魔の子

   アネは双子の姉

   グロリオーサ復活隊を構成する一人

   紫の掌→変色すると青色

   風を起こせる

   毒技:毒薬銃(ポイズンピストル)




ヨモギ☆悪魔の子

    グロリオーサ復活隊?

    傷口に手をかざすと現れる葉には癒しの効果がある

    回復技:治癒草(ヒールリーフ)




___________________________


リリー☆四ツ星村の住人

    ヒオーギとルピナスの母親

    魂を持っていかれ瀕死の状態



ホウセン☆四ツ星村の村長

     元々は護衛の職に就いていた


マリーゴ☆四ツ星村の住人

     元々は護衛の職に就いていた

     諜報役も務めている

     



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