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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

凸凹道中記

 ドゴオオオオオォォォォォォン!!

 ドゴドゴドゴオオオオオオォォォォォォォォン!!!!


 ギガ・リバースネール(巨大タニシ)が土煙を上げながら迫って来ます。陸上に居るのだからギガ・スネール(巨大カタツムリ)で良いんじゃないかと思うんですよね? 何故にタニシか?

 まぁ、見た感じタニシなんですら、リバースネールなんでしょうけど。

 そんな巨大タニシが、雷鳴の様な足音を轟かせながら木々を薙ぎ倒して来ています。


 あ、すみません、自己紹介がまだでしたね。私の名前は乙貝(おとがい) 瑞葉(みずは)と言います。地球人です。

 この世界的に言うとミズハ・オトガイに成るでしょうか?

 薄々感づいていらっしゃるかもしてませんが、私、転生者と言う事に成ります。地球で死んで、このアースペアの世界に転生しました。

 転生と言っても、享年である14才のまま転生しているので、この世界に親と呼べる人達は居ませんが……


「ラウズさん、もっと揺らさない様に走れませんか?」

「ちょ、おま! ミズハ! 無茶言うんじゃねぇよ!! てか、何とか成んねえのか!!」

「か弱い乙女に無茶言いますね、何とかできるならやってますよ」


 私を背負子で担ぎながら、ラウズさんが私に無茶振りをして来ます。

 ラウズさんは、色々あって一緒に旅してる狼の獣人さんで、私の足代わりになってくれている冒険者さんです。

 ベテランを標榜していますが、私よりも戦闘は出来ません。ヨワヨワです。

 確かに経験だけは豊富なようですが、全く生かせてないだけに無駄に年喰ってるだけですね。

 もっとも、20才そこそこらしいですが。


「……何か不名誉な事、考えてねぇか?」

「考えてませんよ、良いですから走ってください」

 

 ぶつくさと言うラウズさんの文句を聞き流しながらも、私は背負子の上で紙飛行機を折って行きます。

 見ての通り、私は14才の小娘なので、通常、ラウズさんの背負った背負子に座って移動しているのです。


 軟弱と笑う事なかれ。都会っ子の私の体力は、舗装もしていない道では1時間も持てば上等です。ましてやこんな獣道では30分も持たない事請け合いなのですから。


「よし、出来ました!! いけ!!」


 空中に放り投げられた5機の紙飛行機。それは、編隊を組んでギガ・リバースネールに向かって飛んで行きます。ですが……


「やっぱり、ダメージが通りませんね」


 何度目かの攻撃ですが、やはりその堅い殻に弾かれてダメージを与える事ができません。軟体部分も、打撃系ではあまりダメージが通らないようです。『ミス ダメージをうけない』と言うヤツですね。

 折角、転生特典で貰ったユニークスキル『ザ・ペーパー』なのに、良いとこ無しです。

 あ、『ザ・ペーパー』と言っても新聞社を題材とした映画の方じゃありません。古いラノベの主人公のオマージュです。

 そうです、私、紙使いと言う奴なのです。と、言っても何でも自由に成る訳ではありませんが。

 基本的には、紙を生成し、折り紙として折った形状に沿った付加能力を付ける事ができるだけです。

 まぁ、それはともかく。


「……何で這行運動(しゃこううんどう)のくせに、あんなに早いんですかね? ラウズさん」

「知らねぇよ!! てか、しゃこう何とかって何だよ!!」

「あ、左に避けてください、ラウズさん」


 ドゴオオオオオン!!


 私の指示に従ってラウズさんが避けると、そこに触覚が穿たれます。危機一髪です。

 ですが、その事で苛立ったのか、ギガ・リバースネールは、一対の触覚を鞭の様にしならせながら攻撃を開始してきました。短気ですね、カルシウムが足りてない様です。


 どうでも良い話ですが、タニシの目玉って触覚の根元にあるそうです。ギガ・リバースネールは、あれで目が回らないのでしょうかね?


