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第23話 唐突であり得ない思考


 シーザーとシルフィの目的は不明だが、どの道、生徒達には当面のライバルが必要だったのだ。丁度良いのかもしれん。

 それに、奇想天外なあの二人の意図など考えるだけ無駄だ。第一、何も考えてない可能性もあるしな。

 ミアとクリフにはそれぞれ思うところがあるだろうし、本日は少し早いが自習とした。彼らにはあの魔法の鞄がある。時間が余れば鞄を用いて、魔力操作の鍛錬でもしているだろう。

 その間に、私にはいくつかやることがあるのだ。

 第一研究所の中央研究室にいるルロイの元まで転移する。



「魔法の武器か。確かに作っておったよ。まあ、今手掛けているものと比べれば子供のお遊びにすぎぬがな」

 

 そう自嘲気味に呟くと、ルロイはサガミ商会特製の珈琲を飲み干す。


「私も今度、剣を主体とする魔法武器を作ってみようかと思っています。ご教授お願いできますか?」


 ルロイが怪訝な顔をしつつも、


「あんな魔力がなければ発動できぬ子供だましの代物に頼らんでも、武器ならお主が勘案した銃火器で十分だろう。というか、それより儂は早く【発電機】の開発に着手したいぞ」


 予想通りの言葉を紡ぐ。


「利便性の問題ではないんです。ルロイさん、私が知りたいのは、今、貴方が科学を求めるのと同様の理由からですよ」


 しばし、ルロイは両腕を組んで私の顔を凝視していたが、


「少し待ってろ」


それだけ伝えると、無言で奥の部屋へ姿を消す。

 数分後、一振りの剣を抱えてルロイは戻ってくると、机に剣を静かに置く。


「これは、儂がグレイ、お前と会う直前に仕上げた作品だ。儂の作った中では最高のできだが、もう儂には不要なものじゃ。お主にやる」


 素人の私が見てもわかる。相当な業物だ。


「そこの鍔の空洞に特殊加工された魔鉱石をはめると発動する仕組みだ。つまり――」

「最終的な剣の完成度は、魔鉱石とかいう石の精度に影響されると?」

「そうじゃ、儂は鍛冶師。儂個人が、丹精込めて作ろうとも、結局は魔法師の力量により、左右されてしまう。我が子同然に鍛えてきたものが、なまくらへと落ちる。それがどれほど、許しがたく、耐え難いことか……」


 奥歯を噛みしめるルロイの姿は、なぜこの世界の鍛冶師がここまで科学に夢中になるかを私に想起させていた。


「感謝します。では、この剣の製法に付きいくつか伺いたいのですが、よろしいですかな?」

「構わんよ。いくらでも教えてやろう」


 私の求めにルロイは、大きく頷くと口を開き始めた。



 ルロイから魔法の武器の詳しい製法の教授を受け、今、情報を整理するために、自室へ戻ってきたところだ。

 魔鉱石の効力を十二分に発揮するためには、その剣を構成する金属や形、強度を細かく調整しなければならない。特にその魔鉱石の保有する魔法の種類によって、固有の調整が必要となるらしく、これを誤ると魔法武器としてほとんど効果を発揮できなくなる。

 なるほど、それほど難解ならば魔法武器とやらがこの世界に少ない理由にも合点がいく。


「面白いではないか!」


 この程度の困難で、開発を中止するようでは、それはもはや科学者ではない。

 むしろ、今まで開発してきた科学技術は、地球の先人たちが築き上げた叡智の結晶。私はその知識を借り受け再現した模倣者に過ぎない。むしろ、新たな叡智の芽は、このようなどうしょうもない苦難の中にこそあるのだ。


『マスター、えらい、楽しそうやね』


 呆れたようなムラの呟きが脳裏に響く。


「ああ、楽しいさ。楽しくないわけがない」


 今、私は新たな壁にぶち当たった。もし、この開発に成功すれば、人類という種のページに新たな知識が書き綴られることになるのだから。

 それに、この魔法武器の理論が確立できれば、他の生活一般の魔法具にも転用可能となる。ならば、それは、私がこの世界に来てまずやりたかったことにも繋がる。魔法と科学の結合――魔導科学の誕生だっ!!

 

