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第四十四話 『残されたモノ達』 5. 無駄な抵抗

 


 フェニックスからサンディエゴに本拠地を移設したメガテクノロジー本社工場は、メガル日本支部を上回る最強の迎撃要塞へと変貌を遂げていた。きたるべき決戦を見据えて、伏見綾音はその地にあらかじめすべての設備を移管させておいたのである。

 技術提携という名目のもと、海軍との強固な協力体制によって、綾音のメガテクノロジーはどの地域のメガルよりも強大な軍事システムを構築していた。それは伏見綾音が独自に築き上げた強固なネットワークのおかげに他ならず、その軍事力は全アメリカ軍をも凌駕するとさえ揶揄されていた。

 各都市に展開するメガル関連施設が次々と閉鎖状態に陥る中、人類最後の砦となって孤軍奮闘を続け、合衆国の基幹システムを麻痺させた怪神の一体ゴモリーを、唯一その場で足止めすることに成功していた。

 それでも幻惑を用いて人間の根底を揺さぶる手合いを前に、鉄壁の要塞もしだいに破綻し始める。

 ゴモリーの差し向けた、ヴァルキリー軍団だった。

 行動パターンは、インプそのものだった。

 それが妙齢の美しき乙女の姿をしており、なおかつ四メートルを超えることを除けば。

 巨大な美女の群が微笑みを浮かべながら破壊の限りをつくす。

 男達は麗しき姿に見とれて遅れをとり、女達は異様なそのたたずまいにただ悲鳴をあげて逃げ惑うだけだった。

 地獄から押し寄せる使者達によって、ついに不落のメガ・テクノロジーも焼きつくされようとしていた。


「一つ気になっていたことがあるんですけど」

 忍の疑問に、ふんす~と煙を吐き出してから三田が顔を向ける。

「なんでしょうか」

 タバコの火を消した三田と向き直り、うんと頷き忍がそれを口にした。

「この前、私達の前に現れたアスモデウスなんですけど、前に見たものと見た目が全然違っていましたよね。前のは本やインターネットで見た情報に近いいかにもって感じの姿だったのに、この前のはまるで……」

「閻魔大王」忍のためらいを桔平が横取りして言う。「そう言ってたな、あいつらも」

「そうですよね。日本だからああいうかっこうで現れたんですかね」

「そりゃねえだろ。まさか、出現する国に合わせて奴らがわざわざ姿を変えてくるってのか」

「いえ、そういうわけではないとは思うんですが……」

 二人をまじまじと見つめ、桔平からもう一本タバコを受け取った三田が、ふうむと考えをめぐらせながら口を開いた。

「神や悪魔といった類の伝承の形は、その国や宗教によってもかなり異なります。それらはすべて別のものだという考えとは対極的に、すべてが同じものであるという説もある」

 すぐにピンとくる忍。

「それって、このあいだのアスモデウスと閻魔大王が同じってことですか」

「かもしれません」

「そりゃおかしいだろ。その二つは見た目がまるきり違う」

「すべての人間が見たままを正確に伝えられるわけではない」

 三田の鋭い指摘に桔平の顔が、むぐ、となる。

「偉そうな言い方をしてしまい、すみません。たとえばです。西洋の悪魔と呼ばれるものが実在していて、それを江戸時代の人が見たらなんと思うでしょうか」

「え~と、妖怪……」

「……鬼、ですかね」

 タバコをくわえながら、三田が忍に正解のジェスチャーを送る。

「やった……」

「くそ……」

「妖怪も正解でしょう。青い目の大男を見ただけで当時の人達はそれを鬼だと思い込んでしまったくらいですから」

「よし!」

「引き分けですね」

「引き分けだな」

「次もがんばりましょう」

「負けねえぞ」

「アスモデウスだけではありません。エジプトに現れたモラクスの姿は伝承どおりの姿形ではなく、アヌビスと呼ばれる別の悪魔そのものです。インドへ向かったバルバトスは、ラーマーヤナでの悪の象徴であるラーヴァナそっくりだそうですし。つまりその地域にとっての恐怖の対象であったと言いかえることができる」

