第四十五話 『ずうっと』 OP
満ち足りた表情だった。
死の間際懸命に手を伸ばしつかみ取った大切な友との絆を抱いて、凪野守人は最期の時を迎えることができたのである。
やがてだらりと腕を下ろした手のひらから、輝きを失いくすんだ青色の石が転がり出た。
凪野との通話を終えた後、憤りを吐き出した火刈がちらと目をやる。
薄暗い隔離部屋の入り口には秘書の姿があった。
「君か」
「はい」
「例の件は」
「すませました」
「そうか。盟友凪野博士への追悼メッセージを彼らがどう解釈するか見ものだな」
「このあたりでいかがでしょうか」
「そうか」間髪入れずに淡々と告げられた一言に対し、眉一つ揺らすことなく取り出したタバコに火をつけると、火刈はゆっくりと煙を吐き出してみせた。「博士同様、私もすでに時間を使い切ってしまったようだ」
「……」
「彼らに、いや、何も伝えなくていい」自ら言葉を封じ、秘書の女性に諦めたような笑みを向ける。「それは何の意味もなさない」
黒く無機質なデスクの引き出しから銃を取り出し、火刈聖宜は己のこめかみに銃口を押し当てた。
それまでの笑みを払拭し真顔となった火刈が、彼女を通して見えざる何かを見据えた。
「願わくばこの後、この国が、この世界が、恒久的に平和であるように……」
タン!
顔色一つ変えることなく、その一部始終を彼女が見届ける。
やがてまばたきもせぬまま秘書の女、波野しぶきは、デスクの上にある非常回線の受話器を取った。
「柊か。私だ」
火刈そっくりの声色だった。




