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第58話 商談と報告


  サガミ商会1階へと転移し、応接間へ顔を出すと、二人の男女がテーブルの各席についていた。

  一人は、奴隷商の大元締め――(まだら)と、娼婦街の元締めをしている華兎(カト)

  二人はジルの部下――テツ達とともに、冒険者ギルドに保護された。

  彼らから事情を聴き、本件事件の経緯が明らかとなった。

  彼らは、ジルとの商談が完了しそうなところで、ムンク達に襲われたらしい。

  今、彼らとジルの目指した商談している最中だ。

  もっとも、今回の件で、彼らは既に【ラグーナ】に睨まれてしまっており、既に二人は契約を結ぶ決心をしていた。故に商談といっても、契約内容について重点的に話しあったに過ぎない。


「これで、契約は終了だ。よろしく頼むよ」


 契約書にサインをした二人に右手を差し出すと握り返してくる。


「こちらこそ、サガミの若旦那。私の目的は金だ。この商いは金になるし、奴隷業より一般商人からの受けもいい。私にとっても僥倖というものさ」


 (まだら)が歓喜を隠そうともせずに、弾むような声でそう宣言してくる。

 契約内容は以下の通り。

(まだら)が、金銭売買されている全国の奴隷を奴隷商から購入し、それをサガミ商会へ債権譲渡する。

 私達は、彼らに衣食住を保障しつつ、雇用し月々の給料から天引きする形で返済してもらう。その間に彼らには、私達の商会が最低限の職業訓練を行う。

 利子を含んだ返済が終了した時点で、サガミ商会が希望者に改めて採用試験を実施する。こんな塩梅だ。

 まだまだ、システム的には強制労働という側面は取れないが、最初から全てを変えようとしても不可能だ。今はこれで十分だと思われる。


「それはよかった。最低限の審査は可能そうかい?」

「もちろん。それも契約内容に入っているしね。素性はしっかり調査するよ。面倒そうなもののみ、知らせるから面接でもすればいいさ」


 面接官については、適任が一人、心あたりがある。

 あのサトリという少女だ。聞くところによると、他者の嘘を見抜く力という。これは、非常に我らにとっては有用だ。

 やはり、ぜひとも、アクウを説得しなければならないな。


華兎(カト)さん、君も娼婦達の了解は取り付けたのかい?」

「はい。元々、好きで身体を売っている者などいやしません。みな、金銭的や家族等に問題を抱えて従事せざるを得ない者ばかりでありんす。一部のお客さんから暴力を受けたり、攫われたりするものもおりんした。特に――」


 華兎(カト)は苦渋の表情で、噛みしめるように口にするが、言葉に詰まる。


「【ラグーナ】かい?」

 

 華兎(カト)が、コクンと顎を引く。

 結局のところ、彼女が了承したのは、ストラヘイムの裏社会の実質的な支配者【ラグーナ】が、四統括――毒酒の死とともに消滅したからだ。

それほど、【ラグーナ】という組織は、裏を生きる者達にとって絶対的なものなのかもしれない。


「繰り返すが、【ラグーナ】はもうじき消滅する。あのような、無駄な組織はない方がこの世界のためだ」


 無法者が、国政に関与するなど百年早い。奴らは精々、弱者にしかたかれない寄生虫。この歪な組織は早急に解体しなくてはな。


「それを本気で言っているから、サガミの若旦那は恐ろしい」


 (まだら)が肩を竦めてくる。


「そうかね。我らは身辺調査が終わり次第、直ぐにでも受け入れる用意がある。頼むよ」


 間者や犯罪者などに来られても困る。そこはしっかりやるつもりだ。

 アクウとサトリの勧誘など、踏まねばならぬ段階は多いが、ジルの最後の仕事なのだ。この商談の成功は私の義務だと思っている。必ず成功させてみせる。


「では、私はこれで失礼するよ。大したもてなしもできないが、よかったらゆっくり昼食でもとっていきたまえ」


 席を立ち上がると、二人が神妙な顔で私を凝視してくる。


「なんだね?」

「申し訳なかった」


 (まだら)華兎(カト)が、私に頭を下げてくる。


「ジルの件で君らが心を痛める必要はない。彼は己の信念を最後まで貫いただけなのだから。

 だが、もし、彼に対して負い目があるなら、この商談全力でやり遂げてくれ」


 ジルの目的はただ一つ。運命の奴隷のような不幸で自らのどうしょうもない境遇の者を一人でも多く減らすこと。それこそが、私の引き継いだ使命だ。

 頷く二人に口端を上げて、部屋を出た。


            ◇◆◇◆◇◆


 本事件の皇族滞在の屋敷へ訪れ、たった今、帝国政府への報告を終えたところだ。

 まあ、帝国政府といっても、皇帝達はおまけで、実際はカイゼル髭の紳士である内務卿と、どじょう髭がトレードマークのハクロウ男爵との打ち合わせだった。即ち、【ラグーナ】関連の事件の検証。


