第4章:ちゅ~とりある③: シスコン VS マゴコン ~〝変態紳士〟としての矜持~(その1)
1章が長いため分割しています。(5000字目安)
「……『我が掴むは妹に捧げる勝利のみ』」
シークは〈詠唱〉を朗唱し、左手薬指の指輪に口付けした
――ルーティンを済ましたことで、彼は白色のオーラで覆われる。
〈ウルトラシーク1〉の状態に移行したのだ。
――〈無詠唱モード〉の1つ上位のモードである。
この状態では〈スキル:ダゾーン・ダヨーン〉が常時発動する。
――『一瞬で集中力を極限まで高める』という効果だ。
この状態はスポーツ選手の『ゾーン』と酷似している。
――究極の集中力によって、精神が限界まで研ぎ澄まされるのだ。
コレのおかげで、〈スキル:インテル・ナガトモ・ハイッテル〉が発動できる。
――『上級魔法でも、コンマ数秒で無詠唱発動ができる』という優れモノ。
一方、体力の消耗が激しくなる欠点があり、自滅する恐れがある。
――目安としては、『1分につきHP1%が消耗される』と想定して欲しい。
「よう、シーク。いつもの決めセリフは言わないで良いのかよ?」
ジンゴロウはシークをからかう。
体毛だらけのハーフビースト。身長は2m超ある。ジロウ以上に筋肉がムキムキ。『頭部はライオン、下半身はヒューマン。胴体は混合』といった容姿。
半裸で、ブリーフみたいな真っ黒の短パンしか履いていない。
特徴は胸にあるハート形の剛毛モジャモジャサファリパーク。
(ジンゴロウさん……レベルは1上がってるけど……他は?)
シークは〈ノダメ〉を通して、ジンゴロウのステータスを確かめる。
《ジンゴロウ・レベル:83 〈格闘家〉
HP:1860 MP:0(間違いなく……アレだ。)
物攻:880 物防:440 魔攻:0 魔防:0
(中略)
状態: 今にも襲い掛かってきそう。体臭が消せていない。
推定スキル会得数:3桁は無さそう 推定ランク:???
リストレイント:〈ヒム・ハドラー〉〈カカカ・ウンター〉〈レジアマ・エンジー〉
〈エッチ・ピー・ナオール〉〈ツーコン・ワンゲキ〉〈バーニング・ホワイト・アウト〉転生者判定:陰性》
閑話突入――今回のチュートリアルだけの『試み』を行う。
〝君〟たちには、予めジンゴロウを倒す方法を考えてもらう。
そのためには知識不足を補うため、ジンゴロウの〈リストレイント〉の効果をあらかじめ伝えておく――初見で相手する場合、〈格闘家〉ということに注目。
もし〝私〟が見た彼のステータスを知りたければ、前章に戻ってくれ。
〈タレント:ヒム・ハドラー〉:〈格闘家〉が必ず所有している。〈女神々〉が創り出した最硬の金属・オリハルコソ並に硬い身体――効果に個人差はあるが、今回は『物理攻撃のダメージを九割九分減少させる』と想定してくれ。
〈チート能力:バーニング・ホワイト・アウト〉:自身が真っ白に燃え尽きる(HP0になる)代償に、相手の全感覚を不能(回避不可能)とさせる――察しの通り、『一対一』では宝の持ち腐れだ。
〈タレント:カカカ・ウンター〉:十分の一の確率で1秒先までの未来を直感する。
〈タレント:レジアマ・エンジー〉:攻撃魔法のダメージを9割減少させる。
〈タレント:エッチ・ピー・ナオール〉:30分毎にHPが全回復する。
〈アビリティ:ツーコン・ワンゲキ〉:1打目に左ジャブ、2打目に右ストレートを放つ、2コンボによる一撃必殺技が決められる。発動しても、50%失敗。
正解は1つではないが、突破口は似たようなモノになるだろう。
〝君〟たちは〈転生者〉を相手に常勝する知恵を備えているはず。
――ならば、ジンゴロウくらいは朝飯前だ。
閑話休題――すでにシークは負けない策を練っている。
「ジンゴロウさん、何も分かってないな」
「あん?」
「決めセリフは決めるべき相手に言うから『決めセリフ』なんだぜ?」
シークは『アンタじゃ役不足だよ?』と挑発的なキメ顔で示す。
「あああああああぁん?」
短気のジンゴロウの眉がピクピクッと痙攣する。
(やっぱりチョロい、ジンゴロウさんは……厄介なジョージぃさんは?)