『変態やねぇー』


 ムラだけには言われたなくない言葉だな。

 直ぐにでも研究に取り掛かりたいのは山々だが、本日は、明日の授業で使用するレジュメを作成せねばならん。当面は少しずつ、進めていくしかあるまい。


「さて、始めるか」


 ペンを片手に羊皮紙に私は書留め始めた。


            ◇◆◇◆◇◆


「うむ、もうこんな時間か」


 置時計を見ると、20時を示している。そろそろ、夕飯でも食いにいくか。

 サガミ商会の社員食堂へと行くと、丁度、ジュドとカルラ、アクイドの三人が夕食を取っていたので、それに混ざる。


「ほう、医科学研究所と公立病院の建設は進んでいるようだな?」


 前々からサガミ商会員やトート村の有志を募り、抗生剤の開発等は行っていた。だが、それも投入できる人員に限界があり、上手く進まなかったのだ。

 だが、この度、私はラドルという新たな領地を得た。人員の候補は腐るほど存在する。

故に、この度、医学の教育研究機関である医科学研究所と公立病院の設立に踏み切ったのだ。


「ああ、既に研究員の第一期生の募集は始めている。大将、忙しいとは思うが――」

「わかっている。任せろ」


この世界では、医学は未知の学問。研究するにも基礎的知識がなくてはお話にもならない。そして、それは医療従事者も同じことだ。


「あたいも申し込んだんだよ!」


 カルラが、好物のとんかつを頬張りながら、宣言をしてくる。


「そうか。しっかり学べよ。で、募集は集まりそうなのか?」

「ああ、既に500人の応募があった」

「ご、500……」


 二の句を継げないアクイド同様、私も少なからずこの数には驚いていた。

 確定していたのは、タナ達、トート村から数人、サガミ商会からは元々抗生剤を製造していたスタッフが全て。ここまでは、確定していたが、全員で50人も満たない。それがまさか、10倍以上もの応募があるとは……。


「ラドルはもちろん、トッシュ達、元アムルゼス王国軍の軍人や軍医。さらには、商業ギルドの紹介を受けた帝国各地の医師達からも応募があった」


 私は医療をメインで稼ごうとは思っていない。

 むろん、他の商人に薬剤の特許をとられ、独占されれば、本当に必要な貧困層に行き渡らぬ可能性がある。だから、特許は取る。ただし、特許を取るのは新たに発足される医科学研究会という組織だ。

 医科学研究会は、その得た莫大な金銭を用いて各地に無償で病院を作り、医療活動を行っていく。そんな組織を目指すことになる。

 

「構わんが、流石に500人は多すぎる。数を絞る必要はあるな。ジュド、手分けしてその500人全員の面接を行ってくれ。採用基準は、真に他者を救いたいかだ」

「了解した。直ぐにでも取り掛かろう」


 ジュドの言葉に、満足げに頷くと、アクイドが口を開く。


「先日、潜入中のテオとカロジェロが帰還した。アムルゼス王国の兵士達の家族の九割を我々が保護した」

「九割、後の一割は?」


 アクイドは苦悶の表情で首を左右に振る。一割は既に処刑済みってわけか。


「そうか。そうだろうな。むしろ、九割を保護できたことを喜ぶべきか」


 正直、私の当初の予想では無事半数を保護できれば御の字。そう考えていたのだ。

 

「それがな、テオ達の報告では、この度、すんなり保護できたのは、全員がある啓示をうけていたからなんだそうだ」

「啓示?」

「テオ達が王国の比較的な大きな都市を訪れると、保護対象である兵士の家族が既に王国脱出のため集まっていたところだったらしい。お陰で、無駄な説得等の行為を省略することができた。その際に全員に共通していたのが――」

「啓示だってわけか……」


 奇妙な話だ。そして、私達にあまりに都合がよすぎる話でもある。ただの偶然などでは断じてあるまい。

 偽りを述べスパイ等を紛れ込ませる算段の可能性もあるが、全員が同じ啓示を受けるなどどう考えても不自然過ぎる。つくならもっと上手い嘘をつくだろう。


「彼らの新町ができるまで当面は、家族とラドルのアークロイの砦に居住してもらうことになった。」

「わかった。頼む」


 ともあれ、最近の私の一番の危惧が解決したのだ。今は素直に喜ぼう。


「ところで、今、サテラ、寮生活しているんでしょ? 上手くやってるの?」


 カルラが、思いついたように尋ねてくる。

 いつまでも私にべったりでは困る。これはサテラが私から離れる良い機会。だから、この度、サテラには当分の間、アリアと共に学院での寮生活を指示したのだ。

 むろん、一時でも私から離れることにつきサテラは断固拒絶していたが、押し通させてもらった。結果、サテラの機嫌は地の底まで落ちてしまう。


「完全に臍を曲げてしまって、一言も口を開かないからな。私にもわからんよ」

「へー、あのサテラがグレイ様と口を利かないかぁ。サテラ、相当、怒ってるね」

「まあな。だが、あれで結構社交的だからな。上手くやっているんだろうさ」


 未だに抱き枕の私がいないと熟睡できないという不憫な体質であるのが玉に瑕だが、15歳の子供としては、サテラは十分しっかりしている。

 私の唯一の心配はサテラの私に対する強烈な依存度だ。あの屋敷内でのサテラにとって、私は唯一の肉親のようなもの。だからこそ、サテラの世界には良くも悪くも私がいる。いや、彼女にとって私しかいないのだ。いくら仲良く振舞っていても、彼女にとっては私を媒介とした人間関係にすぎない。

 このまま私がこの地を去れば、サテラはきっとまた昔の殻に籠ってしまう。そんな気がするのだ。


『マスター、ここを去る予定あんのんか? 嫌やで! 儂、お姉ちゃん達といっしょにいたい!!』


 ムラのいつになく必死な言葉が頭に反響するが、私自身、その至った思考に意外性を感じていた。

 私がこの地を去る予定など当面はないし、そして去ろうと思って可能なものでもない。第一、この子供の身でしかも碌に地球の記憶すらない状態で戻ってどうするってんだ? 到底あり得ん妄想だ。


「大将、どうした?」

「いんや、何でもない」


 さて、夕食も食べたし、もうひと踏ん張りだ。生徒達のレジュメを作ってしまうとしよう。

 私はジュド達と簡単な挨拶を済ませると、席を立ち、自室へ戻る。

 

 いつも読んでくださってありがとうございます!


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