 ともかく、流石にアレが当たるのは避けたい所です。私は急いでペーパークラフトで刀を作ると、触覚を受け流します。

 体ギリギリを通り過ぎる軌道なので、ちょっとラウズさんのモフモフが削れてしまいました。


「おま、あ、アブッ!!」

「直撃しないだけましだと思って下さい」

「ふざけるな!! 俺が死んだら100人の女が悲しむ事に成るんだぞ!!」

「私は悲しみませんよ?」

「彼女だ彼女!! 女ってのは彼女って意味だ!! 第一、お前みたいなチンチクリン、女の内に入んねーよ!!」


 ラウズさんの言葉に、私は眉を顰めます。確かに私は平均より小さ目ではありますが、この世界基準で言えば、数え年で15才。つまりは成人しています。

 そんな大人な私をまるで子供扱いと言うのは流石にイラッとします。

 ……流石にこれ以上タニシごときに付き合うのも業腹です。決着を付けましょう。

 私は片手で刀を操りながら、手早く折り紙バネを作ります。


「ラウズ! ストップ!!」

「は? ひえっ!!」


 私は、突っ込んで来たギガ・リバースネールの触覚を弾くと、バネの勢いも借りて、背負子から飛び出し、その勢いで触覚の根元、つまりは目を突き刺します。

 殻は切れなくても、流石に軟体部分は切れる様ですね。それも、勢いをつければ倍率ドンです。


「…………!!!!」


 ギガ・リバースネールが声なき悲鳴を上げます。目があると言う事は、つまり神経が集中している場所と言う事でもあります。

 流石の貝類も目を攻撃されるのは痛い様ですね。

 私は刀を引き抜くと、そのまま片方の触覚を切り落とし、再びバネを使って後ろに飛びました。


「今の内です!! 逃げますよ、ラウズさん!!」


 そう言って彼を見ると、ラウズさんは頭っから土にめり込んでいます。何をやっているのでしょう。


「何遊んでるんですかラウズさん!! 早く逃げますよ!!」

「吹っ飛ばされたんだよ!! 後ろから!!」

「どんくさいですね、良いですから、早く私を背負って下さい!!」

「こ、の……」

「早く!!」

「こん畜生!!」


 こうして、のたうち回っているギガ・リバースネールを尻目に、私達は逃げ出す事に成功したのでした。


 ……


 ようやく街道まで出た私達は、そのまま隣町に向かう事にします。すぐにでも冒険者ギルドに報告しなければいけませんからね。

 そうなると、元の街に戻るより先に進んだ方が早いのです。


「まったく、酷ぇ目に遭ったぜ」


 ラウズさんがそう文句を言います。私は半目で彼を睨みました。


「……『この辺の土地観はある、道案内は俺に任せろ』って言ったのはラウズさんですよ?」

「いや、5年前にゃ、あんなモンスターこの辺には居なかったんだよ」

「情報収集不足じゃないですか、それでも冒険者ですか?」

「うるさいよ、しっかし、あんなんが住み着いたとなると拙いな、もし繁殖でもして増えちまうと、近隣に被害が出ちまう」


 そうラウズさんは言いますが、私は「大丈夫じゃないですか?」と言っておきます。


「何でだよ」

「タニシと言うのは雌雄異体です。オスとメスが分かれている訳です」


 カタツムリは雌雄同体でしたね。だからギガ・スネールでなくギガ・リバースネールなのかもしれません。


「オスの触覚の一つは輸精管も兼ねています。その為、そちらの触覚は他方よりちょっと短くなっています」

「お、おう」

「あのギガ・リバースネールは、確かにオスの個体でした」

「…………お前、触覚を一本だけ切り落としてたよな?」


 何を言いたいのか分かりませんね。私、これでも乙女なので。

 とりあえず、ニコリと笑っておきましょう。


 何故かラウズさんが青い顔で尻尾を内股に隠しながら歩き始めました。

 歩き辛くないのでしょうかね?

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