表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
身体は児童、中身はおっさんの成り上がり冒険記  作者: 力水
第二章 受験とラドル解放戦編
89/257

第30話 出撃命令


 ――アークロイの砦。

 王国軍はアンデッド襲撃で壊滅したキャメロットを占拠した。そこを中心に、今後は大規模な帝国侵攻が為されることになっている。

 しかし、エーテ将軍が少数精鋭による進軍に(こだわ)ったため、キャメロットへ駐在している兵士の総数は大した数ではない。

 対してこのアークロイは、キャメロットの軽く十倍以上の人員がおり、依然としてアムルゼス王国による対帝国戦略の要となっている。

 そのアークロイの砦の円柱状の会議室に、アークロイの砦の防衛の任を担う王国将校達が(そろ)()みをしていた。


「……」


 誰も一言も口を開かず、屈辱に身を震わせている。

 テーブルに置かれるのは、綺麗に整えられた数人の将校の首級(しるし)

 その中には、キャメロットでまもなく始まる対帝国戦での作戦指揮を()るはずだったエーテ将軍のものもあった。


「エーテ、さぞ、無念であったろう」


 (つぶ)れた鼻に、まん丸の目、垂れ下がった頬肉の男が、猿顔の男――エーテの生首を抱え、俯くと、そのずんぐりとした身を震わせる。


「ブル将軍……御心中お察しします」


 将校の一人が、顔を悔しさで一杯にしながらも、慰めの言葉をかける。


(ふん、そんなわけがあるまいに)


 王国軍最上級将校の一人、魔法師ウィンプは滑稽(こっけい)で無知な若い将校に冷ややかな視線を送る。

 ブルとエーテは政敵であり、犬猿の仲。一方がいなくなって喜ぶことすらあれ、心を痛めることなどありえない。

 確かに、過去のブルは単身で敵地に切り込んだり、自軍の兵を逃がす殿(しんがり)を務めるような根っからの軍人であったが、人は変わるものだ。過去の将軍ならともかく、今のブルが政敵の死などを一々、惜しむはずもない。

 案の定、そのたるんだ頬を緩ませると、


「しかしぃ! 貴様のせいで、キャメロットを奪われたのもぉ事実ぅ! しかもぉー、たかが蛮族にだぁ! 貴様のような無能は死んで当然、生きる価値なしぃ!!」


 狂ったように笑いだし、エーテ将軍の頭部を右拳で殴りつけ始める。ウィンプ以外、ブルの奇行に誰もが唖然(あぜん)とする中、突然、ぴたりと笑みを消失させる。


(この変わり身、いつ目にしても気味が悪い)


 まるで、獣か何かが、人の皮を無理矢理被って操っているかのごとき、独特な不快感がある。

 先ほどとは一転、エーテ将軍の頭部を(ごみ)でも投げ捨てるがごとく、テーブルに放り投げると、椅子にドカッと腰を下ろし、


「読み上げよ」


 頬杖を突きながらも、指示を出す。

 戸惑いながら、一人がスクロールを開き朗読(ろうどく)を始める。


『アムルゼス王国各位に宣告する。

 貴殿らは我がラドルの領地を踏み荒らし、野盗のごとき収奪を働いた。その首級(しるし)は、我らラドルの怒りの表出である。直ぐにでも貴殿らに正当な報復をするのが道理だが、いくばくかの慈悲を与えることにした。

 アークロイの砦の無血開城とこのドルアの地からの撤退。その二つを以って、貴殿らを見逃そうと思っている。

 期限は、今から二週間後の午前八時まで。賢明な判断を望む。


                      ラドル軍総大将テオ・グリューネ』


「たかが、蛮族の分際でつけあがりおって!」

「劣等民族が、我らに慈悲を与えるだと!? 傲岸不遜にもほどがある!」

「ブル将軍、これでは示しがつきませぬ。直ちに、キャメロットに兵を送るべきです」


 ブルは、しばし、両目の瞼を閉じてブツブツ呻いていたが、勢いよく席を立ち上がり、右手を掲げる。


「ウィンプ、兵七千を率いて、キャメロットを落とせ」

「七千ですか?」


死にかけの蛮族平定に、兵七千とはいくらなんでも慎重すぎやしないか。それに全軍で進軍すれば、この砦が手薄になるのも事実。


「ん? 不服か?」


 この狂った男を不快にさせるのはまずい。些細なことで、この男の逆鱗に触れ、激戦地送りとなったものなど、腐るほどいる。


「とんでもございません。必ずや、平定してご覧にいれましょう」


 立ち上がり、姿勢を正し、敬礼をする。


「うむ、ならばよい」


 満足そうに何度か頷くと、ブルは部屋を出て行ってしまった。

 いいさ。この砦の堅牢さなら、攻められても当分は持ちこたえられるだろうし、予想以上に大軍を率いることができるのだ。精々、楽しませてもらおう。なにせ、蛮族狩りはいいものだからなぁ。

 さて、此度はどのような趣向で蛮族共を縊り殺してやろうか。興奮に身震いしながら、ウィンプは間もなく訪れるであろう快楽を夢想した。


お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タイトル身体は児童、中身はおっさんの成り上がり冒険記(コミック)
・ツギクルブックス様から、1巻、2巻発売中!!
・第三巻、11月10日に発売予定!
・コミックも発売中!
・書籍版は大幅な加筆修正あり!
・Amazonで第三巻予約受付中!
ツギクルバナー 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