表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
身体は児童、中身はおっさんの成り上がり冒険記  作者: 力水
第二章 受験とラドル解放戦編
63/257

第4話 悪逆憤怒


 クラマは、私とアリアを連れて、裏路地を通り抜け、三階建ての屋敷の前までくる。


「ここが、フィーシーズファミリーの屋敷です」


 私に(うやうや)しく頭を下げるクラマ。アリアは、親の仇でも見るような目で、屋敷を睥睨(へいげい)していた。

 まずは、円環領域で屋敷内部を(くま)なく探索しておくことにする。

 屋敷内には、兵隊共が100人ほど配置している。ステータス平均は、ほとんどがG+~F-だが、中には、比較的強者が三人いた。

 一人が、頬に傷のある坊主の男。

 二人目の熊のような髭面の大男。

 三人目が、豪奢な(こん)のローブで身を(まと)った病的に()せた男。

 一般的には強者にカテゴライズされるが、いずれも今の私の脅威にはなりそうもない。

 三階は寝室や客室となっており、幹部と思しき男が女達を侍らせ、酒池肉林を繰り広げている。

 二階の豪奢な部屋と地下は――。


「くそがぁ!!」


 あまりの光景に、怨嗟(えんさ)の声を口から()れ出していた。


「と、突然、怖い顔して、どうしたのよ?」


 恐る恐る尋ねてくるアリアと、私の内情を察したのか、無言で下唇を噛み締めるクラマ。


「悪いが、対話はなしだ」


 私は円環領域により、屋敷の地下室を指定し転移を発動する。


「それってどういう意味よ? え? へ? 何これ?」


 出現した魔法陣に対するアリアの混乱気味の言葉とともに、私達は地下室に転移した。



 そこは、薄暗く、ひんやりとした地下室。その石床には、十数人の少年少女が鎖で(つな)がれていた。

 その半数は、首がなくなったり、臓物が飛び出ていたりと、確認するまでもなく、死亡している。

 己の視界が真っ赤に染まるのを自覚(じかく)する。


(落ち着くのだ)


 一度、大きく息を吸い込み、吐き出す。それだけで痛いくらいに暴れまわっていた狂気は、次第に沈静化していく。

 そうだ。この手の猟奇的(りょうきてき)な変態行為に快感を覚える下種野郎は、程度の差すらあれ、どこの世界にもいる。法の手で、罪人として裁くことができるか否かの差でしかないのだ。

 今は、生存者の救命が最優先――。


「うぁ……」


 茫然(ぼうぜん)と眼前の惨状(さんじょう)を眺めていたアリアは、床に両膝をつくと、何度も、何度も嘔吐した。

 涙と鼻水に塗れた顔で、今も吐いているアリアを落ち着けるべく、その背中をクラマがそっと()でている。

 彼女には少し、酷だったとは思う。だが保護者のクラマがこの光景を彼女に見せることを望んだのだ。ならば、それは彼女にとって意味のあることなのだろう。

 何より、今は現実に絶望している時間も、(なげ)いている余裕すらも私達には与えられていない。

 だから――。


「泣いている暇があるなら、生存者をここに運べ」


 ただ、そう指示を出す。


「あ、あんたはなぜ、これを見て、そうも平然としていられるの?」

「私が、(わめ)けば何か状況は変わるのか?」

「人でなしっ!」


 そうさ。このイカレタ光景を見ても、平常を保っていられる時点で、私は人ではないのだろう。


「もう一度いうぞ。生存者を部屋の中心に運べ」

「……」


 ぐっと、奥歯を噛み締めると、アリアは泣きべそを掻きながらも、重傷者の少年少女を部屋の中心へと集める。

私も生存者に、回復(ヒール)をかけ始めた。


 

 数人は既に手遅れだったが、おおよそ九人の傷はほぼ完治し得た。もっとも――。


「……」


 極度の恐怖や絶望のためか、すっかり心が壊され、傷が()えてもその瞳には光は微塵も灯らない。それでも、五体満足で、生きていられるだけ、この者達は幸運なのだ。少なくとも、冷たくなって先に眠ってしまった者達よりはずっと。

 生存者に、事情を簡単に説明する羊皮紙を握らせ、ストラヘイムのサガミ商会館一階へと全員を転移する。

 

私は既に息をしていない子供達を一か所に集める。

 

「さぞ、痛かったろう。怖かったろう。今楽にしてやるからな」


 一定範囲の発火及び炎の操作能力である上位魔法――【炎舞(フレイムロンド)】により、瞬時に骨まで燃やし尽くす。

 

 今も、真っ青に血の気が引いた顔で、地面に視線を固定しているアリアに向き直る。


「もうわかったろう? ここに生息しているのは、外道畜生。もはや人ではない。説得などそもそも無意味だ」

「……ごめんなさい」


 私の声が聞こえているのか、いないのか、消え入りそうな声で、アリアは私に深く頭を下げた。

 この状況でなぜ、謝罪する? やはり子供の思考回路は私にはよくわからん。そして、その子供にこんな酷な光景を見せた保護者(クラマ)意図(いと)も。


「クラマ、もういいだろう。これ以上はアリアには早い」


 私はこの屋敷にいる者共を、もはや人間とはみなしていない。私とくれば、十中八九、これ以上の地獄を直に目にする。


「それは、アリアお嬢様次第です」

「だから、子供の意思の尊重など時と場合があると言っているのだっ!!」


 たまらず、怒鳴りつけていた。


「グレイ殿、どうか、信じていただきたい。お嬢様の目的の成就には、これは必要なことなのです。むろんお嬢様が望むのであればですが」


 クラマは、アリアに向き直ると――。


「お嬢様自身でお選びなさい。このまま目を(つぶ)り立ち止まるか、グレイ殿とともに、現実を見ながら先に進むのか」


 ただ、それだけを宣告する。

 私にも、クラマの意図が読めぬのだ。アリアには猶更(なおさら)だろう。


「いくわ」


 アリアは、震えながらも私が最も望まぬ返答をした。

 

「今ならまだ間に合うぞ?」

「くどい! 死んでもついていく!」


 くそ、クラマの奴め、余計なことを。

 私はこの惨状を引き起こした屋敷の奴らに一切の躊躇(ちゅうちょ)はしない。誰が同行しようと、ここをこの世の地獄と化すのは決定事項。それは、多分、とびっきりの恐怖と絶望だ。とてもじゃないが、表の世界で幸せ一杯に育ったアリアに相応しいとは思えない。

 だが、同時に、保護者のクラマが、必要とまでいうのだ。もっともな理由くらいあるのだろう。それを私の一存で勝手に潰してよいものだろうか。

 ……これ以上考えても無意味か。


「わかった。もう、言うまい。だが、後悔だけはするなよ」


 アリアが大きく頷くのを確認し、視線を扉へと向ける。

 さて、もういいだろう。私もそろそろ限界だ。さっそく、駆除を始めるとする。

 この程度の屑共に、こそこそ行動するなど私の性に合わない。

 私は、アリアとクラマを連れて、屋敷の一階への階段を上がっていく。

お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タイトル身体は児童、中身はおっさんの成り上がり冒険記(コミック)
・ツギクルブックス様から、1巻、2巻発売中!!
・第三巻、11月10日に発売予定!
・コミックも発売中!
・書籍版は大幅な加筆修正あり!
・Amazonで第三巻予約受付中!
ツギクルバナー 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