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2.生け贄の子供

 


 グロリオーサの居城は、紫山に存在する。紫色の葉が特徴的な木々で生い茂っている。麓の集落が、よく見渡せるような場所に位置している。山道は険しく、この山にしか存在しない生き物もいる。赤いコウモリに黄色いヘビ、青いカエルなんかもいる。



「大丈夫ですか、村長」

 子を抱き歩く山道は、過酷さを増す。


「赤子は私が持ちましょう」

「ダメじゃ! 生け贄になる子供からは、手を離さない。最後まで一人にはしたくないんだよ」

 失礼しましたと言い、周囲の危険に目を配る。



 城門の前まで来た。意外にも装飾は少ない、機能性に重きをおいた門だ。


「生け贄を献上しに来た、四ツ星村じゃ」

 門番は一人だ。悪魔族も人手が足りないのだろうか。


「子は何処だ、見せろ」

 2人の護衛は、大きなマントで多めの草木を腹の前で隠し、あたかも子供を抱いているように見せた。


「寒さでな震えてるんだよ。勘弁してやってくれ、まだ子供だ」

「いや、見せろ」


「生け贄様じゃぞ!」

 腰を曲げた村長は、覇気のこもった形相で悪魔門番を睨んだ。


「あぁ、分かった。この先だ」

 門を開け階段の頂上を指差した。

 急ごう。階段を1歩また1歩と確実に上っていく。


「おぎゃあ!」

 赤子が目を覚ました。


「なんだ!?」

 まずい……、バレたか。


「護衛の2人、何で草が足元に散らばってるんだ? じじい、背中のコブでかくないか?」

 相手は1人、いざとなれば倒せなくもない。護衛の2人で目配せする。


「「まだか、早く来い!!!」」


 グロリオーサの野太い声が山に響く。悪魔門番は背筋を伸ばす。

「早く行け。貴様らで最後だ」



 門戸が閉じられる音と同時に、足早に歩を進める。城内の生け贄献上場では、すでに他の集落の者が集まっていた。村長たちは皆一様に、二人の子供を連れている。


「遅かったな、大丈夫だったか」

 隣の集落の村長が話した。


「無駄口を叩くな、さっさとしろ!」

 グロリオーサの怒号が飛ぶ。

 北の集落から東、南、そして四ツ星村のある西の集落の順番だ。さぁ、いよいよ審判の時。


「今月も皆怯えているな。いつも通りだ。よし、次で最後だ」

 3人は、前へ出る。


「四ツ星村です。グロリオーサ様に一つご提案がありまして」

 恐る恐る、伺いをたてた。


「うるさい! さっさと置いて立ち去れ」

 ゆっくりとおぶった赤子を下ろし、台座に寝かせた。


「んあぁ! 死にたいのか、八つ裂きにされたいのか、滅ぼされたいのか」

 怒りがこみ上げて来ているのが分かる。人間の背丈の2倍近くの悪魔護衛たち十数人が、槍を向け取り囲む。周囲の集落の者や生け贄の子供らが、村長に目を向ける。


「今年は二人少なかったのです。どうか、この赤子と村長のわしで、勘弁してはもらえませんでしょうか」

 グロリオーサに向けて、深く長く土下座をする。


「アホか、なぜ10歳か考えたことがないのか。赤子は食べた気がせん、成長して大きくなれば味が薄れ汚れる。月に1度の晩餐会だぞ。旨いものが食いたいだろう」

 沸き立つ悪魔たちは、今にも襲い掛かってきそうだ。


「まぁ、いないものは仕方ない」

 村長は、安堵の表情に顔上げる。


「ただし、代わりに20歳の女を差し出せ! 各集落から一人でいい」

 それで勘弁してやる。さっさと帰れ!


「ありがとうございます。皆も申し訳ない」

 村長らは立ち上がり、帰路に着こうとした。


「その赤子とお前は帰るなよ」

 生け贄なんだよな。

「人間の護衛の2人、もう草芝居は必要ないだろ。村に帰って村長の代わりに伝えろ。来月の満月に、生け贄と共に連れてこい」

 低く野太い笑い声が響き、悪魔たちに連鎖する。山も呼応して静かに揺れた。



 そして、次の満月の日。生け贄の子供二人と女を連れて、護衛の2人が山へと向かった。

 女は数日後にそれぞれの村へと帰された。村の住人たちは安堵した。無事でよかった。ただ、女の生気はここにあらずと言った状況に近かった。数日経ち徐々に回復してきたが、あの日に何があったのか、頑なに口を割らなかった。


 山の様子がいつもと違う。地響きの日が多くなってきた。悪魔たちが騒いでいるのか。ここ数日、村の周りに悪魔を見なくなった。

 すると、大きな揺れと共に山が叫んだ。噴火だ。それもとてつもなく巨大な。

 村人は数日間、外へ出ることなく過ごした。火山灰で作物や家畜はダメになったが、生きることを優先した。山に流れた溶岩で、初めての明るさを目にした。山の怒りが鎮まったあと、護衛の2人は、山の調査に向かった。



 草木は荒れ果て禿山となり、特異な生き物も姿を消した。もちろん、悪魔族もろとも。しかし、まだこの世界は太陽から見放されている。





◎     ◎     ◎





 生け贄を捧げなくなって、1年近くが経とうとしていた。ある日、村の一人の女性が子供を授かった。なんとも珍しい、双子だった。



 

 

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