第8章:その4
一章が長いため分割しています。
今回は約3000字となっています。
「便乗。ノナの1件目。問題児の〈大女神〉に関して、コチラから異議申立てがある。……アテ姉さん、心当たり、あるでしょ?」
ノナノが無表情のまま抗議した。
――これでも姉には申し訳ないと思っている。
アテノは眼を背け、白々しい態度となる。
「は、はい? そんな訳……ある! ……ハッ!? ココでは嘘つけないんだったッ!? 潔白を強制されるっ!? 忘れてたッ!!!」
アテノは〈純白の部屋〉のルールを失念していた――虚偽報告が不可能である。
「苦情。〈大魔神〉様の信用を貶めようとしている。例、デマを流し、〈大魔神教〉の教会を荒らした。証拠も挙がってる」
「……ひゅ~ひゅ~ひゅ=♪」
アテノは下手な口笛を吹き、黙秘権を発動する――目が泳ぎまくっている。
〈純白の部屋〉では『虚偽』は許されないが『沈黙』は認められている。
――とは言え、『沈黙』とは『黙認』と同意義である。
ノナノは意に介さず、淡々と事実を述べていく。
――まるで検事と被疑者のようだ。
「『〈大魔神〉はゴブリンとドワーフのBLが好き』『〈大魔神〉の胸はシリコン入り』『〈大魔神〉はショタ好きのケツフェチのキス魔』。……こんな嘘があちらこちらで流れた。コレらは〈大女神〉の特徴であって、〈大魔神〉様ではない」
「そ、それは事実ですが……別に〈大女神〉様が噂を流してぁてょ……ハッ!?」
アテノはうっかり口を滑らしてしまったことに気付く。
シークの方をバッと見る――変態紳士は反射的に顔を逸らす。うむ、まあ、「えっ? なにっ?」と空耳を発動するには無理がある。適切な対応だ。
――……どうやら〈大女神〉は相当な変態のようだ。
アテノは「またシークの大女神様の好感度が下がってしまった……大女神様が知ったらまた変なことをする……」と頭を抱える。
ノナノは気の毒に思いながらも、話を侵攻させる。
「……コホン。『過去の人間の拉致・監禁は全て〈大魔神〉の仕業』『〈大魔神〉は人間たちを自分のおもちゃとしか見てない』『〈大女神〉は全存在の母となるべく女性の姿を選んだ。〈大魔神〉は時の権力者が男ばかりだから、誘惑するために女性となった』。……コレらも事実とは真逆。〈大魔神〉様は慈愛に満ちたお方。むしろ、コレは〈大女神〉のことでは……?」
「その通りだよ! うん、これは〈女神々〉しか知らないよね! もう困っちゃって……あと、ココだけの情報なんだけど……最近はエスカレートしちゃって〈大女神〉様が人類補完計……ハッ!?」
アテノは自ら口を塞ぐ。悪気はない。天然さんだ。
――というよりは、日々の鬱憤がとてつもなく溜まっている。
――……ってか、どの世界でも神とはロクでもないようだ。
ノナノは話に終止符を打つため、最後の証拠を提示する。
「『〈大魔神〉は〈大女神〉のナデナデをゲンコツと勘違いするようなネクラ』『〈大魔神〉は〈大女神〉の出涸らしと思い込んでるメンヘラ』『〈大魔神〉は〈大女神〉の褒め言葉を嫌味と捉えることしかできないサイコパス』。……〈女神〉や〈魔神〉でも、側近しか知らない情報だけど?」
「……はい、認めますよ! 全ては〈大女神〉様が行った嫌がらせですよ! もう私が止めさせました! 本当に面倒しか起こさないんだから……ブツブツ……」
アテノは「ハァ~~~」と非常に長いため息をついた。
――心の老廃物を吐き出したようだ。
そして、白状する。
「……今回やらかした理由はこの前のオークションです。競り負けたのが相当悔しくて、その腹いせでやったそうです。……誠に申し訳ございませんでしたッ!」
アテノは飛び上がり、3回転し、正座のポーズで着地し、土下座した。
見事なトリプルアクセルジャンピング土下座だ。
――ディフェでの謝意の最高の示し方だ。
「……」
シークもそのオークションに関わっているので、罪悪感を覚えてしまう。
――心の中で〈大魔神派〉に土下座する。
ノナノは「気にしないで」と呟いたのがシークには聞こえた。
