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身体は児童、中身はおっさんの成り上がり冒険記  作者: 力水
第二章 受験とラドル解放戦編
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第16話 合格者選抜会議 ジークフリード・グランブル


「たかが受験生が生意気(なまいき)にも、教官の真似事をしたのだ! しかも、ロナルド皇太子殿下と、クリューガー公爵家のご子息、アラン様にだ。こんなことが許されるはずがない!」


やはりこうなったか。ジークフリード・グランブルは、鬱陶(うっとう)しく(わめ)く教頭に不快を隠そうともせず、顔を(しか)めた。


「うーん、確かにまずいかもですねぇ」


 教頭のこの狂いきった発言に、誰も反論すら口にしないのは、別に教頭を(おもんばか)ってというわけでは断じてあるまい。近衛(このえ)騎士団(きしだん)出身である教頭のような、ごく一部の頭がガチガチの例外を除き、ここの魔導学院の教授陣(きょうじゅじん)は、極めて優秀だ。それ故にあのグレイという人物の異常さ加減を一番よく理解している。

 あんな短時間で、素人同然の子供達に帝国に認知されてすらいない新種の魔法を教授したのだ。しかも、あの魔法についての一連の発言を耳にすれば、グレイが魔導という存在そのものに、大変革を及ぼす可能性を有することを認識しているはず。

 そして、ここの教授はそのほとんどが、己の領地や大都市の魔法学院の長達。獲得できれば、この帝立魔導騎士学院すらもしのぐ力と権勢を得られる。

要するに、あの怪物獲得の()け引きは、既に始まっているのだろう。


「いっそのこと、今年は減点方式にすればいいのではないか。教頭の(おっしゃ)る通り、最後の武術試験では、勝手な事をしたのは事実なのだし」

「そうですな。ならば魔力測定値が、白銀色だったことも、白色と誤魔化しますか?」

「まあ、測定までに何度も失敗しているようですしねぇ」

「しかし白銀を白にねぇ」


 揶揄(からか)うように、坊主の教授が資料をテーブルに放り投げる。無理もない。白銀は、一定以上の測定不可能な魔力で染まる色。白銀色もの魔力を持つものなど、世界でも限られているから。それを白色とみなすなど、悪いジョークとしか思えない。


「だが、(まと)()ては規定通り、満点を与えざるを得ない」


 スキンヘッドの教授がそう断言する。


「あー、あの一つの詠唱(えいしょう)で、八つの炎を作り出し、おまけにそれらが全て、最上位の炎である蒼炎だったという話か」

「担当教官から聞いたときは、白昼夢(はくちゅうむ)でも見たのかと思いましたがね」


 誰かのゴクッと喉を鳴らす音が静まり返った会議室に木霊(こだま)する。蒼炎とは、炎術の最高峰。始皇帝――フィリップ・ローズ・アーカイブが好んで使用したとされる至高の魔法。仮に会得できるならば、帝国史に名を遺す炎術師であることが約束されるのだ。

しかも、しかもだ。実習試験でのいきさつを鑑みれば、グレイから教授を受ければ、この学院生のレベルでも皆が使用可能かもしれない。


「だから、どうした!? 奴は神から与えられた我らの魔法の才能を低俗な学問とまで言い放ったのだぞ! そんな奴、絶対に入学などさせられん!」

「教頭、少し、落ち着きなされ。で? 実際、グレイの学科の成績はどうなんだ?」


 このままでは、(らち)が明かん。ジークは、話を振るべく今も無言で数枚の紙を読みふけっているレベッカに尋ねる。


「……」


 答えず、ただ一心不乱(いっしんふらん)に読みふけるのみ。


「レベッカ!?」

「あ、はい。すいません。彼の学科試験の成績ですねぇ。正直、点数を付けようがないというのが実際のところですぅ」

「つけようがないとは、どういうことじゃ?」


 (まゆ)(ひそ)めて問いかける。レベッカがこんな曖昧(あいまい)な発言をすることは滅多(めった)にないから。


「歴史学は満点。ご丁寧に考察までつけてくれましたよぉ。一般常識は、全て正答。ただし、そのうちいくつかは疑問を投げかけていますぅ」

「伝統ある騎士校の(ほこ)礼儀作法(れいぎさほう)に疑問だと!? 無礼な小僧めっ!」


 教頭が立ち上がり、叫ぶ。煩い奴だ。少し黙ってられんものか。


「それらはまだいいんですよぉ。魔法についての記述が全て異常なのですぅ」

「異常? レベッカ、要領を得ないな。お前らしくもないぞ。もっと、まとめて話せ」


 金髪坊主の教官が、もっともな要求を出す。

レベッカは、ジークの弟子の中では最も優秀な人物。その彼女をここまで動揺させる解答。グレイ、お前、一体、何を書いたんだ?


「すいません。えーとですねぇ。まず断っておきますと、魔法式の記述問題は、最初の数問以外、全て我らが用意した解答とは異なっていましたぁ」

「誤答ということか? それのどこが異常なのだ?」

「そこですよぉ。誤答ではなかったんですぅ。試しに彼の記述した魔法式の解答を職員が詠唱してみるとぉ――」


 もう言わなくても察しくらい付く。


「魔法が発動したんじゃな? しかも、比較にならないほど強力なものが」

「ええ。お師匠の仰る通りですぅ。【岩弾ロックバレット】を放った結果……」


 一旦、言葉を切るレベッカ。


「だから、もったいぶるな!」

「訓練所にある大岩が、二つに砕けましたぁ」


 目を点にする教授陣。当然だ。訓練所の大岩は大きく、極めて頑丈で魔法の試し打ちに使用されるもの。【岩弾ロックバレット】を何発放とうが、小さな傷程度しかつかない。


「それはないだろう」

「同感だ。偶々(たまたま)亀裂(きれつ)が入っていたとかなのでは?」

「数倍にも及ぶ岩の弾丸が、回転しながらも、高速で衝突したのですぅ。私にはどうしても偶然には思えません。それに他の魔法も同じぃ。制御は聊か難しいですがぁ、全てが、新種といっても過言(かごん)でもない効果を示しておりますぅ」