「でもよ」新たにわき出た疑問を桔平が口にする。「そもそも伝承自体が嘘っぱちの可能性だってあるだろ。現在の科学で解明されてもいないのに、そんな昔の人達にがっつりわかる方がおかしい。だったら、現代人の俺達だってそういうのをちょくちょく見てたっていいはずだろ」

「ちょくちょく見てるじゃないですか、今」

「あ!」

「すごい顔してますよ」

「いやいや、してねえし。それこそ、何百年も何千年も前の原始人みたいな人類にそれを正確にトレースして後世に伝えられるのかってことになってくる」

「原始人って……。……してましたよ」

「いや、してねえし! それを何万年も後まで正しく伝承するなんてこと不可能だろ。さっき三田さんが言ってたように、俺らがエンマ様だと思ってるやつをアメリカ人やイギリス人が見たら、アスモデウスだってのたまうわけだろ。そんなことで勝ったと思うなよ。あ!」閃く桔平。「あれだろ、同じ映画とかドラマ観て泣ける人間もいれば、わざとらしくて不快に思う奴だっている。犬の鳴き声だってアメリカじゃワンワンだけどこっちじゃバウバウだ」

「逆ですね。……絶対認めませんよね」

「認めてたまるか。落語にくらべりゃ、アメリカンジョークなんてちっともおもしろくねえしな。特にドラやんのロシアンジョークは最悪だ。ナガトミノカタマリならぬシモネタのカタマリだからな。やっこさん、今頃くしゃみでも連発してんじゃねえか、がっははは!」

「大好きなくせに」

「いちいちうるせえな、おまえは! ちったあ、黙ってろ」

「……」

「そこで黙っちゃうのか~ん……」

「……ながとみのかたまりて」

「彼らのことを伝えたのは、そういった人類ではないかもしれません」

「ん? ナガトミノカタマリ?」

「いえ、ナガトミノカタマリでも我々でもない、我々よりはるか以前に存在した人類が、それを成し遂げているのではと」

 三田の考察に、またもや忍がピンとくる。

「私達以前に存在していた人類は、私達よりもはるかに正確に、それを見たり触れたりできる能力があったのかもしれませんね」

「ええ」紫煙を吐き出しつつ、三田が頷く。「何億、何十億年の昔に存在したかもしれない彼らならば、きっとそうでしょう。その片方がベリアルやアスモデウスを造り、もう片方が竜王や……」

「俺達をつくった」

 桔平の目を見据え、三田が重々しく頷いてみせた。


 膠着状態すらキープできなかった見積もりの甘さを、伏見綾音は唇を噛みしめ心に刻みつけていた。

 一時的にでもゴモリーの足止めができれば、あらかじめ準備しておいた移動要塞であさみ達と合流し怪神達を迎え撃つ手はずだった。

 想定どおりの相手ならば、充分対応可能なはずだった。

 凪野がそれらに対抗する手段を持つことも知り得ていた。

 しかし大勢を凪野とベリアルを含む怪神達との争いにシフトさせ、間隙を縫ってメガル日本支部との共闘を目論んだ綾音の算段は、予想をはるかに上回る敵の脅威の前に無残にも潰えたのである。