シークはジンゴロウの後ろの方をチラチラと見る。
少し離れた場所で、ジョージは杖を支えにして立っている。
――補足だが『途中交代は禁止』というルールは無い。
視線が合うと、老人は片手を上げた。
――『途中で交代するような真似はせんよ』という意味だ。
(良かった……ジョージぃがアレコレと小細工してくると面倒だからな……)
ホッと一安心してから、シークは目の前の三十路のオッサンと対峙する。
(さて……とりあえずは、正攻法でいくかっ!)
勝負が始まるまで、あと3秒。
「俺様をエルシィの婿に決めるべきだって……思い知らせてやるよッ!」
ジンゴロウは地面を一蹴りして、駆ける。
――『上手い返しをした、座布団1枚!』と内心で思っている。
シークとの間にあった30mほどの距離が一瞬で縮まる。
そのまま、シークの胸元に目掛けて右ストレートを繰り出した。
しかし、パンチは空気を殴り飛ばし、軌道上の数本の木を倒しただけ。
「相変わらずせっかちだな……だから、『彼女いない歴=自分の歳』なんだよ!」
シークは無詠唱で〈イル・マクス〉を発動する。
――上空100mほどのところに瞬間転移した。
同時に風の初級一般魔法〈フロ〉と風の中級防御魔法〈ミミッミ〉も発動する。
――シークの姿が上空20mに浮いている。
さらに、7つの上級バフ魔法で自身を強化していた。
――纏うオーラが白色から七色のオーラに変化。魔法の説明は一旦割愛。
シークは脳筋の挑戦者に向けて、右手をかざす。
「お前だって、彼女いたことねぇだろうがぁ! オラッ!」
しかし、瞬きする間もなく、ジンゴロウがシークの目前まで翔け上がってきた。
鍛え上げたその驚異的な筋力で、ジャンプをし、宙を蹴って、エアダッシュした。瞬間移動の勢いも拳に乗せ、シークの顎を狙う左アッパーを打ち上げる。
「なにっ!?」
ジンゴロウの拳はシークを捉えたが、直撃した感覚が無く、姿だけ消える。
――殴ったのは創り出された幻影。
――幻影と重なるように位置を取っていて、相手には視覚できなかった。
「ジンゴロウさんと違って、俺はモテるから良いんだよ!」
シークは上空100mから魔法を放つ。
「『〈レイ・シック〉』!」
シークは光の上級デバフ魔法を発動する。
――〈詠唱〉を無詠唱で行い、〈呪文〉を朗唱して、ジンゴロウに向けて右手をかざすと、不可視の光線〈レイ・シック〉が日光と混じって、地上へ降り注ぐ。
――『光線を浴びた者の物理ステータスを10秒につき1%ずつ低下させる。治療されるまで持続する』という効果。
――『コロナ・ビーム』という魔法名も浮かんだが、あまりにも不謹慎のため(とある無名のなろう作家の親族が実際に患った)見送れたという裏話を暴露しておく。ただ、ギリギリを攻める心は忘れないで欲しい。なろうを忘れないで。
「俺様だって、子供の時は『キマイライラ』ってチヤホヤされたんだよぉおおお!」
デバフ魔法耐性が付与されていないため、ジンゴロウはモロに喰らう。
――こんがり焦げた茶色の肌がドブネズミのような灰色へと変わった。
シークは「しみったれた人だな」とジンゴロウを煽った。
「昔話を持ち出すなよ。旬の過ぎた主人公じゃあるまいし!」
〈格闘家〉は魔法が使えない――当然、回復魔法も無理だ。
それ以前にアイテムで回復するのも無茶だ――そんな暇、シークは与えない。
およそ15分後には、ジンゴロウは立っていることすら困難になるだろう。
「薄汚い大人の俺様を好きになる『毛深い男』好きの女だって居るはずだぁ!」