あやつめ、どんどんバケモノ()みてきおる。


不埒者(ふらちもの)の考案した魔法など、検討するに値しない。始祖たる大帝陛下が考案してくださった魔法をより精密に扱えればよいのだ!」

「……」


 再び静寂(せいじゃく)に包まれる。別に教頭の考えが奇異(きい)なわけではなく、むしろ今までの魔法についての共通認識といってよい。この場の誰もが、半信半疑(はんしんはんぎ)なのは間違いあるまい。あの歩く非常識と少なからず関わりがあるジークでさえも、到底納得はできない事柄(ことがら)なのだから。


「魔法とは、才能ある魔法師が錬磨し、奥義たる無詠唱に到達することこそが、神髄(しんずい)。そうじゃなかったということか?」

「なっ! そんな――」


 教頭が(うるさ)(わめ)いていたが、誰も耳を貸そうとせずに、レベッカの返答を持つ。


「いえ、そうではありません。最後の問題で彼が述べたことは三つですぅ。どれも難解でかつ、興味深かったのですがぁ、特別、次の一説は私の心を大きく揺さぶりましたぁ」

「それは?」


 聞きたい。しかし、聞けば、自身の今までの信じてきたものが全て粉々に破壊されるようで、不安がズシンと心にのしかかる。

 咳払(せきばら)いをすると、レベッカは解答の一部を読み始める。


『無詠唱魔法が、当該、個別魔法の最終到達点であることは、まぎれもない事実である。しかし、これをもって詠唱魔法が劣っていると結論付けるのは早計であろう。

詠唱魔法は、魔法式と呼ばれる言語を理解することにより、全く性質の異なる魔法へと改変することが可能となるからだ。

この常に進化が内在されている詠唱魔法は、もしかしたら、科学より先に真理と言う名の知識の源泉に到達し得るのかもしれない』


一部、『科学』なる意味不明な言語はあったが、『詠唱魔法』にそのような性質があるならば、そもそも魔法という存在そのものの見方を変える必要がでてくる。


「最後にある報告がありますぅ」


 レベッカの顔付きが変わった。また常識がガラガラと(くず)されるような気がする。


「最後の始皇帝陛下が勘案なされたとされるいくつかの魔法の考察じゃな?」


 魔導王とすら称される始皇帝時代に編み出されたいくつかの魔法。長い時代を経て、それらは名前のみが伝わる伝説上の魔法となる。当学院では、いくつかの魔法の考察を設問に入れるのが恒例となっていたのだ。


「ええ。その解答もありましたとも」


 それ以上、口を堅く噤むレベッカに、この場の全員がその意味を知る。


「まさか……再現されたのか?」

「……」

「馬鹿な! あれは、遺失魔法(ロストマジック)だぞ!?」


 無言で頷くレベッカに、机を叩いて立ち上がる金髪坊主の戦闘魔法科の教授。


「信じられないのも無理はないですぅ。私も、未だにこの手で発動できたことが、信じられないんですぅ」


 レベッカの右手は小刻みに震えていた。


「冗談じゃない! それが真実なら、こんなくだらない合否なんて論じている暇などないぞ!」


 戦闘魔法科の教授は立ち上がると、部屋を出て行こうとする。


「どこにいくつもりじゃ?」

「言わずもがなです」

「奴に、教えを()うつもりか?」

「逆に聞きますがね、それ以外の選択肢があるんですか?」

「その様な騎士道に反することが、許されるはずが――」


 額に太い青筋を漲らせ、唾を飛ばしつつも、教頭は(まく)し立てようとするも――。


「ここは、騎士校ではなく、魔導(・・)騎士学院です。騎士の爺様は黙っていただきたい!」


初めてともいえる教授の離反(りはん)に、口をパクパクさせる教頭。


「流石に、遺失魔法(ロストマジック)につき委細(いさい)を知るものを、私個人の学院に招けば、帝国中の反発は避けられぬだろうしなぁ」


 黒髪の初老の教授が、髭をいじりながらも、そんな身も蓋もない事実を独白する。


「やはり、その腹積もりでしたか?」

「そういうお前らも、私と大差あるまい?」


 見合わせて苦笑いを浮かべる教授達。


「貴様らは、上皇陛下のご意向に背くつもりか!?」


 教頭が立ち上がり、激高する。確かにあの血統第一主義のあの上皇なら、グレイのごとき異端者(いたんしゃ)は排除の一択であろうな。


「いんや、グレイが武術の試験で独断専行的行為をしたことは紛れもない事実。不合格にするさ。皆もそれでよいな?」

 

 無言の同意。どうやら、ジークの意図は以心伝心(いしんでんしん)で伝わったようだ。そう。ただ一人を除いては。


「ぐむ、それならよい」


 教頭は両腕を組むと、今まで喚いていたのが嘘のように、大人しく、椅子に座った。


 さて、これからが忙しくなる。あの子供の皮を被ったバケモノを何とかして説き伏せなければならない。そして、それは陛下や宰相も同じ。さらに、上皇派による反発も覚悟しておかねばなるまい。

そう。ジーク達のやろうとしていることは、合格を認めるなどとは比較にならない困難を伴う。それでも、未来の帝国と魔導の発展のためには(くぐ)り抜けねばならぬ壁だ。


(やって見せるわい!)


 ジークは、決意を新たに、会議室を飛び出した。



お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 教頭もう二度と出てこないでね
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