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身体は児童、中身はおっさんの成り上がり冒険記  作者: 力水
第二章 受験とラドル解放戦編
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第39話 決着と新たな称号

 瓦礫(がれき)の山の中、私はある魔法の詠唱(えいしょう)をしながらも、雲霞のごとく群がってくる鬼共を【爆糸】で()ぎ払う。

 幾多もの爆発が空中へ巻き起こる中、背後から迫る気配に、地面を蹴り直角に飛ぶと、一足遅れて青髭から放たれた無数の青色の(かみ)の触手が地面深く突き刺さった。


「ちょこまかとぉ!!」


 奴の全身は青色の球体となっており、そこに頭部のみがちょこんと上に乗っている構造だ。

 あれを同じ同郷人とするには、地球人そのものを再定義し直す必要がある。

 というか、あれってどう考えても人間辞めてるよな。まっ、私も決して人のことを言えないのがつらい所ではあるのだけど。


「わはははっ!!」


 私は悪役っぽく高笑いをしつつも、奴に向けて無数の【氷の大竜(ケートス)】を放つ。

 十数匹にも及ぶ氷の竜達は四方から、青髭に(えさ)へと群がるピラニアのごとく牙を突きたてようとするが、青色の髪がハリネズミのごとく鋭利な(とげ)と化し、氷の竜達を串刺(くしざ)しにする。

 しかし――。


「ぐむ?」


 刺した青色の触手の髪は氷結し、パキパキと音を立て、ガラスが破砕(はさい)するかのごとく霧散(むさん)する。

 間髪入(かんはつい)れず、【氷の大竜(ケートス)】を連続発動する。

無数の氷の竜により空中で氷結した青髭は、(まゆ)のようなオブジェを形成した。

 さて、そろそろ仕上げだな。


「終わりだ」


 【鳥籠】を発動する。ただし、今回の範囲は氷のオブジェとなった青髭を中心に、既に私達の戦いで更地と化した元屋敷跡までとした。

さらに効果も【風操術】、【爆糸】、【氷の大竜(ケートス)】の三魔法を攻撃ではなく封じ込めと外部との影響遮断のためだけに使っている。


「舐めるんじゃぁーないですねぇっ!!」


 青髭は青髪の触手により氷の竜を破壊しようとする。

 しかし、【風操術】と【爆糸】により、全身を雁字搦(がんじがら)めに束縛(そくばく)され、おまけに無数に湧き出る氷の竜により、忽ち青髪の触手ごと凍結させられてしまう。

長い詠唱が終了し、


「【四つの影王の掌フォース・スカディ・パーム】」


 鳥籠の上下左右の四か所から、内部に向けてニュッと顕現する四組の黒色の両腕(りょうわん)

 各両腕から生じる尋常ではない量の眩い光の奔流。その凄まじい光の束が中心の氷漬けとなった青髭へと注がれていく。

一瞬、そう、たった一瞬で、悲鳴の一つさえも上げることを許さず、青髭の肉体をこの世から消滅させてしまう。


「やれやれだ。ようやく終了か」


 奴との戦闘でここら一帯が瓦礫(がれき)と化している。この都市は将来、キャメロットと双璧(そうへき)を成す商業都市にするつもりなのだ。直ちに、開発にかかる必要があるな。

 だが、それも明日から始めればいい。流石に疲れたし、私は帰って身体を休ませてもらう。

 円環領域でこのアークロイの砦周辺を索敵(さくてき)し、問題がないことの確認後、私も転移でストラヘイムのサガミ商館に戻り、ジュドにいくつかの指示を出す。

 ジュドから単独行動をしたことにつき、ありがたい小言を(たまわ)った後、自室に直行し、ベッドにダイブし眠りにつこうとする。

 しかし――。


「まったく眠くならぬな」


 大技の連続で全身くったくたなのは間違いない。なのに精神だけは妙に緊張しており、微塵(みじん)も眠気を感じない。始末に負えないのは、こういうときは決まって思考は(いちじる)しく低下していることが多いってこと。


「そうだな。いい機会かもしれん」


 いつものように魔力上昇の修行による強制安眠を実行してもいいが、戦力の増強を図るのも一興だ。

此度の青髭に片眼鏡の男。どう考えても、この短時間で強者が()きすぎだ。こうして生き()びることができたが、それは相手の(あなど)りや気紛れといった運的要素によることが大きい。このまま進めば間違いなく敗北する。私個人はもちろん、仲間達の強化も必要となろう。

 そして強化で最も手っ取り早く確実なのはやはり私のギフトを用いる方法だ。そもそも、(ことわり)埒外(らちがい)にある者達を相手にするのだ。こちらも同じ土俵入りしないと話にすらならない。

 

 魔法の設計図を開き、今私が所持する素材を記入していく。

 