それでもお構いなしに、ジンゴロウは再び空を蹴り上がってくる。
(朗唱での発動だったのに、回避しようともしなかった。短期決着狙いか……)
〈格闘家〉が安易にデバフ魔法を喰らう訳がない。
そのことは、シークは百も承知である。
――ジンゴロウは『一撃勝負だから、関係ない!』と考えているに違いない。
「悪いけど、エルシィはサファソパークには興味ないんだ!」
シークは〈イル・マクス〉でジョージの近くに瞬間転移した。
「だったら、俺様の手で俺様色に染めてやるぜ! テヤッ!」
だが、ジンゴロウの〈カカカ・ウンター〉がシークを有利に立たせない。
ものスゴい直感で先回りし、ジンゴロウはシークの背後を取っていた。
――ランダム要素とは予想しづらいのが常。
「くっ!」
シークは左脇へと繰り出されているミドルキックを咄嗟に腕でガードする。
――ただ、キックの威力の全ては受け止められず、50mほど蹴り飛ばされる。
光の上級バフ魔法〈フェンサ・マクス〉も破壊され、七色のオーラが六色に。
――『物理ダメージを半減する。一定以上のダメージを喰らうと破壊される。持続時間は約半日』という効果。
(……『放火、花火〈ボブ〉』! ……HPは10%くらい削られたか)
シークは受け身を取りながら、状況を整理していた。
(クリティカルではなかったのはラッキー。張り直す手間が省けた)
『会心の一撃』だった場合、闇の上級バフ魔法〈アンクリ・マクス〉も破壊されていた。――『一度だけ、クリティカルヒットを完全無効化かつ反動させる。持続時間は約半日』という効果。
(今のダメージで大体分かった……焦らずにじっくりと攻めるのが上策だ)
シークは冷静に分析していた。
――『受けたダメージは10%。〈フェンサ・マクス〉が無いと20%。』
――『加えてクリティカルだと40%。』
――『必殺技でもない攻撃でも、勝利条件を満たされてしまう』と。
(まあ、一応牽制って意味で……狙ってみるか……)
(『ねぎま、中途半端、ホルダー、許された〈ブツま!〉』!)
(さて、どう転ぶか……)
以上のことから、『防御系のバフ魔法を攻撃系に全部回して、一気に勝負に出る!』といった無謀な行為は控えるべきだと分かる。
「サファソパークの何が悪い! ジャパソパークだって流行ってヨッ!?」
ジンゴロウはすかさず追い打ちをかけようとした。
だが、駆け出そうとし瞬間に眼前で爆発が起きた。
――シークの火の初級攻撃魔法〈ボブ〉が発動されたのだ。
無警戒だった彼は「うおっ!?」と反射的に両腕で顔を覆い、立ち止まる。
(ダメージを喰らわないのに……感度が良すぎるのも仇になるな)
ジンゴロウは〈レジアマ・エンジー〉を持っている。
――〈ボブ〉で彼のHPを1%も削れていない。本当に足止めする程度だ。
――だから、合理的に考えると〈ボブ〉をガードする必要は無い。
(時間的に〈レイ・シック〉の効果でステータスは3%くらい低下か……)
シークは次の攻撃に移る――すでに〈フェンサ・マクス〉も張り直されている。
「ジンゴロウさんみたいな〝犯罪者予備軍〟に、最愛の妹は渡せないね!」
シークは〈イル・マクス〉で瞬間転移し、ジンゴロウの懐に潜り込んでいた。
――この発言は揺さぶり。後々のための布石。
隙だらけのジンゴロウの無防備な腹部に、渾身のボディーブローを叩き込む。
「ッ!? うおぉおおおおおおおお!!!」
ジンゴロウは後ろに倒れ込むような勢いで緊急回避し、シークの拳を避けた。