 炎に揺れる緊急警報が、ヴァルキリーの接近を告げる。

 兵力を外部に集中させた作戦が裏目に出た。

「!」

 衝撃をともなう破壊音とともに三重ゲートが引き裂かれ、炎が流れ込む。

 大きな手をゲートの隙間から差し入れ、ぬうっと姿を現したのは、優しげな微笑みを浮かべた天井まで達する巨大な美女だった。

 三倍もの高さから綾音達を見下ろし、それが薄ら笑いを響かせながら手に持った剣を振り下ろすのを、綾音は仲間達と何もできずに見守るだけだった。

 突然ヴァルキリーがのけぞり、悲鳴とともに消滅する。

 瞬きすら忘れた綾音が見たものは、ヴァルキリーとほぼ同じサイズのパワードスーツだった。

『呼ばれて飛び出せ、ズババババーン!』

 連絡用のモニターを通じてその声を聞き、綾音がほっと胸を撫で下ろす。

『まにあったっしょ』

 にやけた笑顔の操縦者の正体は、遊佐京吾だった。


           *


 ヴァルキリーの侵入を許し、メガ・テクノロジー内部に火の手があがる。

 すべてを諦めの感情が支配し始める中、不敵に笑う二つの影があった。

 劫火の中、遊佐京吾とイヴァン・ドラグノフは擬似感応装置を搭載したパワードスーツのハッチを跳ね上げ、互いの無事を確認しあった。

「ついに俺達二人だけになったみたいですね」

「ああ、すっかりあてがはずれてしまったな」

 その返答ににやりとし、ケイゴはおもしろそうに笑ってみせた。

「俺は最初からこんなもんだと思ってましたけどね。しょせん人の力なんてこの程度ですよ。むしろ凡人の割にはみんなよく頑張った方だと思いますよ。あとは我先に走り去った連中が無事逃げ延びてくれるのを祈るだけです」

「そうだな」ケイゴの軽口に不服そうに顔をゆがめるドラグノフ。「私の予想の倍の戦力が残った。実に想定外だ」

「はい?」

「てっきり私一人だけになるものだと思っていたのだがな」

「それはちょっと悔しいですね」

「同感だ」

 苦笑いをしながらムッとするケイゴに、ドラグノフも同じ顔をしてみせる。

「もともとドラさんの予想はあてにならないですしね。この天才が生き残ることを当てられなかったくらいですから」

「はて、天才が一人生き残ったことは見事に当てたのだがな」

「はて、そんな天才他にもいましたっけ」

 ムッとし、ムッとする二人の自称天才。

「君には多少ジョークの才能があるようだな」

「天才ですからね」

「実におこがましいな」

「ええ、こうしていい師匠にめぐり会えましたからね」

「ほう、わかっているようだな。できればもう一人の弟子である桔平にもその才能をわけてやってくれないか」

「無理ですよ。あの人のお笑いのセンスは絶望的ですからね。かつて柊さんのもとに弟子入りしていたことは、僕の黒歴史です」

「同感だ。彼が世界最強クラスのソルジャーであることは認めるが、それだけに残念でならない」

「同感ですね。特に現場対応力の基礎ともなるべきおおぎりの才能が貧しすぎる。致命的です」

「同感の極みだ」

「雅に言わせれば、史上最低レベルだそうです」

「まことに遺憾だな。ヒックシン、ヒックシン!」

「風邪ですか」

「いや、どこぞのいい女達が私のうわさをしているのだろう」

「そうですか。だといいですね」

「ああ、ヒックシン・グレーシー!」

「やらかしましたね。今のオヤジジョークはコンプライアンス違反に抵触しそうですよ」

「言うようになったな。だが私の前でオヤジジョークを語るのは四十六億年早い」

「いえいえ。自分的には若手と呼ばれる時期は四十五億年前の昔にとっくに過ぎさったと思ってますがね」

「君はおこがましいがすぎる。マヌーバーの腕が私と同等なのは認めよう。だがジョークのセンスにおいては漫才コンテストのせいぜい決勝ラウンドどまりだ。とてもではないが優勝など不可能だろう。残念だがその程度では私の足もとにも及ばない」

