表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/37

1.悪魔族のグロリオーサ

 ここは、淀みきった太陽のない世界。悪魔族が人間を支配している。奥歯付近から皮膚を突き破り出た大きな牙に、細長い眼、筋肉で引き締まった腕や足、声は野太く低い。髪色は、特に統一感はないが鮮やかだ。その中でも、族長である大悪魔は、蒼い髪に朱い眼、黄色く尖った硬い爪に、右足は白く変色している。紫がかった肌には少々目立つ。




「そろそろ、あれの時じゃないのか」

 人間の住まう集落は、悪魔への食事を作るためにあり、高い木の柵で囲われている。柵内では、牛や豚に鶏や羊が育てられ、米や小麦などが耕されている。その内の9割は悪魔へ提供され、残りの1割を分け与えてもらえる。そして、月に1度、雲が裂け満月が見えるとき、10歳の子供を二人、生け贄として献上しなければならない。



「はぁ~、今月もまた、小さな命を犠牲にしなければならないのか」

 溜め息混じりに不満が溢れる。門番は悪魔との仲介役も担う為、常に誰かはいなくてはならない。


「おい! あまり大きな声でそんな否定的なことを口にするな、どこで聞いてるか分からないんだぞ」

 原始的な槍に、質素な甲冑を身に纏った2人は、門を挟み内と外で見張っている。


「大丈夫さ。満月なら悪魔たちは皆、山に戻ってるはずだ」

 座り込んだ外側の1人が続けて話した。


「それに、食事や生け贄を差し出し続けている以上、俺達は殺されない。そういう契りを交わしている」

 随分と肝の座った彼は、何度も生け贄になった子供を見送っている。

「村長と悪魔族の族長"グロリオーサ"との間でな」



 雲が裂け始めた。満月の光が差し込む。


「さぁ、門戸を開けよ。生け贄を捧げに向かう」

 身構えた内側の門番は、感謝申し上げますと声高に言うと、外側の門番と息を合わせて、門を引いた。


「おいおい爺さん、その子を生け贄に?」

 村長は、10歳の子供ではなく、わずか10ヶ月程の赤子を抱いていた。


「しかも、一人だけじゃないか」

 村長と護衛2人は、何も言わずに先へ進もうとする。


「いやいや、それじゃ悪魔は満足しない。あとで何をされるか分からないぞ」


「仕方ないじゃろう。今年組も大勢いた。生け贄の他に村の存続もしなけりゃならないからな。大事に大事に育ててきた。しかし、10年の間に病や怪我の悪化、寿命が尽きた者も含めて減っていった。今年に入って二十二人も子供を捧げてきた。もういないのじゃよ。来るべき時が来た、それだけじゃ。前例はないが、この子とわしで交渉してくる」



 門番の2人は口をつぐみ、静かに村長を見送った。そうすることしか出来なかった。


「どうするんだよ、絶対に激昂して襲いに来るぞ」

「でも、村長が交渉するって」

「そんなの上手くいくわけないだろ! 村長は、覚悟を決めた目をしていたんだ」

 くそっ! しゃがんで地面を強く叩いた。ぬかるんだ地面が、やりきれない気持ちを増幅させる。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