第13話 怪物からの逃避 小鬼隊長
小鬼隊長――ゴブキンは、人の形をした生物から逃れんと、必死に足を動かす。
あれは、一体なんなのだろう？
人間？ いや、それは絶対にありえない。
一族の中でもゴブキンの皮膚は鋼よりも固く、あらゆる魔法を弾く。少なくとも今の今までずっとそうだった。一族が誇るゴブリンメイジであっても、大抵のものなら弾いてしまう。人間ごときの下等な魔法などで傷つく道理などない。
そう。無敵のはずのゴブキンの皮膚どころか両腕は、奴の力であっさりと消し炭となってしまう。しかも、しかもだ。奴の摩訶不思議な力で、あれほどいた兵隊共はものを言わぬ肉の塊と化した。
（コワイ！ オソロシィ!!）
何より、兵隊共を殺した際に一瞬垣間見せた、奴のあの紅に染まった瞳。あれを一目見ただけで、ゴブキンは理解してしまった。あれは、人間の皮を被ったまったく違う悍ましい何かだと。
ひたすら、巣を目指す。きっと、偉大な王とあの方々なら、あいつを止められるはずだから。それを信じ、ゴブキンは我武者羅に足を動かす。
「ツイタ」
眩暈がするほど安堵感から、地面に崩れ落ちる。
「グガッ？」
涙と鼻水を垂れ流すゴブキンに、見張りのゴブリン共は訝しげに近づいてくる。
「グガギグガガ（バケモノガクル）！ ギギギグググガ（タダチニ、ムカエウツヨウイヲ）！ ガグガギギギ（ソウ、オウニツタエロ）！」
見張りのゴブリンは、数回頷くと、慌てたように洞窟の中に入ろうと足を踏み出す。
まさに瞬きをするほどの間、ゴブリンの全身に無数の線が走り、ゆっくりとスライドしていく。
「アァ……」
粉々のブロック状となった見張りゴブリンの姿を網膜が映し出し、絶望の声が口から吐き出さる。なぜなら、理解してしまったから。まったく悪夢は終わっていないといいうことを。
「ご苦労だったな」
体中を押しつぶされるがごとき圧倒的圧迫感。
振り返ってはいけない。それは明らかなのに、ゴブキンの顔はその声の方へ向いていく。
「ーッ!!？」
その幼子の姿を目にした途端、声にならない悲鳴を上げる。
全身からユラユラと真っ赤な靄が揺らめき、その瞳は血のように真っ赤に発色している。そして、耳元近くまで吊り上がった口端。それは、まさに、文字通りの怪物だった。
「では、蹂躙を始めるとしよう」
ゴブキンは、ここで致命的な思い違いをしていたことに気が付いた。
勝てる勝てないではない。こいつは――。
「ああ、そうそう、案内の褒美をやる。眠れ」
その言葉を最後に、ゴブキンの視界はゆっくりと地面へ落ちていき、意識はプツリと失われた。
お読みいただきありがとうございます。
※視点が変わったので、一応話を分けてみました。（まとめた方が読みやすいという意見が多ければ、変えるかもしれません）短いので、可能な限り早く次の話を投稿します。
