第四十一話 『今、ここで伝えなければ消えてしまう、大切なもの』 OP.
その人物は多くの従者を従え、荒野の中のさびれた一軒家へと足を踏み入れた。
出迎えた関係者にエスコートされ、開いた壁の中から出現した、その建物からは想像もできない堅牢な造りのエレベーターに乗り込み、地下へと向かう。
「他の方々はすでに準備ができております」
「うむ」
地下の広大な室内は近代的な設備で埋めつくされ、巨大な円卓に一合に会した各国の重厚な面々が出迎えた。
正面に設置された縦四面、横四面の巨大スクリーンには彼らと同じ顔が映し出されており、彼の顔も見える。それは或いはアリバイ工作として予め用意されたものであり、或いは替え玉として別の人物が演じているものもあるようだった。
そこに映し出された行動こそが彼らのオフィシャルなスケジュールを表すものであり、円卓に並んだ姿は各国の定められた場所からホログラムとして配信される、本当の今の存在を投影するものだった。
世界に名だたる、先進国の権力者達の密会の場として。
「機は熟したようだな」
一人がそう切り出すと、リアルタイムで翻訳されたそれぞれの言語をもって、それは始まりを告げた。
「我々はいつでも準備ができている」
「成功のあかつきにはその男を新たなリーダーとして迎え入れるという約束だったな」
「貴奴は革命家なのか」
「我々の支援をえてクーデターを画策する気か」
「いや、そうではない。だが彼は、自らの国を一新しようと目論んでいる。誰にも気づかせずに国を改革しようとしている。我々にとっても都合のいい国にな」
「それを足がかりにして、いずれは世界をもということか」
「いずれにしろ、危険人物であることには変わりないな」
「いつかは醜態をさらすだろう」
「手を打たなくてはなるまい」
「案ずることはない。その手はずも整っている。それまでは友好を保とう」その場の中でただ一人実体を持つであろう、最後に入室した人物がにやりと笑った。「我々もな」
轟音鳴り響き、魑魅魍魎が跋扈するこの世の果てで、光輔とみずきが己の保身すら忘れて奮闘する。
だが、いかに頑張ろうと、二人だけでは巨大な鉄看板は持ち上がらなかった。
「くそ!」
爆発と噴煙。
破壊の欠片が雨のように降り注ぐ中、光輔は自分の力のなさだけが悔しくて奥歯を噛みしめた。
カランカランと音がした方向に目を向ける。
それが長さ二メートル強の角鉄骨であることに気づき、光輔が拾い上げた。
それを看板の下に差し込み、てこの原理で鉄の塊を持ち上げようと試みる。
「篠原、俺がこれで持ち上げるから、夕季を引っ張り出して」
「わかった」
光輔が全身全霊の力を込めて角パイプを押し上げる。
しかし思った以上に異物は重く、たいして持ち上がらなかった。
「く、重……」
「穂村君、もう少し」
「ああ……」
みずきの手が触れたことで、夕季の意識がかすかに呼び戻された。
「う……」
「ゆうちゃん!」みずきの顔に力がみなぎる。「ゆうちゃん、もう少しだけ我慢して。すぐに助けてあげるからね」
「……逃げて……。早くしないと、二人とも……」
「馬鹿っ! おまえを置いていけるか!」
光輔の叫びに、目を閉じたまま夕季が口をつぐむ。
その声が涙を含むものだったからだ。
「いけるか……。置いてなんか……。絶対に助けるからな!」
「光輔……」
ぼんやりとした意識の中で重い瞼をこじ開け、光輔のシルエットを感じ取る。かすかな希望を抱いたまま、また夕季の意識は遠くなっていった。
「ゆうちゃん!」
「夕季、しっかりしろ! 夕季、夕季っ!」
インプの大群はほんの数百メートル手前まで迫っていた。
それでも光輔の心にある想いは、夕季を助けることだけだった。
「絶対に助ける。絶対に……」
ふいにそれまで微動だにしなかった鉄パイプがグイと持ち上がる。
「早くそのバカ引っ張り出せ!」
礼也だった。




