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チート転生者に最愛の妹は娶らせない!  作者: 千早一
第1部:【FATE】恋愛は運命から始まる。物語は因縁から始まる。そして兄妹は……
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第8章:その2

1章が長いため、分割しています。

今回は約3000字となっています。


「えっと、私からの議題は2件ですね」


「同様。2件だけ」


 2人も淡々と業務を遂行する――彼女らはデキる〈女神々〉である。


「奇遇だな。俺も2件だ。……ん?」


 シークは右側からの視線に気付く。


「凝視。……うん」


 ノナノがジーッと真顔で見つめていた。

 ――彼女の頬が紅潮しているのは気のせいだと信じたい。


「ノナ、どうした?」


「心配。シークから疲労が伺える」


「えっ!? どれどれ~私も看てあげよう!」


 アテノも細目でシークを観察する

 ――単に仕事仲間を心配しているだけだと信じたい。


「……本当だ! いつもよりオーラも弱い……大丈夫?」


「心配してくれて、ありがとう。今朝、色々とあってな……」


「全回復する? 何かしらの『対価』は必要になるけど、一瞬だよ?」


 〈女神々〉は〈人類〉や〈モンスター〉のために何かをする時(奉仕)は必ず『対価』を要求する。

 ――むやみやたらに我儘な願い事が成就しない(されない)ための防止策だ。

 シークは答える。

 ――信頼しているから、『何か裏がある?』などの考えは一切ない。


「いや、大丈夫だ。そこまでの疲れじゃない」


「そっか~。大したことじゃなくて良かった! 一大事だったら無償でもやってあげるよっ! 何でもしちゃうよ! 内緒ね!」


「共感。出来ることがあったら、言って。……何でもするから」


 姉妹は安堵した――シークと近づいたままだ。肩が触れ合う程度の距離。

 ――……ん?今何でもするって……けしからん!


(良い姉妹……〈大女神〉と〈大魔神〉もこの2人を見習って……いや、よそう)


 シークは『捕らぬ魔獣の皮算用だな』と割り切り、会議を始めることにする。


「……俺から話そう。先に謝っておく。1件目は完全に個人的な案件だ」




「こ、個人的な案件ッ!? も、もしかして……やっと私のお婿さんになってくれることを決心してくれたのッ!? ああ、どうしよう! 心の準備……初夜の練習をしてないッ! 子供は何人作るとか、考えておかないといけないよね……最低でも6人は欲しいな……」




「……何でもって言ったけど……初めては優しくして欲しい……かも……うん。あと、少しずつノナとシークの距離を縮めたい……悪魔の契約とは違って、2人だけの特別な契約だから……大事に育てたいの……。……ダメ……かな?」






「い、いや、用件はザクズのことについてなんだが……」


「「あっ……そうですか……はぁ~……」」


 姉妹は揃って落胆の声を漏らした。

 彼女らはシークを非常に好いている――嘘だと言っておくれ……。

 ――〈大女神〉に抗い、『定められた悲運命』に全力で打ち勝とうとしているシークの生き方をリスペクトしており、期待もしている。


(今の……俺が悪いのか? ……まあ、気を取り直そう!)


 シークは気まずそうだが、話を進める――彼にとって、ザクズは死活問題だ。


「私事で申し訳ないな。だが、アイツは本当にどうにかならないのか?」


「……まずは私から。結論から言うと、無理です……というか、〈女神々〉たちは手出し禁止になっています」


 アテノは冴えない表情になる。

 ――申し訳ない気持ちになると、敬語を使うクセがある。

 シークは眉をひそめる。


「……アテを責めるわけじゃない。だが、あの〈転生者〉を召喚したのは、他でもない〈大女神〉だぞ? 責任を持って処理すべきじゃないのか?」


「えっと……おっしゃる通りです……でも、〈大女神教〉……というよりは〈大女神〉様は……責任を放棄しました……『我々とN斗は一切関係ない』と……」


「……納得がいかない。まるで『世界を滅亡させられる破壊兵器を創ったけど、手に負えないから、知らない!』って丸投げしてるようなもんじゃないか」


『転生者世界大戦』が起きるというフラグが立ったような――気のせいか。


「耳が痛いです……。けど、N斗は〈転生者組合〉から脱退し、また〈大女神教〉の使者に刃を向けました。最終的には〈大魔神教〉の庇護下に逃げたのです……だから、我々の敵であっても、味方ではありませんとのことです……」


「……『逃げた』じゃなくて『追い込んだ』だろ? あの〈大女神〉が」


「……はい、おっしゃる通りです。そして、『我々が〈大魔神教〉に手を出したら、戦争になりかねない』という言い分です……。だから、全ては〈大魔神教〉の責任だと言っています……」