(また〈カカカ・ウンター〉……物魔攻撃だと直感したか……運が良い)
光の上級バフ魔法〈パワー・バフ・ガー・ルズ〉によって、シークの物理攻撃力は3倍になっている――〈格闘家〉相手でなければ、一撃で勝負を決められる威力だ。だが、ジンゴロウ相手では、物理攻撃が当たっていたとしても、HPは1%くらいしか削れていなかっただろう。
――ジンゴロウが恐れたのは『物魔攻撃』だ。
(今まで油断させておいたんだけど……〈ブツま!〉が水の泡だ)
シークは軽やかにバックステップして、ジンゴロウから距離を取った。
(まあ、回避したってことは、攻撃力は十分だったってことだな……良い情報だ)
攻撃が当たる瞬間に、風の初級バフ魔法〈ブツま!〉を発動する予定だった。
しかし、ジンゴロウの〈カカカ・ウンター〉で読まれたので、中止した。
――今後、ジンゴロウは物魔攻撃を警戒するという刷り込みは達成した。
閑話突入――さて、『試み』の答え合わせをしておこう。
『補助魔法を最大限に使用し、物魔攻撃で撃退する』
コレがジンゴロウ撃破の正攻法である。
彼の厄介な要素は〈レジアマ・エンジー〉と〈ヒム・ハドラー〉による鉄壁だ。
――〝異世界あるある〟の『どうして剣で斬られても魔法を喰らっても死なないの? そもそも大した傷も何で負わないの?』という疑問は、この『〈格闘家〉ハッピーセット』が解決してくれただろう。
だから、突破口として、第3の攻撃手段の『物魔』を思い付くのが妥当。
〈格闘家〉を攻略する常套手段でもある。
――そして、早期決着であれ持久戦であれ、バフ&デバフ魔法でリスクヘッジはするべきだ。特に即死対策は必須である。
――万が一でも負けてはならないのだから、当然だ。
幸いなことにジンゴロウは〈レイ・シック〉を避けなかったので、事がすんなりと進んだ。
――仮に回避されていたとしても、いくらでも策はある。
今後はこのように教えることは減る……〝君〟たちの健闘を祈っておこう。
閑話休題――では、ココからはシークの奇策を拝見したいと思う。
~つづく~
次回、4月22日23時までの投稿予定(投稿済)
ご愛読ありがとうございます。
体調不良のため、早めの投稿です(もう寝ます)。
コロナが本当に怖いですね……皆さんもお気を付けて……。
バトルの描写、難しいです。
バトルといえば……私は『レイン』を愛読していたのですが……去年、吉野様の突然の訃報が。あの素晴らしいファンタジーが読めないと思った時、本当に悲しかったです(レインの戦闘シーンは大好きでしたので……)。
『ゼロの使い魔』の時などもそうですが、読者はとんでもない喪失感を味わうものです(もっと身近な人とは比べモノにならないと思いますが……)。
……レインとゼロの使い魔を読み返して、元気をもらってきます!(作品は在り続けます)
感想、評価、ブックマーク、待ち焦がれています。
よろしくお願いします。あと、定型文になると惰性化してしま……怠惰デ(自重)
では、引き続き頑張りたいと思います!
追伸:
ゼロの使い魔といえば……釘宮病をご存知ですか?
私はS型で発症しました。
……くぎゅぅううううううう(うるさいうるさいうるさい!)
追伸2:
読者
くぎゅ(うるさいうるさいうるさい)
慧楼詩妹慧楼詩妹慧楼詩妹
あっ、振り仮名機能あったのですね!使い方がまだ微妙だけど!(笑)
使えれば、魔法関係の幅が広がる(中二病)……ってか、読みやすくできる……?
とりあえず、後書き書いて、初めての一石二鳥ですね!勉強してみます!




