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第32話 拝み見るのはごめんじゃな


 サザーランド南門前広場にあるミラード家のテントに入ると、既にジークが敵地に足を踏み入れたような険しい顔で腕を組んで椅子に座っていた。


「待たせましたか?」

「いや、儂も今来たばかりじゃ」

「では、さっそく具体的な作戦を説明させていただきます」


 テントの中心にあるテーブルに、先ほど考えた本計画書を置き、私はプレゼンを開始する。



「お主は、これが可能だと本気で考えているのか?」

「私は正気ですよ」


 まるで私の正気を疑うような不信(ふしん)疑念(ぎねん)をたっぷり含んだ視線を向けてくるジークに、自信をもってそう言い放つ。


「悪いが、いくら切羽詰(せっぱつ)まっているとはいえ、根拠なく、こんな妄想談義(もうそうだんぎ)に乗る訳にもいかん」


 そうだろうな。火薬という存在を知らぬこの世界の人間ならば、当然の反応だ。

 そもそも私が今回の作戦(実験)を思いついたのも、鉱山や土木の安全性向上のため、サガミ商会で爆薬の研究開発が進められていたことに他ならない。

 私のギフト《魔法の設計図》の魔導書創造も、魔法ランクにつき、創造限界個数がある。炭坑の抗夫に一々魔導書を与えていたら、たちまち枯渇(こかつ)してしまう。魔法に代わる鉱山や土木事業の開発技術が是非とも必要となったのである。


「ならば、信じさせるだけです」


 私は指をならし、転移を発動すると、私とジークの足元に魔法陣類似の円が浮かび上がる。


「こ、これは――」


驚愕の声を上げ、椅子から立ち上がるジークを尻目に、私はサガミ商会の運営する廃坑前に転移した。


「こ、これは……」


 突如、変化した景色に、キョロキョロと周囲を見渡しているジークと私の元に、予め申し合わせていたジュドが歩いてくる。


「大将、実験の準備はできている」

「ご苦労、では、始めよう」


 未だに唖然(あぜん)としているジークを尻目に、現場の技術スタッフを促し、ある実験開始の指示を出す。


 

 実験が終了し、真っ青に血の気の引いた顔でジークは、(たき)の様に出た汗を拭い重たい口を開く。


「お主……あの勇者と同じ迷い人じゃな?」


 迷い人か、どこかで聞いた言葉だ。おそらくは、あの勇者と同様というと、異世界人という意味だろう。

さて、何と答えるべきか。肯定しても面倒になる予感しかしない。


「迷い人の意味はわかりませんが、私はグレイ・ミラードですよ」

「答えはせぬ……か。隠す必要でもある。そういうことか」


いや、十分な返答はしていると思うのだが。どうにも、ジークの中では、私イコール異世界人らしい。


「私の返答は変わりませんよ」

「理由があるのじゃろ? 別に構わんよ」

 

 遂に、勝手に自己完結してしまわれた。もう勝手にしろよ。


「それで、協力は願えますか?」

「一つだけ聞かせよ」

「何です?」

「お主が望む先じゃ」


 私が望む先ね。ジークの引き締まり、目瞬(まじろ)ぎもしない様からいって、下手な駆け引きは、ろくな結果を生むまい。それに、私もそろそろ、猫を被るのに疲れてきたところだしな。


(おきな)よ、私の唯一といえる渇望は、知識の源泉(げんせん)たる真理(しんり)へ至る道。それだけだ」


知識の源泉を求めるのは、科学者(私達)の本能に近い。それがより細かな各分野に分かれ、功績に応じて、科学者に一定の地位や名誉が割り当てられる時代であっても、結局、科学者(私達)は人生を賭けて知識を追い求めていく。それは、世界で最も純粋で、しかもどんな娯楽よりも(あらが)えぬ欲求だ。その原動力を説明しろと言われても到底できやしない。しかし、それは依然として私の中で(くすぶ)り、今も途絶(とだ)えず燃え続けている。

 

「知識の源泉? そんなことは不可能じゃっ!!」

「かもしれんな」


 元々、私のこの渇望(かつぼう)は、世界でも有数な卓越した頭脳を有した者達が(くじ)かれ、到達しえなかったもの。おそらく私も辿りはつけまい。それでも、零ではない。どんなに不利であっても、目指さぬ道理はないのだ。


「お主、壊れ切っておるな……」

「否定はしない。だが、翁よ、私の同類は既にこの世界で生まれているぞ?」


 ルロイや、パーズを始めとする直弟子達はもはや知識の虜だ。知識の探究という甘い蜜の味を一度知ってしまえば、もう抗えない。仮に私が消えても彼らは求め続けるだろう。そう、仮に何を犠牲にしようとも。


「冗談にしては笑えんな」

「無論、偽りは述べていないからな。話が逸れた。ともかく、私達はこの度のアンデッドの襲来で、いくつかの実証実験を行おうと思っている」

「実験じゃと!? この帝国最大の危機にか!?」

「知性のない統率(とうそつ)のとれた的だ。素材としては最適であろうよ」


 まあ、他にもアンデッドの生態を知りたいということもあるわけだが、それを口にすると流石に以後人間扱いしてもらえなくなる恐れもある。自重すべきだろう。


「そういう問題ではないわっ!!」


 (うずくま)って唸り出すジーク。


「そう落ち込むな。結果的にこの帝国は救われるさ。それにな、サザーランドは今後の私の野望の拠点となりえる場所。あのような知性もない下品な下等生物に土足で踏みつけられるなど言語道断(ごんごどうだん)だ」

「貴様は――! ……いや、もういい。貴様の悪質さは、十分すぎるほど理解した」

「それは良かったな。で、私に協力するのか、しないのか、はっきりしてもらいたいのだが?」

「乗る以外に方法があるのか!?」

「そう怒るなよ。短気は損気というであろう? そうカッカしてばかりしていると、益々(ますます)、老化が進むぞ?」

「ぐぬっ! もういいわ。あの地の改造にはいかほどかかりそうなのじゃ?」

「ふむ、一四日後には全て仕上げるつもりだ。具体的な計画書は後程提出しよう」


 不眠不休となるが、サガミ商会成立以来の大型実証実験だ。しかも、帝国の危機を救うというお題目もあるから、基本、やりすぎて非難される恐れもない。中々、そそられる構図(こうず)ではないか。


「儂は常々(つねづね)、異なる世には興味はあった。じゃが、祖国の危機すらも好奇心の供物(くもつ)とする、貴様のような狂人が跳梁跋扈ちょうりょうばっこするする世など頼まれても(おが)み見るのはごめんじゃな」


 そう疲れたように、呟くと、“送ってくれ”と私にそう静かに告げた。


お読みいただきありがとうございます。

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