庶民ですが貴族に求婚されてます
アルファポリスに生息している、ぬかみそです!
あちらにも投稿しますが、先にこちらへ……
楽しんでいただけると嬉しいです(*^^*)
それは、いつものように笑顔で接客をしていたとき。
「一目惚れしたんだ。結婚して欲しい」
明らかに上流貴族であると分かる青年に、求婚されたのだ。
一目惚れなんて信じられなかったけれど正直、嬉しかった。
私はもうすぐ20歳で、そろそろ結婚を考える時期だがいい人もいなく、出会いもない。なんせ花屋に来る男性は少ないし、いても求婚のための花束を買いに来る人しかいないから。
だから例え一時の、気の迷いだとしても胸が高鳴ったのだ。
けど、それでも。いや、だからこそ。
「お断りします」
私はうなづくわけにはいかないのです。
――
私はルイナ。花屋を営んでいる両親の手伝いをしている庶民だ。
花屋というのは、華やかそうな仕事と思われがちだが、その実なかなか大変である。
お客様に聞かれたら花の種類から花言葉まで答えられなければならないし、要望通り、いやそれ以上の花束を作る技術がいる。花束づくりは、センスが必要で私は現在練習中だ。
花の管理も必要だし、バラは棘も落とす。花には時々虫や寄生虫がいる場合もあるから、その駆除もある。
虫が苦手とは言っていられないのだ。
それでも、お客様の嬉しそうな顔を見るのは嬉しいしやりがいもある。私が作った花束で結婚を承諾してもらえたと聞いた時は嬉しくて涙が出そうになったほどだ。
また、うちの花屋さんは王都に店を構えており、時々貴族もやってきたりする。
その時は要望に添えられるか緊張してしまう。だって添えられなかったら、周囲に圧力をかけられて客がいなくなって店が潰れるかもしれないじゃない!
だから貴族が来た時は、私は細心の注意を払って対応している。
その日も、通常通り店番をしていた。
カランカランと軽やかに鈴が鳴り、客がやってきたことを知らせる。
私は手作業を止め、扉を見やった。
目を見開いた。
一目で上等だと思われる服装。20歳半ばだろうか。光を受けて赤茶に見えた髪は、見事な黒色だったようだ。端正な顔立ちをしている。
さぞ、女性受けしそうな顔をしているな――私は割とどうでもよさそうにそう思った。
だってそうだろう。貴族なんて庶民の私にとっては遠い話。誰も高い戸棚の上のホコリなんて気にしないだろう。それこそ年末の大掃除くらいにしか。そういう話だ。
あ、でもこれだと貴族をホコリ扱いしたことになるわね。不敬かしら。
ま、心の中で思ったことだしいいか☆
話を戻すと、私は貴族を『客』――それも沢山金を落としてくれる――として認識はするものの、そういう対象になることはない。
そもそも、花屋に来る時点で結婚を申し込むためと決まっているのだから、今更胸をときめかせる物語なんて始まるわけもない。
だからいつものバリッバリの営業スマイルをして言った。
「何をお求めでしょうか?」
せっかくの上物だ。逃がすはずもない。
ちなみに、営業スマイルは二割増増しにした。少しは絆されてくれたりしないかな。
「――花束を作って欲しいのだが」
「は、はい!」
艶やかで、背筋がゾクッとするような声だった。
私はどもってしまったのを隠すように、矢継ぎ早にどんなものがいいか、相手の好きな色は――と質問を重ねる。
名も知らぬ彼は庶民である私に対しても丁寧に答えてくれた。
時々、要望を言わないくせにケチをつけてくる客がいるから、そういう人と比べたら全然いい。
私はメモを取りつつ、頭の中であれこれと段取りを考える。
よく、あれもこれもと入れすぎて花束がごちゃごちゃになってしまう時があるので注意しないと。
多種類で作るなら、どれを際立たせるか。これが重要。
強調しすぎても、主役が霞んでしまってもいけない。
ブーケって割と難しいんだよね。芸術品のような出来を作れたら嬉しいけど。
注文を聞き終わったので、すぐに作り始める。ひとつくらいなら、パパッと作れるし、その都度変更もできる。
赤とピンクのカーネーションを中心に、周りに小さめの薔薇を散らせ、黄色のガーベラも……っと。
あとは、可愛さを出すためにカスミソウも。
うん、いい感じではなかろうか。
あとは可愛いリボンで包み、じっくりと検分。
……なかなか、熱烈なプロポーズだなあ。ピンクのカーネーションは『熱愛』だし、赤も『母への愛』。母っていうのは、多分恋人が母親みたいな包容力があるんだろう、きっと。マザコンではないはず……。
黄色のガーベラも『究極愛』だし。愛が重い。
ちなみにカスミソウは、『親切』や『幸福』だ。ソフトでいいよね。
うん、やっぱり私天才なのでは……?
