第8章:その3
一章が長いため分割しています。
今回は約3000字となっています。
「……〈ルクセア王国〉がどうかしたのか?」
昨日、シークはルクセア王国と関与したばかり。
だから、色々と不安が生じてしまう。
どう考えても答えに辿り着けない。
「詳しくは分かってないんだけど……〝竜王〟が倒されてしまったらしいの」
「……何だって!?」
シークは驚愕する。
――エッピでも倒せないであろう強敵が攻略されたのだから当然だ。
――にわかに信じがたいが、シークは最もありうる可能性を導き出す
(もしかして、あの〈転生者〉の仕業か……? いや、でも、ありえない……)
シークが否定する根拠はある――昨年に立法されたあるルールだ。
「……〈1日1レベルアップ〉の法則はちゃんと厳守されてるのか?」
「もちろん遵守されてるよ! 〈下界〉のレベルのインフレ化を防ぐという名目でね! 私がキツく見張ってるから、〈大女神〉様も破ろうとしないよ! ん~……どうして?」
「いや、何となく気になっただけだ」
シークは「話を折って悪かった」と謝った――単なる杞憂だったようだ。
(さすがにレベル2では無理だ……じゃあ、他の〈転生者〉か?)
シークはチラッとノナノを一瞥する――彼女はコクリと頷いた。
「同意。コチラも〝竜王〟撃退の情報を入手してる。撃破したのは〈転生者〉とのこと。ただ、その人物は〈転生者組合〉に所属していないとの情報がある」
「ノ、ノナッ!? シーッだよ! それはシーッだよ!」
アテノは慌てて妹を制止した――ノナノはプイッとそっぽを向いている。
――姉は「もう!」と頬を膨らましながらも許し、妹は「てへっ」みたいな無表情で甘えているように伺える。かわええ。
シークはホッコリとなったが、気持ちを切り替えて、ノナノのヒントから何かを得ようとする――熟考する。
(……〝ルクセア問題〟は善悪関わらず〈ギルド〉には利益しか生み出さない)
現在、〈ルクセア王国〉の国境付近は無法地帯となっている。
自国の警備の手の届かない場所であり、他国からの干渉も無いので、やりたい放題。〈暗黒ギルド〉は悪事の限りを尽くし、〈ギルド〉も対抗するため〈クエスト〉を発注できる。言い換えれば、仕事が出し放題なお得な状況。
(〈大女神教〉も〈大魔神教〉も〝ルクセア問題〟は黙認してる……)
年に4度行われる〈サミーヨ〉という首脳会議。
――〈G13〉という全13国が参加する。
今は〝ルクセア問題〟が話し合いの内容の8割を占めている。
――〈女神々〉からすれば、余計な問題に着手されないで済むから、大助かりなのだ。要するに、誰もが〝ルクセア問題〟を歓迎している。
(手を出す輩は何も知らない……はぐれ者の〈転生者〉と考えるのが妥当……)
〈転生者組合〉とは、その名の通り〈転生者〉だけが所属する〈ギルド〉。
――レベル10になると、入会をススメてくる使者が訪れる。
〈転生者組合〉は〈女神々〉にとってデメリットなことは絶対にしない。
――そんなことをすれば、ザクズのように組織から追放され、〈女神々〉からの恩恵を与れなくなる。
(そんなヤツは限られてる……ん? そういえば、何で……)
何人かは思い当たる人物がいたが、その前にシークに疑問が思い浮かぶ。
「……それより、どうして『シーッ』なんだ?」
シークの問いにノナノは即答する。
「秘匿。〈大女神教〉によって、〝竜王〟に関する情報は規制されている」
対して、アテノはアタフタと動揺する――問答が始まる。
「ノ、ノナッ!? 全然シークレットになってないよッ!? むしろ言っちゃってるよ! ダメでしょ!」
「……アテ、どういうことだ?」