「そんなこと言って、自分だって万年決勝ラウンドどまりなんじゃないですか」

「聞き捨てならんな」

「こちらもです。この際です。どっちがチャンピオンにふさわしいか決めましょうか」

「いいだろう。君がトラの尾を踏むことを恐れぬ勇者であると認めヨーロッパ」

「光栄のイタリアです」

「む、やるな。だが、おごるへいけはひさしかラズベリー」

「油断大テキーラ」

「両雄並び立タズマニア」

「お手つきですね」

「いや、ぎりぎりセーフだ」

「まあいいでしょう。で、お題は」

「今度インフィニティで勝負しよう」

「インフィニティか~い!」

「あの気性難が君に動かせるものならだが」

「らくしょーです。綾さんがちゃんとダイエットできるかどうかみたいに言わないでください」

「うむ、それよりはらくしょーだな」

「ええ、かなりらくしょーです」

 二人のバカ者が楽しそうに笑い合った。

 バカなことをいい合っているうちに、ヴァルキリーが最終ラインを突破したことを警告で知る。

 だが二人は落ち着き払った様子で、コクピットのコンソールからそれぞれ鉢巻を取り出した。

「さて、いきますか」

「ああ。奴らへの対策を怠るなよ」

「わかってますよ。見たらおしまいですからね」

「そのとおりだ」

「しっかし、運が悪いですね」

「ん」

「二人の天才を相手にしなけりゃいけないなんて、奴らに同情しちゃいますよ」

「そのとおりだ。よく気づいたな。我々に歯向かうことがどれだけ無意味であるのかを彼らに思い知らせてやろう……、ヒックシン!」

「またどこぞのいい女達がうわさをしているんですか」

「いや、うすうす感づいてはいたが、なんとなく桔平が私の悪口を言っているような気がする」

「俺は最初からそう思ってました」

 脳へ直接情報を伝達するシステムに設定した後、鉢巻で目隠しをする。

 そこでケイゴが何かに気づいた。

「ひょっとして、モニターをオフにしておけばいいんじゃないですか」

「気づいてしまったようだな」


           *


 連絡用モジュールを手に取り、スーツに笑みを向ける綾音。

「サンキュ、ケイゴ。助かったよ」

『あんでもねーよ』

「へーくしーん!」

『風邪?』

「いや、なんかさ、安心したら急に寒気が、が……、がっくしーん! きっとどこぞのいい男どもがあたしのうわさしてるんだろうな」

「めっそーもない」

「?」

『いやいや、ったくさ、メキシコまで行っておいて、わざわざこっちに帰ってこなくてもいいのにさ。せっかく通り過ぎてくれたと思って安心してたのにってことで』

「あっちの方が組みし易いと思って先に行ってくれたんでしょ。おかげで準備する時間が取れたってもんさ」

『充分な準備期間があってこれだからね。ほんと迷惑な奴らだよ』

「そう言いなさんなって。少しでも足止めができたことに感謝だよ」

『まあ、そうなんだけどね。おっと、早くここから逃げた方がいいよ、綾さん』

「ああ、すぐに準備する。ちょっと待ってて。みんなー、早くしてー」

『女はしたくが長いからね。俺が足止めしとくから、なるべく早くして。けっこう、ぶっ倒してきたけど、まだ下にワラワラいたからね』

「ああ、ごめん。ドラさんは」

『下で奴らを引きつけてくれてる。マーシャ達は』

「とっくに逃がしたよ。なんでやねんも連れていってもらった」

『そうか、よかった』

「残ったのはあんた達だけ」

『今のとこね。やっぱドラさんはすごいよ。全然かなわない』

「さすがだね。いい師匠持ったね」

『まあね。天才的なマヌーバテクはもとより、なんていってもドラさんはお笑いの……』

「あれでつまんない親父ギャグさえ言わなければ完璧なんだけどねえ」

『……あ~……』

「ほんと、パイロットとしての操縦技術はピカ一なんだけどね、ギャグのセンスは今三か今四くらいでない」

『ドラさんは自分で決勝ラウンドいくくらいの実力があるって……』

「ぜんぜんぜんぜん。あたしの見立てじゃ、しょせん漫才コンテストでいうところの一回戦レベルだね。柊さんもそうなんだけど、なんでつまんない人って自分がおもしろいって思い込んじゃうんだろうね。おっかしい、あっははは」