「手に負えない……いや、面倒だから、いつものように妹に押し付けたって訳か」


「す、すみません……」


 アテノは今にも泣きそうだ――シークは慌てて謝罪する。


「いや、俺こそすまない。アテは悪くない。悪いのはあのクソな〈大女神〉だ……本当に忌々しい……」


 シークは項垂れる――腐敗した政治家を相手にした時のような反応だ。

 彼はもう一方の頼みの綱に向き直る。


「謝罪。〈大魔神教〉もこれ以上は力にはなれない」


 だが、ノナは首を振った。

 ――無表情ながらも、申し訳ないという気持ちが感じられる。

 ――付き合いが長くなれば、彼女は感情豊かだと分かるようになる。


(……『これ以上は』。つまり……)


 シークは含みに気付く。

 ――1つの謎が解ける。

 ――そして、1つの可能性が思い付く。


「ザクズの〈大魔神の冥加〉などの恩恵の最小化。また、〈DQの墓〉に寄り付く〈アンデッド種〉の偏り……言い換えれば、ほとんどが良い人だった。コレらは〈大魔神教〉がやってくれていたのか」


「肯定。ただ、すでに〈大魔神教〉は大きな損害を被っている。申し訳ないけど、今後は関与しない方針。」


「……大きな損害?」


 シークは首を傾げる――この情報については初耳だ。


(無能な〈大女神〉と違って、有能な〈大魔神〉が被害を出すのは珍しい……)


 心なしか、ノナノの無表情が崩れているような気がする

 ――ゲンナリとしている。

 シークはノナノの異変を察するも、説明を聞くことにした

 ――ちなみにノナノも心配されていることに気付き、少し顔色が良くなった。


「詳細。2つの被害。1つ目、〈大魔神教〉と親密な関係である〈サラマ村〉を侵略しようとしたN斗を説得するため、〈悪魔〉を使者として送った」


「知らなかった。それが……上手くいかなかったのか」


「肯定。N斗が……その……性器を晒し出してきて……担当者は危うくレイプされそうになったらしい……部下たちのおかげで、何とか逃走できたが、PTSDを患って、今でも精神科に通っている」


「……」


 シークは目を覆う――もう罵倒する言葉を出すことさえ馬鹿馬鹿しい。

 ノナノは報告を続ける――心底嫌な気持ちになっているだろう。


「2つ目。その後も〈冥界〉への招致を試みたが、失敗が続いた。おそらく、問答無用で幽閉されることに勘付いたのだと思う。もはや〈悪魔〉たちでは手に負えない事態となった」


「〈魔神〉が出向くほどの大事になったのか……」


「苦渋。部下の責任は上司の責任。今までの責任を取って、ノナが自ら交渉に赴いた。けど、『僕を〈冥界〉への交渉だね! さあ、ノナちゃん、今ココで性交渉しようじゃないか!』と強姦されそうになったので成敗した」


「当然だ! あのドクズめ……とにかく! 無事で良かった! 本当に!」


 仮に〈魔神〉であろうが『妹』であるノナノ。

 ――〝世界一のシスコン〟のシークが感情的になるのは言うまでもない。

 ノナノは説明を続行する――一瞬だけ微笑したように見えた。


「鳥肌。以来、N斗はノナに執着するようになった。〈悪魔〉を使者として送っても、門前払いされるようになった。ノナ以外はダメだと。『ノナ様、早く交渉……いえ、性交渉に来てください! またSMプレイさせてくださいぶひっ!』と頑なに要求を続けている」


「……ノナは病んだりしてないか? 大丈夫か?」


「平気。……この一連の流れを知った〈大魔神〉様はノナや部下たちの身を案じて、あの男を徹頭徹尾に無視することを決めた。だから、今は何もできない」


「……良い判断だ。それは仕方ない。俺が何とかするから、気にしないでくれ」


「心配。……本当に大丈夫?」


「ああ。それにノナの身の安全の方が大事だ。あんな変態に近づかせたくない」


 シークは真心で言った――妹にするようにノナノの旋毛にポンッと手を置く。

 ――ごく自然な流れ。やましい気持ちは無い。優しさ。安心させたい一心での心遣い。だからこそ、された方も嬉しい気持ちになる。


「……うん……かも……ううん……そうじゃない……うん!」

 

 ノナノにトキメキが訪れる――無表情のままだが、頬を赤らめ、俯く。




「はいはいはいッ! 時間無いから、次行くよッ! 私の議題! 〝ルクセア問題〟についてッ! はぁ~いっ! はあああああい!」

 

 アテノは慌てて次の話題に移る

 ――時短ではなく、ただの嫉妬による恋愛妨害だ。

 妹のことは大好きだが、シークは取られたくない。


(〝ルクセア問題〟だと……? まだ何も情報は入ってきてないが……?)

 

 シークの意識は議題へと完全に向く――アテノの妨害は功を奏した。

 彼はアテノに向き直る――自ずとノナノから手が離れる。

 ノナノは「あっ……」と寂しそうな表情になるが、すぐに戻る

 ――会議の進行を停滞させる訳にはいかない。でも、しょぼんとなっている。



~つづく~

次回、6月7日までの投稿予定。


ご愛読ありがとうございます。

惰性にならないよう、気をつけたいです。


では、失礼します。

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