――優しさに満ちた世界が、ココにある。
イスの上で土下座したままのアテノは2件目に移る。
――何か申し訳ない気持ちが続いているようだ。
「では、私から2件目です……先程の報告にあった〈大女神〉様の悪戯が……〈デーモン帝国〉の皇帝に知られてしまったようで……皇帝がブチ切れてると聞きました……ご存知の通り〈デーモン帝国〉は〈大魔神教〉なので……『〈神聖エルフ教国〉との間で戦争を勃発させる!』という情報が入りまして……はい」
「肯定。実際、〈デーモン帝国〉はすでに挙兵の準備をしている。敬虔なる信者である皇帝は許さない。本気だと思われる」
〈デーモン帝国〉の国教は〈大魔神教〉。対して、〈神聖エルフ教国〉の国教は〈大女神教〉。お互いに嫌悪しており、今回の事案は戦争を起こす良い口実。
これまた第2次世界戦争となりかねないので、絶対阻止しなければならない。
「なので……シークにお願いをしたいのです……〈デーモン帝国〉の皇帝を何とか説得してくれませんか? お願いします! 何でもしますから!」
アテノは深々と頭を下げた――〈女神々〉が〈人類〉にする行動ではない。
――ってか、今何でもするって言ったよね? ね? ね?
シークは下心皆無で検討する――お~い~!
(ノナには頼めない事案だよな……今こうやって裏で結託してるのがバレるかもしれないし……何より、これ以上の負担かけたくないよな……良い姉だ……)
シークは妹想いのアテノの優しさに心打たれた。
――はぁ~堅物なのかチョロいのか、ハッキリしてくれよ……。
彼は女神のお願いを快諾する。
「……分かった。俺にも責任がある。〈SISTER会〉の時に何とかするよ」
閑話突入――〈SISTER会〉。
『妹を愛する集い』の〈非公認ギルド〉がある。厳密には、その団体は〈妹会〉という仮名を名乗っている。現在、〈妹会〉は〈SISTER会〉という真名を得るために〈姉会〉〈修道女会〉〈看護婦会〉〈義姉妹会〉などと争っている。国家を巻き込む世界規模のガチンコ対決だ。特に〈妹会〉と〈姉会〉の対立は激しい〈大女神教〉と〈大魔神教〉が関係しているからだ。ちなみに『宗教を国家のために利用する』ではなく『宗教を真実とするために国家が活動する』という行動理念の方が正しい。〈女神々〉の実在が確認されているからである。ディフェでは、『SISTER』という『何故か万人の心をくすぐってしまう最上で神聖なる言葉』の定義は曖昧だ。長年の間、意味を一元化するための論争が起こっている。また、〈SISTER会〉という名を正式に受け継いだ団体は『SISTER』という言葉を定義できる権限を得られる。オリンピックのような国際大会が催されている。コレはどういうことなのか。例えば、『妹派か姉派』の究極の2択が解決される。『き〇こ派かたけ○こ派』『ビア○カ派かフロ〇ラ派』『M〇派かファ〇タジア派』などの疑問が解消されれば、『世界平和』が実現されることは容易に想像がつくだろう。つまり、『〈大女神〉と〈大魔神〉のどちらが至高の存在?』という問題を決着させる。だから、国家ぐるみで〈大女神教〉や〈大魔神教〉の重鎮が本腰を入れているのだ。の勝負の勝者側は『その国家は世界の平和を守る番人となる。その宗教は世界の理を示す牧師となる。何よりも己の理想が絶対善となる』という具合になるからだ。そして、シークも〈妹会〉に所属しており、カリスマ的存在である。その常軌を逸した〝シスコン道〟は同胞から畏敬されていて、幾度も圧倒されてきたライバルたちは〝世界一のシスコン〟と畏怖している。ただの村人のシークが政治的なパイプを持っているのは〈妹会〉のおかげ。〈デーモン帝国〉の皇帝も〈妹会〉繋がりのコネである。
閑話休題――妹業界において、シークは絶対的レジェンドだ。
~つづく~
次回、6月21日までの投稿予定です。
ご愛読ありがとうございます。
最近は電車にも活気が戻っていて、終電で座れる頻度がほぼ0に戻ってしまいました。
また、残業の頻度は100に戻り始めています。
…頑張ろう!w
では、失礼します。。。




