初恋
相談所開業2日目、前日と同じように朝の営業時間まで芽衣と得縷は宣伝のビラを配る。
2日目だから、初日よりは道を歩いてる人なんかを余裕を持って見れる。
でも、休日だからカップルが目立つ。地球では珍しすぎる組み合わせのカップルがたくさんいる。超イケメンとオタク系の女の子のカップルもいれば、超美人と地味系の男のカップルもいる。地球であれば、まったく釣り合いがとれていないようなカップルがなんと多いことか。
本当にこの世界は一人一人の美的感覚が極端に違ってるんだ。
芽衣は何となくうらやましく思った。
地球もそうだったらなー。
営業時間になり、事務所で芽衣と得縷は話しながら待機する。
すると、ドアがノックされ、30代くらいの男性が入ってくる。
前日と同じような流れで得縷が話を進め、男性の悩みを聞く。
「12年前になくした妹の形見を見つけることってできますか?」
芽衣と得縷は顔を見合わせる。
「なくした時の状況を詳しく説明していただけませんか?」
「12年前に形見の時計を鞄に入れてたときに電車の棚に鞄を置き忘れてしまって、駅員さんに探してもらいましたが鞄は結局見つかりませんでした」
「わかりました。今日、お時間はありますか?」
「あります」
「では、妹さんの写真を持ってきていただけませんか。何歳のものでも構いません」
「わかりました、では今から持ってきます」
男性は事務所から出ていく。
「何で? まだ方法を言ってないのに」
「その時計がこの世に存在しているかわからないからだよ」
「あ、そっか。捨てられちゃったりしてるかもしれないよね」
「そもそも芽衣さんの能力はこの世から消失したものでも出現させることってできるのかな?」
「どうなんだろ?」
「とりあえず、その時計がどこにあるか能力を使って調べてみよう」
「うん……なんて願おう?」
「時計のある場所を映像として映し出してとか?」
「わかった。あの男の人の妹さんの時計のある場所を映像として映し出して」
すると、芽衣と得縷の前に映像が映し出される。
「水の中みたい……あ! 魚がいる」
「海や川の中かもしれない。誰かに捨てられたと考えた方がいいね」
「じゃあ、その時計をこっちに移動させて」
芽衣の机に濡れた時計が出現する。
「やった!」
「じゃあ、こっちで探すから2日後に来てくださいという話でいこう」
「うん」
そして数時間後、男が写真を持て来る。
得縷は男性に説明をして、芽衣は信頼度を見せる。
「0ですか?」
男性は不思議そうな顔で芽衣を見る。
「空川さんには事情があって信頼度が0なんです。ですが巫女としての力により、あなたの形見を見つけ出せると思います。もちろん、見つけ出すまでお金などは一切かからないのでご安心ください」
「藁にも縋る思いで来ているので、見つけてもらえるなら何でもいいです」
「では、空川さんお願いします」
得縷に促され、芽衣は水晶を取り出し、妹の写真を隣に置く。しばらく水晶に両手をかざす。
「見つけました。2日後に来てください。お渡しできます」
芽衣の言葉を聞き、男性は目を見開く。
「本当ですか!? 2日後? まだどんな時計かも言ってませんよ?」
「大丈夫です。私にはわかりますから」
男性は芽衣の顔を見て、頭を下げる。
「よろしくお願いします」
「はい」
男性が事務所から出ていった。
「水晶、使ったね」
「今回はその方がいいかなって思って。それになんだか物腰柔らかそうな男の人だったし、緊張しなかったから」
「あの男性は芽衣さんの顔が信頼度0の人間の顔には見えなくて、何か特殊な事情があるんじゃないかと思ったんだと思うよ」
「そっか」
「そういえば、朝ビラ配りの時に地球じゃありえない組み合わせのカップルがたくさんいたけど、あれはみんな相思相愛なの?」
「もちろんだよ。この世界ではだいたい恋すれば、相手の方も自分のことがタイプだっていう可能性は極めて高いからね。だから自分がいいなって相手のことを思ったら、相手も自分のことをいいなって思う確率は高いから、みんな積極的にアプローチしていくよ」
「へえー。わかりやすくていいよね」
「だから、俺は芽衣さんに恋してるから、芽衣さんも俺のこと恋愛対象として意識してもおかしくないんだけどね」
芽衣は予想外に話が飛び、赤面して焦る。
「ええっ……どうなんだろ?」
返答を濁す芽衣を見て、得縷はくすくすと笑う。
「地球なんかは恋愛対象と思える異性に結構な頻度で出会えるんでしょ? そこはうらやましいな。この世界はタイプだって思える異性と出会えることは滅多にないよ」
「俺は今まで恋したことなんてなかったから、芽衣さんが初めて恋心を感じさせてくれたんだよ」
芽衣は何と答えたらいいかわからず、赤面して黙り込む。
得縷くんのことは大好きだ。私も完全に得縷くんに恋してるよ。でも……。
――別れが悲しくなりますから。特に恋人なんかをお作りになられた場合は切なすぎます。
美女の言葉がそのたびに脳裏をよぎる。
得縷と恋人になっても3ヵ月後には別れることになってしまう。それに地球へ帰るという意志が揺らぎそうで怖い。
両親の顔が思い浮かぶ。優しく自分を育ててくれた日々。自分が異世界から帰らず神隠しとして存在が消え、悲しむ両親の姿。
私は絶対に地球へ帰る!!
そんな決意に満ちた芽衣の顔を見つめる得縷。