「覚醒魔王を作り出す輩!? どんなふざけた能力だっ!!」


 皇帝――ゲオルグの叫びは、この場の全員の心の声だったのだろう。全員が苦虫を嚙み潰したような顔で、口を閉ざすのみ。

無理もない。六度世界を滅ぼしかけた伝説魔物を自在に作り出す能力だ。確かにこれほど、理不尽でかつ、馬鹿馬鹿しい能力もあるまい。


「魔王化した毒酒は、かなり魔改造されていたらしく、かなり手こずりましたけどね」

「いやいや、覚醒した魔王相手に手こずるもくそもないから!」


 書記官の青年が、真っ青な顔で右手を左右にブンブン振る。


「そうだな、俺も一人で魔王を倒した勇者の話など、どこの文献引っ張り出しても聞いたことがないね。しかも、二体だったわけだしな」


もみあげの長いおっさんガイウスが、しみじみと相槌を打つと、それに同席者が次々に同意する。

 ギルド総長であるガイウスもこの度、冒険者ギルドからの報告役として、呼ばれているようだ。

 私も暇じゃない。下らん話は早々に切り上げて、とっとと、本題に入ろう。


「それで、ストラヘイムの【ラグーナ】は?」

「毒酒は死亡。その勢力下にあったストラヘイムを拠点にしていた【ラグーナ】も壊滅。おまけに、裏稼業のいくつかのファミリーが、帝国政府と冒険者ギルドに保護を求めてきている。事実上、ストラヘイムから【ラグーナ】の勢力は一掃された」

「そうですか。それは朗報ですね」


 帝都での奴らの排除も早急に開始しなければならない。そう。【ラグーナ】狩りだ。


「問題は、その他者を魔王化する黒幕だが……」

「御心配なく、この度の黒幕は、私が責任をもって潰しますよ」


 私の宣言に、一同に安堵感のようなものが広まっていく。

黒幕は私を怒らせた。一線を越えたクズには、相応の報いをくれてやる。

 問題は奴がひどく憶病であり、中々尻尾を掴ませない可能性が高いということ。


「そうか。苦労をかけるな」


 皇帝ゲオルグのそんな場違いな労りの言葉に、肩を竦め、


「構いませんよ。それより、今回の事件は一応の決着を見ました。皇女殿下お二人には、直ぐに帝都に帰還してもらいたく思います」


 これ以上、子供の世話をする余裕は私にはない。それに、黒幕はこの上なく危険だ。下手に、首を突っ込めば、ジルの二の舞になりかねん。ただちに、帝都へ強制送還してもらおう。


「それがなぁ……」


 ゲオルグが、頬をポリポリと掻きつつも口籠る。

 強烈な悪寒がする。これは、いつもの最悪な奴だ。

 故に、


「お断りします」


 きっぱりと断言した。


「おい、まだ何も言っていないぞっ!!」

「どうせ、子守の継続でしょ?」

「子守って……お前の方が子供だろう?」


心底あきれ果てたような声色で、横やりを入れてくるガイウスを無視し、


「断固拒否しますっ!」


 強く断言する。


「そういうなよぉ。俺も二人を説得したんだ。だが、まだ事件は終わっちゃいないの一点張りでな」


 の〇太皇帝が情けない声を上げる。まったく、お前は仮にも兄であり父だろう。ならば、あのお転婆娘どもの手綱くらいしっかり握れ。


「本事件の危険性は重々承知でしょう? 申し訳ありませんが、彼女達の我儘にこれ以上、付き合いきれませんよ」

「それはわかっている。だが、彼女達の危なっかしさは卿も知っていよう。無理に帝都へ戻しても独自の調査を開始するだけだ。それなら、卿に預けた方がまだ安全というもの。違うかね?」


 くそ! 確かにそれは正論だ。今の二人なら間違いなくそうする。


「……違いませんよ」


 どうにか言葉を絞り出す。

 二人はジルの死に相当なショックを受けていた。おそらく(かたき)を取りたいとかそういったものではなく、これ以上帝国民に犠牲を出さない。その使命感故に、犯人を捕縛したいのだろう。

 だからこそ、危険なのだ。敵はそんな甘い存在では断じてない。その崇高な感情をいとも簡単に利用されてしまう。


「ならば、頼めぬだろうか?」

「やめてくださいよ。どうせ、私に拒否権はないんでしょう?」

「すまぬ」


 私の皮肉のたっぷり籠った言葉に、宰相は頭を深く下げてくる。


「それでは私はこれで」


もう話は終わった。また一つ、策を練らねばならんようだ。

立ち上がり、一礼すると出口の扉まで向かおうとするが、


「それはそうと、ビットスレイ王国の第一王子殿が近々、来訪する予定だ。対応を頼むぞ」

「はあ? なぜ私が?」


 オリヴィアが苦手な男だったか。好き嫌いは個人の自由だ。好きにすればいいさ。だが、そんな下らん男女の痴情になぜ私が関与せねばならん? 


「一応、お前もオリヴィアの婚約者候補だろう? 当然じゃないか?」


 いやいや、あんた、何言ってんだ? 


「それはあの野獣が勝手に口走っているだけです!」

「安心しろ。第一王子殿も多忙らしく、来訪は当分先だ」

「そういう問題じゃない!」

「いいのかぁ。時間がないんだろう?」


 いたずらに成功した少年のようなどや顔でゲオルグがそう促してくる。

 要するに、これも拒否権はないってか。どこまでも、面倒ごとを持ち込む奴らだ。

 舌打ちをしつつ、怒りを全身で体現しつつも、今度こそ建物を後にした。



お読みいただきありがとうございます。


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