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第39話 精霊の街のヒーロー

帝都第二区――遊楽町、ラグーナ闇営業所人身競売所


「お兄ちゃん……」


 薄暗い地下牢の中、泣きそうな顔でしがみ付く妹をピーは強く抱きしめた。


「心配いらない。きっとシロヒメ様が助けてくれるよ」


 ピーたちは精霊たちの街――ヴォーロスの周辺の森で遊んでいたが、黒装束たちに攫われてこの地に連れてこられたのだ。

 シロヒメ様はあの猿共により壊滅的な打撃を受けていた【アコード】の森の精霊たちを一か所に集め保護し、ヴォーロスの街を作った。


「無理に決まってんだろ! 相手はあのラグーナだぞ! 俺達は皆、死ぬまで金持ちの貴族のおもちゃにされるんだ!」


 同じ売られたと思しき黒髪を角刈りにした少年が、目尻に涙をためて激高する。


「大丈夫だよ! 俺達には聖霊王様がついている!」


 己を奮い立たせるように力強く叫ぶ。


「聖霊王? そんな迷信で助かったら世話はないわよ」


 角刈りの少年の隣の可愛らしい少女が、床に唾を吐いて諦めの言葉を吐き捨てた。


「俺、みたんだ。俺の前に売られて行ったやつが、首をなくして横たわっているの……」


 しゃがみ込み、ガタガタと震えながらも、絶望の声を上げる金髪の美少年。


「別に驚くことじゃねぇさ。だって、お前らは奴隷だから」


咄嗟に背後を振り返ると、緑の帽子をかぶった貴族の正装した青年が鞭を指に絡ませつつも、佇んでいた。

牢獄の中に小さな悲鳴が上がり、皆が部屋の隅に退避する。

こいつは、この施設でそれなりの地位を持つ人物らしく、気に入らないことがあると、直ぐにピーたちを鞭で気絶するまで叩く最低な奴。ピーももちろん大嫌いだ。


「お前達は奴隷、つまりは物だ。ご主人様の意に沿えなかった不必要なものはさっさと処分される。それが摂理さ」

「そ、その子も?」

「あの餓鬼は、妹と離れたくないって五月蠅くてなぁ。貴族様を不快にさせてしまったんだ。まったく、死体を処分するにも手間賃がかかるってのに。どうせ、直ぐに殺処分にするんだろうし、自分の屋敷でやればいいだろうによ」


 醜悪に歪ませると緑の貴族服を着た男は左手を上げる。背後の武装した男達が牢獄の鍵を開けて入ってくると、ピーと妹の腰に縄を括り付け、


「競売だ。出ろ」


 そう強要したのだった。



「次は世にも珍しい兄妹の精霊でーす」


 先ほどの男が進行役として、壇上でピーたちに右手を向けてくる。湧き上がる歓声。


「では希少種ゆえ、50万Gからです!」

「60万!」

「70万!」

「85万!」


(狂ってる)


繰り返される人間たちの狂言を耳にして、ピーはしがみ付く妹をぎゅっと抱きしめながら内心でそう呟いていた。

ピーたちの一族は上位精霊とは違い、姿を大きく変えることはできない。できて耳や肌を人に似せるくらいが精々だ。故に小さな集落を形成し大人たちは人に化けることにより、稀に訪れる人の商人と長年取引して生活してきていたのだ。

シロヒメ様が聖霊王様の加護を受けて、【アコード】の森の中心に精霊たちの街を作り、全種族を呼び寄せた。その街では精霊だろうが、人間だろうが区別なく話し、共に食事をし、商いを営む。そんな夢のような場所。

だからこそ、ピーたちは忘れてしまっていたのかもしれない。なぜ、今までピーたちの一族が人間の社会に溶け込むという形で距離を取っていたのかを。


「500万!」


 でっぷりとした貴族のダミ声が響き渡り騒めく室内。


「500万Gが出ました。さあ、いらっしゃいますか? おられないようでしたら、そこの貴族様が――」

「1億」


 凍り付く場内。そして、その右手を上げる金色の髪の少年を視界に入れたとき、


(あ、あの人は……)


長い悪夢から覚めたかのような激烈な安堵感が沸き上がり、口から嗚咽が漏れて視界が涙によりぼやけてくる。当然だ。そこにいたのは、ヴォーロスの街の真の英雄(ヒーロー)だったのだから。



お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] あの状態のサテラを一年以上も投げっぱなしで鬱になって読むのを止めました。 後半になるにつれカタルシスがどんどんなくなっていく。もう読みきれない。
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