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第9話 不可思議な集団

「はーい、ラーズ、それ以上その子達に近づかない。君の凶悪極まりない顔はこの暗がりではまさにホラーなんだからさ」

「けっ!」


唾を地面に吐き捨てると片眼鏡の男――ラーズは、ミア達のテントの傍にある倒れた椅子を起こすと、そこに腰を下ろして両腕を組んで瞼を閉じてしまう。


「さてさてさーて、じゃあ、教えてもらえるかな♪ ここは普通の人間が来れる場所じゃないんだ。どうやってここに来たのぉ?」


 マスクをした茶色の髪の青年が弾むよう声で、ミア達にも到底答えられぬことを尋ねてくる。


「どうやってって……クリカラ四階層で変な扉に吸い込まれて……」

「扉……」


 茶髪の青年は、暫し、顎に右手を当てていたが、ポンと手を打つと、


「あー、あの時の扉か♬ この【不実の塔】とクリカラのどこかに繋がるとは思っていたんだけど、まさかそんな上層だとはねぇ♩」


 カラカラと笑い出す。


「笑いごとじゃないわよ、ネロ! そもそも、ゲートの管理はあんたらの管轄でしょ?」


 いつの間にそこにいたのだろう。マスクの茶髪の青年――ネロの隣には、金髪の女性が細い腰に両手を当てながらも、非難の声を上げていた。

彼女の金色の髪はややくせっ毛で、肩まで伸びた髪の毛先が外側にハネており、その大人っぽい言動とは対照的に、外見上、ミア達と大して変わらぬ少女のような容姿をしている。


