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姉からの贈り物  作者: 秋田リリ
2/6

食事

 コン、コン。

 ドアをノックされる。


『向日葵、今いいかしら?』


「忙しいから無理」


 適当な理由で帰ってもらおうとした。

 けど、ドアが開いた。


「それが忙しいっていう人の恰好?」


「うん」


 私はベッドに寝転がって、部屋に入ってきた姉には目もくれずに小説を読んでいる。

 何の用事だろうか。


「なんの用?」


「一緒にご飯でも行かないかしら?」


「なんで」


「なんでと言われても、私が向日葵と一緒に行きたいからよ」


「忙しいから無理」


「一緒に行ってくれるまで、この部屋に居座るわ」


 そういい、姉はドアの前で座り込む。

 突然、どうしたというのだろうか。

 ここまで、頑固な姉を見たことがない。

 が、小説を読むのに忙しいので諦めてもらおうと思い、読んでいた小説に集中する。



 ~5分後~


「……」


「……」


 ~10分後~


「……」


「……」


 ~30分後~


「いつまでもそこにいると迷惑」


「じゃあ、ご飯を食べに行きましょう」


 会話になっていない。

 多分、一緒に食事にでも行かないといつまで居座るのだろうと思った。

 仕方なく一緒にご飯を食べることにした。




 数十分後、私と姉は近くのファミレスへとやってきた。


「向日葵と食事なんていつぶりかしら」


「さぁ」


「さぁって、私はとても嬉しいのに」


「そう」


「お姉ちゃん寂しいわ」


 どうでもいい。早く二人きりの空間から逃げ出したい。

 いつもなら私が何かを断るとすぐに諦めるのに、今日だけはいつもと違った。

 何かあるのだろうと思った。

 ただ、その何かが分からないから逃げたい。


「私は決まったけど、お姉ちゃんは?」


「向日葵と同じのでいいわよ」


「そ」


 ピンポンを鳴らし、店員が注文に聞きに来るのを待つ。

 すぐに店員が来て、料理を注文する。

 その注文からしばらくして、料理が運ばれてきた。


「いだたきます」


「いただきます」


 会話はない。

 お互いに目の前の料理に夢中になっている。

 そんな中、姉がふと私の方を向いた。


「向日葵。あなた一人暮らしするって本当?」


 どこから聞いたのだろうか。

 あそこに居場所がないから、私だけの居場所を作ろうと一人暮らしの準備をしている。

 だが、そのことを両親はもちろんのこと、姉にすら言っていないのだ。


「誰から聞いたの」


「友達から」


「そう」


「それで、本当なの?」


「うん」


「理由を聞いてもいいかしら?」


「答える理由がない」


「なら、今日は一緒に寝ましょう。それが嫌なら答えて頂戴」


「……。あそこに私の居場所はない。それだけ」


「……そう」


 沈黙が訪れる。

 そしてまた、料理に目を向ける。

 しかし、私はいつの間にか食べ終わっていたらしい。

 あとは姉が食べ終わるのを待つだけだ。


 重苦しい沈黙の後、姉はまた私の方を見る。


「向日葵の一人暮らし、私もついていっていいかしら」


「はぁ? なんで」


「心配なのよ。ちゃんと一人で暮らせるのか」


「今も自分のことは自分でやってる」


「そうだったわね」


 また沈黙が訪れる。

 そして、姉が料理を食べ終えるのを見るとすぐに席を立ち、会計に向かう。

 自分の分のお金を出そうとしたとき。


「今日は私のわがままで付き合ってもらったのだから、向日葵は出さなくていいわよ」


「そ」


 私は外で姉を待つことにした。


 そして、本当に久しぶりに姉妹一緒に帰路につく。

 姉は私の横を歩くが、隙間が人ひとり分空いている。

 その隙間こそが、埋めることができない姉妹の溝だ。


 信号に捕まり、私は子供の頃を思い出していた。

 よく、手を繋いでと姉にねだっていたなと。


 そして信号が青になり、横断歩道を渡ろうとした。

 しかし、姉が来る気配がなく、振り返ると。


「向日葵ッ!!」


 とても必死な表情の姉がいた。

 そして私は姉に引っ張られ抱きかかえられた。


 私が最後に見たのは、私に抱き着く姉とその背後から迫るトラックが映った。

 そこで、私の意識は途絶えた。

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