「こちらでいかがでしょう?」
「うん、いいね。ありがとう」
「いえいえ、仕事ですので。……プロポーズ、成功するといいですね」
代金を受け取りつつ、激励をする。
愛が重いせいで断られるかもしれないのが心配だが、まあ顔はいいので大丈夫だろう。
相手だってこんなに想われて満更でもないだろうし。
だが彼は一気に顔を曇らせた。
え……? なんか不味いこと言っちゃったかな?
もしかしてもう振られたとか? それは心の傷を抉る、悪いことをしてしまったな。
「……実は、これはプロポーズ用ではないんだ」
深刻そうに告げられ、少し面食らうも、じゃあ誰にあげるんだとなるわけで。
まさかこんな重いものを、日常的に女性に渡しているんだろうか。なかなか女遊びが激しい人なんだな。
人は見かけによらないってやつか。貴族に言っても詮無いことだろうけど。
「そうなんですね。では、どなたに?」
「…………母親なんだ」
そう小声で言ってから、こちらの反応を窺うように覗き込んでくる。
まさかのマザコン確定ー!! おまけに重い!!!
女性に渡す方がまだ救いがあった。この、愛の塊みたいな花束を血の繋がった親に渡すって、なかなか勇気がいると思うんだ。
私は営業スマイル(笑いを堪えているので5割増になった)で安心するように言う。
「とても、母親想いなのですね。お母様は幸せでしょう、こんなに想われて」
彼はハッと顔を上げ、確認するように期待を込めた瞳で「本当にそう思ってくれるか?」と聞いた。
貴族なのに感情を表に出していいのかと考え、庶民だからかと一人で納得しながらもうなづく。
彼はホッ、と息をつき、「ありがとう」とチップを渡してくれた。
やった! 臨時収入(お小遣い)だ!
私は喜びを顔に出さないように、「ありがとうございます」と頭を下げ、「またいらしてくださいね」とこのマザコンな上客……おっと、お偉い貴族様に8割増しした営業スマイルを向けた。
もう今日は営業スマイルの大安売りだ。だがお金には返えられない。
これでなにを買おうかな~。
あれも欲しいし、これも……と脳内で買うものリストを作っていると、ふと目の前のものがしゃがみ込んだので釣られて視線を向ける。
そしたら仰天。なんとビックリ、マザコン貴族が跪いていたのだ。
まず心配したのは、吹き矢かなんかで足がやられちゃったのか、ということ。
だっていきなりしゃがみ込むなんて異常である。跪いていると思ったけど、きっと左足を負傷して膝を着いてしまったせいでそう見えただけよね。
私はカモ客に何かあってはいけないとしゃがみ込んで視線を合わせ、顔を覗き込む。
「どうしたんです? 大丈夫ですか?」
私は相当切羽詰まった声をしていたのだろう。もしかしたら泣きそうになっていたのかもしれない。
私の涙声に慌てた彼は胸ポケットから上品なハンカチーフを取り出して私の目元に添えた。
涙、出ちゃってたかな。でも、顔色は悪くなさそうで安心した。
「怪我はないんですね?」
「あ、ああ。もちろんだ」
「本当ですか? 嘘だったら許しませんよ?」
「うむ。五体満足だぞ!」
ちょっとそれ意味違うんじゃないだろうか。
思ったけど言わなかった。ただ一言、「よかった」とだけ。
その途端、彼はキリッとした顔になって私を見つめて言った。
「一目惚れしたんだ。結婚して欲しい」
これで終わりです(オイ)!
良ければ感想などをくださると、作者のやる気がメラメラ出ます(笑)
またどこかでお会いしましょう〜