「Sry、あとでブラストと一緒に直しておくよぉ♫」


 ネロの不自然なほど場違いに陽気な声を打ち消すかのように、


「ちょ、ちょっと、あれっ!!」


 クリフの悲鳴のような声が夜空に木霊する。当然だ。プルートの指の先には、先ほど細長い生物の数十倍、いや何百倍もの体長の爬虫類が姿を現していたのだから。

 比喩でもなく文字通り山のごとき、いや山脈ほどもある大きな蜥蜴が真っ赤な双眼でこちらを睥睨していたのだ。

あんな大きな生物が存在していいのか? 勝てる勝てないじゃない。端から人という種はあんな巨大な生物と戦えるようにはできちゃいない。


「うーん。あれはいくらなんでもコレクションにするには大きすぎるかな。ボクチンはいらないや。君らで始末してよ。ボクチンは彼らを守ってるからさ」

「はぁ? 何勝手なこといってんのよ! あんたのゲテモノ能力ならあんなデカブツ――」

「さあさあ、心配しないでねぇ♩ 君らはボクチンが責任もってストラヘイムまで送り届けるからさぁ♫」


 茶髪の青年は、金髪の女性の言葉を遮るとミア達に向き直り、無邪気な笑顔を浮かべる。


「ホント、勝手な奴ね。で、どうする、ラーズ?」


 怒り心頭な金髪の女性の問いかけに、ラーズは眼球だけを動かし、ネロを一瞥するも椅子から立ち上がり、


「ネロ、貸、一つだ」


 ぶっきらぼうにそう伝えると、初めて巨大な蜥蜴に顔を向ける。


「……あんたたち、なんか今日、いつも以上にキモイわよ」


 そんなご無体な感想を述べると金髪の女性も大きなため息を吐き出して、一歩下がる。


「なぁ、あんたら、あんなの勝てるわけねぇ。早く逃げねぇと!!」


 今にも大口開けてこちらに何かを放って来ようとしている超巨大蜥蜴に、プルートはヒステリックな声を上げるが、ネロは人差し指を立てて顔の前で数回振ると、


「まあ見てなって♪ あんなのじゃあの戦闘大好きっ子の退屈すらも紛らわせられないと思うよぉ♬」


 ポケットに突っこんだままラーズの姿が消失し、次の瞬間、巨大大蜥蜴の頭上に燦々と輝く太陽が生じ、それが超高速で落下していく。

 太陽は大蜥蜴ごと真っ赤な海を飲み込み、そして――。



「……」


 絶句。それが今のミア達の心情を表現する最も良い表見なのかもしれない。

 眼前に広がるのは、底すら見えぬ大穴。広大な赤色の水は少なくとも今この瞬間は、一滴すらも残っちゃいなかった。


「ねぇ、言ったでしょぉ? 退屈しのぎにもならないってぇ♫」

「あんたら一体何者なんだ?」


 プルートが代表し、ミア達が今一番気になっている疑問を尋ねてくれた。


「うーん、少なくとも今のところは君らの敵ではないよ」


 ネロのこの断定的な言葉。それに彼らは端からミア達を知っている様子だった。こんな非常識な人達の知り合いなど、もはや一人しか思い浮かばない。


「シラベ先生のお知り合いなの?」

「どうかな。だけど、ボクチンから一つお願いがある。ボクチンらとの今日の出来事は口外しないで欲しい」

「シラベ先生にも?」

「ああ」

「もし話せば?」


 恐る恐る尋ねるプルートに、ネロは悪戯っぽく笑うと、


「だから言ったろ。あくまでボクチンたちからお願いだと。君らにそれを守る義理はないさ」


 それだけ一方的に告げると、背後をチラリと確認し、


「じゃ待ち人も来たらしいし、ストラヘイムへ帰ろうか。ブラスト、ゲートでこの子達をクリカラ一階層にまで送り届けてよ」


背後で佇む口に黒色の布を巻いたカチューシャをした女性のように美しい金髪の男性に指示を出す。


「構わないが、ここのダンジョン内のセーフティーポイント内のゲートを無理矢理繋げるとまた、以前のようなペナルティが徒党を組んで襲ってくるけど、それでもいいかい?」


カチューシャをした黒一色の衣服の青年の確認に、


「ああ、やってよ」


 ネロは即答する。


「ホント、今日のあんたらマジでキモすぎ」


 金髪のボブカットの女性が、呆れたように肩を竦め、カチューシャをした青年が右の掌をミアたちに向ける。

突如、景色が歪み、ミアたちは周囲を青色の石で囲まれた空間に佇んでいた。

 あまりにも状況が急転し過ぎて、脳が上手く処理できずに、ボーと立ち尽くしていると、


「ここって第一階層だよね? ほら、ここの傷、見覚えあるんだけど?」


 いち早く覚醒したエイトが、周囲を見渡しながらもそんな的確な感想を述べる。


「本当だ! だとすると、あの先が外の階段よ!」


 悪い夢から目覚めたような強烈な安堵感と早く外に出たいという欲求からミアは外に向けて走りだしていた。


 それから、直ぐにサガミ商会の人達に保護される。

よほど心配をかけてしまったのだろう。ドラちゃんを交え、怒髪天を衝く状態のシラベ先生を始め、サガミ商会の幹部の大人達から、数時間にも渡る説教を受けてしまう。


「あの人達のこと、先生に言わなくてよかったのかな?」

 

 Gクラスの寮で少し遅い夕食の続きをしていると、クリフがフォークで野菜をつつきながらも、ミアが今もっとも危惧していたことを口にする。


「お願いって言ってたからな。助けてもらって話してはあまりに恩知らずだし、何より、スマートじゃねぇよ」

「うん、それに先生もきっと僕らの立場なら話さないんじゃないかな」

「ミアもそう思うのっ!」

「わたしもぉ!」


 クリフも肩竦め、


「それもそうだね。それに先生に敵意がある風でもなかったし、問題ないか。じゃあ、僕は流石に疲れたから失礼するよ」


最後の野菜を口に入れると、皿を台所に下げて部屋を出て行ってしまう。


「俺達も今日は解散しよう」


 ミアも頷き、自室へ向かう。

 自室のベッドで横になる。早速、いくつか考えたいことがあったのだ。

第一はあの不思議な場所について。ネロはあの場所を、『この【不実の塔】』と表現していた。【不実の塔】とはストラヘイムにあるあの光り輝く塔と考えるのが、自然だ。しかし、だとすると、あのふざけた場所はあの光り輝く塔の内部だったということになってしまう。

流石にあんな広大な場所が塔の中に入るとは思えない。第一、それでは太陽や月や星の説明に難儀する。

 つまり、あの塔はこの《アルテリア大陸》のどこかと繋がっており、今回はクリカラの上層と《アルテリア大陸》の特定の場所が直接繋がってしまった。そう理解すべきか。

 第二は、ネロ達不思議な集団のこと。


(すごかったの……)


 山脈に等しい大きさの怪物を一瞬で燃やし尽くし、さらに、地形すらも変えるほどの途轍もない威力。未だにあれが夢か何かと思ってしまっている自分がいる。それほどあの光景は現実離れし過ぎていた。


「先生の知り合いなの?」


 一応疑問を口にしてはみたが、まずそれは間違いないとミアは考えている。

 何より、あの人間とは思えぬ理不尽さはある意味、シラベ先生と酷似している。

 ともあれ、クリフの言う通り、ネロ達からは先生やミアたちに対する敵対心のようなものが微塵も感じられなかった。

 頃合いを見て先生との関係を尋ねてみるのもいいかもしれない。


(流石に眠いの)


 どうやらこれ以上は意識を保つのは限界のようだ。重い瞼が閉じて行き、ミアの意識は微睡へと落ちていく。


お読みいただきありがとうございます。

【カーディナルシンズ】とミア達の初めての出会いでした。のちにこの出会いがミア達の運命を分けて行きます。

 次回から四章の前半のメインシナリオの魔導学院試験編となります。ご期待いただければ幸いです。


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― 新着の感想 ―
[一言] えー!教え子が敵になってた的な話になるのかな?
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