「あぁ~……えぇ~……はい、〈大女神〉様が自ら情報網を閉鎖しているのです……情報規制……はい、勝手に独占しようとしています……メガミックパワーをフル活用して強引に……間違いなく違法です……」
「……アテ、詳しく教えてもらおうか?」
シークの声が低くなった。
――彼にとって〈転生者〉の情報は何よりも大事な命綱なのだ。
アテノは「ううぅ……申し訳ないです……」と謝りながら、事態を説明する。
「多分……〈大女神〉様にとって都合の悪いことだから……隠蔽したいのだと思います……もしくは、その、何か企んでいます……」
「迷惑。非常に陰湿な妨害が成されている。〈大魔神派〉でも情報収集に多大なる遅れが発生している。〈悪魔〉たちではどうにもならない程」
「……〈魔神〉でも強制突破できないのか?」
「不可。〈魔神〉以上の者の介入が発覚すれば、あの〈大女神〉はキレる。これ以上の関係の悪化は第2次世界戦争を巻き起こしてしまう可能性がある。我々としては世界平和のために避けたい。……仮にするとしても、絶対にバレないよう、隠密行動を徹頭徹尾する必要がある」
「それは……マズいな。浅はかな質問だった。すまん」
「すみません……〈大女神〉様は1度決めたら、私でも説得できないので……」
アテノはペコペコと頭を下げる。
――上司のミスは部下の責任となるのだ。……アレ、さっきと何か違う?
シークは「謝らないで」と声をかけた――そして、可能性を考える。
(……もしかして、あの最凶の〈転生者〉の仕業か?)
シークは『〈大女神〉様にとって都合が悪い』最たる事案。
(あの噂が正しいんだったら……俺の全てを出しても敵わないかも……いや、今はとにかく事実を確認して、対策を練らなければ……)
シークの憂慮は一旦置いて、ノナノは話を進行させる。
「予想。〝竜王〟は平和のために必要悪となったにも関わらず、盟約を反故され、討伐されてしまった。仲間想いの〈ドラゴン〉からすれば、これ以上の裏切りは無い。〈黒龍王国〉の者たちは必ず抗議してくる。最悪の場合、反乱を起こし、第二次世界大戦が起こりかねない」
「〈転生者〉の仕業だってバレたら、『我々だけまた不当な扱いをされた!』って抗議されるよぉ……面倒だよぉ……今回は本当に無関係なのにぃ……何でこうも世界大戦の火種が散らばってるの……まるで火薬庫だよぉ……」
アテノはシクシクと嘆く――ブラック企業に勤めるOLのようだ。
〈転生者〉とは、言わば〈大女神〉の直属の部下――よって、〈転生者〉が何かやらかすと、自ずと〈大女神教〉の関与が疑われる。
実際、〈大女神〉が何か良からぬことを企てると、よく〈転生者〉に片棒を担がせる――〈転生者〉の多くは〈大女神〉の本性を知らず、盲信している。
その尻拭いをする羽目になるのがアテノだ。
ノナノはそんな苦労人の姉を慰める。
「安心。〈大魔神教〉で何とかする。それ相応の補償ができると思う」
「ううぅ……ノナ……お願いするね……ドラゴンたち〈大魔神派〉の話はちゃんと聞いてくれるから……本当にありがとう……大好きぃ……」
アテノはグスンと涙を浮かべる――鬱病とかにならないで欲しい。
(理想的な姉妹……最高だ……いや、今はそんな場合じゃなくもない訳じゃない! ああぁあああああ! 集中しろぉおおお!)
シークは次の話題に移行しようと煩悩を滅する。
――『兄妹』以外も守備範囲内だ。『姉妹』も立派な妹カテゴリー。
口を開けようとしたが、その前にノナノが議題を提示した
~つづく~
次回、6月14日の投稿予定です。
ご愛読ありがとうございます。
最近は後書きを全然書かなくなってしまいましたw
とある作家さんが、後書きが一番イヤだと言っていたのが少しわかる気がします。
私の場合は、単なる怠惰ですが。。。
まだ力尽きたくないので、もう少し頑張ります!
では、また来週。。。