『ヘックシーンッ!』

「風邪?」

『いや……。笑ってる場合じゃねーでげしょーに……』

「ああ、ごめんごめん。そういえば、なんであんた、あのキレイなお姉さん達の誘惑に負けなかったわけ」特殊コードを神速入力しながら、綾音が気の抜けた声を出す。「どこかの大泥棒みたいにすぐ女にだまされるくせにさ。しかもおんなじ女に何回もだまされてるじゃんか。あんたなんか、ああいうのにイチコロだと思ってたのに」

『ああ、目、つぶってたから』

 へらへら笑いながら、ケイゴが面白そうに返す。

『ドラさんにシステマ習っててよかったよ。結局一回も勝てなかったけど。余裕ぶって笑ってたけど、たぶんドラさん、途中で目を開けてたと思う。負けず嫌いだからね』

「ああ、バッチリ開けてたよ。すごくムキになってた。たぶんドラさんでも目開けてたら彼女達の誘惑に勝てなかっただろうね」

『やっぱり。なんか変だなって思ってたんだよな~。こいつの支援機能のおかげもあるんだけれど、気配だけ感じてる分には、ただのバケモノだったよ。まったく、サギもいいとこだよ』

「どうだかね」

『なんですと?』

「目をつぶってたら、たいがいの女はバケモノに見えるんじゃないの」

『まあ、そうなんだけど、そればっかってわけでもないよ。心が美しい人は目をつぶっていてもキレイに見える。メアリーやジェーンみたいに。あ、あと、アレクシアもだけどね。心の目で見れば本当に美しいものがわかるってドラさん言ってたけど、嘘だね。アレクシアとかさ、ドラさんってすごくメンくいじゃんか。ああ、もちろん、綾さんも』

「ほう」

『説明しよう。心がキレイな綾さんは、本当の見た目よりもすごくキレイに今のケイゴには見えている。心も顔もキレイなメアリやジェーンはそのまんまどおりなのだが、綾さんは実物より美しく見えてしまうのである。つまり目をつぶることによって、いつもよりも逆転現象が起きるのだ』

「へえ~、そうなんだ~、って、それってあたしがもともとメアリやジェーンよりもかなり劣っているってことだよな!」

『いやいや、決してそういうわけでは』

「これから女くどく時には目をつぶってくどきなよ。そしたらだまされないだろ」

『それも説明しよう。俺もメンくいだから、それはちょっと……』

「もういいわっ!」

 綾音からのツッコミを受け、ケイゴがふっと笑う。

 その顔が、綾音には死を覚悟したもののように映った。

『綾さん、聞いてほしいことがあるんだけど』

「何」

『柊さんに送ってもらったビデオの中に、柊桔平オススメお笑い番組セレクションってあるでしょ。俺、最近日本のお笑い番組、全然笑えないんだよね。ドラさんや綾さんはゲラゲラ笑ってるのに、俺だけつまんないって思っててさ。柊さんやドラさんがお笑いのセンスないのはわかるんだけど、ひょっとしたら逆に俺の方がおかしいのかなって勘違いなんかしちゃったり……』

「だから言ってるでしょ。あんたのギャグは昔からちっともおもしろくないよ」

『や、だから勘違い……』

「勘違いじゃなくて、本当のこと!」

『……。綾さんだって柊さん達と笑いのツボが同じくせに。それってセンスもぴったりってことだよね』

「なんだとてめー! 言っていいこと悪いことがあんだろーが! ふざけんな、バーカ!」

『そんなに……』

「なんかもーなさけねーわ。だりーわ! あーもー泣けてくる!」

 苦笑いのケイゴ。

『これでふっきれた。思いっきりやれるな』

「何が?」

『俺はピンでいこうと思う。これからは夢のピン芸人生活だ』

「何バカなこと言ってんの」

『いや、子供の頃からの夢を……』

「いつまでもくだらないことばっかり言ってないでもっと現実を見つめな」

『せつなくてなきそー……』

 入力を完了し、綾音がケイゴに向き直る。

「さてと、いくよ、ケイゴ、反撃開始だ。この最悪の状況を絶対乗り切るよ」

『あいあいあいさー!』




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