 …… 

 ………… 

 ………………


 数度、試みた結果、次の一つがヒットした。


――――――――――――――――

★【人間道】

〇設計素材:Aランク以上の魔石六個、Fランク以上の魔物の魔石5000個、人間の魔石5000個。

――――――――――――――――


 古竜と魔物、そして人の魂の欠片(かけら)を用いて作られる魔導書。名からして(ろく)なものではあるまいが、その効果は今までの魔法とは段違いだ。何せ今までの伝説(レジェンド)の魔法創造に用いられたのは、Bランクの魔石一個にすぎない。それが、Aランクの魔石六個も必要なのだ。おまけに、Fランク以上の魔石と人間の魔石各5000個。その非常識さ加減は、容易に(うかが)い知ることができる。

 この点、Fランク以上の魔物の魔石5000個は、この数年の私の成果に等しいが、また貯蓄は可能だからこれは別にいい。

 問題は人間の魔石だ。王国兵の遺体からの魔石を析出させたのは何かに有効利用できると考えたからに他ならない。それでもいざ使うとなると僅かな躊躇(とまど)いが生じていた。

 実に今更な小賢(こざか)しい感傷(かんしょう)だ。第一、円環領域の解析が正しいならば、魔石はあくまで魂の残り(かす)であり、そのものではない。かつての地球にいた私ならば、このようなことで悩むことはなかった。それは断言してもいい。

相模白部(さがみしらべ)という中身も、この身体として生活する中で少しずつ、変貌(へんぼう)しているのかもしれん。

 もっとも、そのような感傷をあっさり(どぶ)に捨てるのが私。感情に左右されて自重するなど私には到底ありえまい。

 ともかく、素材はあるのだ。直ぐにでも創造が可能だが、この部屋では(いささ)(せま)かろう。実験には適度の広さの場所が必要だ。


 サガミ商館を出ると、ストラヘイムの雲一つない満天の星々に彩られた夜空が広がっていた。

 だだっ広い商館の広場へと移動する。このくらいの空間があれば、実験は可能だろう。


 【人間道】を選択し、巨大な金属の箱を顕現させ、私は万を超える素材を入れて、魔力を込めた。

予定調和のごとく出現する一冊の本。その本は闇色であり、赤黒色のオーラをまるで陽炎のように(まと)っていた。そして本の接する地面は崩壊し、次第に陥没している。

どう肯定的にみても、まともではないな。

 円環領域で解析をかける。


――――――――――――――――

〇術名:【人間道】

〇説明:使用することにより、人間道の称号を獲得する。ただし、一度使用すると魔導書は消滅し、二度と同様の魔導書を創造することはできなくなる。

〇呪文:――

〇ランク:称号付与魔導書

〇マスターまでの熟練度:――

――――――――――――――――


 よりにもよって称号獲得型の魔導書か。これは私の勘だが、この魔導書は危険だ。

 契約すれば私も無事にはすむまい。というか、確実に強制安眠の世界へ引きずり込まれることだろう。

 アイテムボックスへ魔導書を入れると、自室へ転移する。


 部屋を壊されてはかなわない。故にアイテムボックスから魔導書を出し、【風操術】により、空中で固定する。流石に大気までは崩壊させないようだし、あとは気合だな。

 接したものを分解するような魔導書に触れるなど気は進まないが、ここまで来て止めるという選択肢はあり得ない。

 右手の掌を本に触れる。


「ぐっ!?」


 右手首までが一瞬でボロボロになって崩れてしまう。痛みを感じたのはほんの一瞬であり、崩壊断面からは血は一滴も出ずに、純白の砂と化しサラサラと床に流れている。

 魔法で右肘から切断した上で【上位回復(ハイヒール)】を発動すると、瞬時に元通りに修復できた。

さて、困ったぞ。触れられぬなら契約はできない。より正確には触れれば私の体が砂と化す。

 これは魔導書。契約しなければ意義はない。ならば契約の手段が必ずあるはず。見落としているものがあるのだろう。


「ん? この靄……」


 魔導書から絶えず発生している赤黒色の霧の精査を開始する。


「これは、印か?」


 何とも形容し難いが無理に言葉にするならば剣だろうか。あくまで、強引に表現すればの話だが。


「ふむ」


 これが鍵穴ってことはないだろうか? だとすると鍵は――。

 ナイフで掌に魔導書が示すオーラの印を刻む。


「いや、流石にベタ過ぎるか」


  こんな安っぽい妄想(もうそう)(あふ)れた契約方法などあるわけないか。

 近づけると赤黒色のオーラは私の右手に絡み、そして激痛の後、砂塵(さじん)と化す。

  砂塵化したのは予想通りだが、その過程は私の予測の範疇(はんちゅう)を超えていた。

 やはり、砂塵化した断面を切断し、【上位回復(ハイヒール)】で癒す。

  驚愕に値するが、というより呆れるが、掌に印を刻むという方法は間違えていないようだ。

 だとすると、刻んだ印が誤っていた。そう考えるべきだ。

 そして、これが鍵と鍵穴の関係とすれば、解は一つだろう。

  右の掌に、先ほどとは対称的に印を描き、近づける。


「うぉっ!?」


 刹那、赤黒色のオーラは私を飲み込み、意識はプツリと失われた。



お読みいただきありがとうございます。

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