第15話 ストラヘイム支部長の談話
次から次へとホント今日はやけに無駄なキャストが多い日だな。まあ、ストラヘイムの支部職員からすれば、私自身もそれに含まれるのだろうが。
「このストラヘイムで最も面倒な奴らと真っ向から対立しやがって!」
私の正面の席で、頭を抱えるウィリー・ガンマン。
ウィリーとは、八歳のゴブリン退治の時からの付き合いだ。最近、顔を見ないと思ったら、ストラヘイムの支部長になっていたようだな。
「うむ、心配するな。私はあの程度の輩に負けはせんよ」
「阿呆か! ゴブリンロードを殴り殺した奴の心配など誰がするものか!」
「それもそうだな」
悲壮感溢れる今のウィリーが言うと、妙に説得力があるな。
「なあ、グレイ、頼むから大人しくしていてくれよ」
「それは奴ら次第だろうさ」
仮に敵対するなら容赦はしない。何者だろうと二度と立ち上がれないよう粉々に粉砕してやる。
「ブレスガルムは、気に入らんが、腕だけは立つんだ。あいつらがこのストラヘイムから消えれば非常事態の際のギルドの能力が著しく低下する」
「だからあのような無法を許容していたのか?」
「ああ、あの茶番か」
エイトを横目で見ると、そう吐き捨てた。
「茶番? お前達、まさか……」
あれが茶番ってことは、ギルドはエイトの件を容認していたのではなく……。
「そうだよ。奴らはギルドを脅迫していたんだ」
確かに、改めて考えれば、わざわざギルドの目と鼻の先で不法を働く意義に欠ける。ギルドにエイトの保護を名乗りださせ、金銭を巻き上げる。そんなところか。
「完璧にチンピラではないか。本当に腕がたつのか?」
「もっともな疑問だな。実のところ、ブレスガルムという組織自体は大したことはない。問題は奴らのボス――アクウだ。Sランクなんだよ。これが……」
Sランク、世界でも三人しかいない冒険者だったか。なるほど、Sランクが潰れれば、冒険者という組織の力は激変する。
ただでさえ、先のアンデッド事件ではシーザーの不在を理由に不参加を決め込み、帝国政府や商業ギルドからは非常に受けが悪い。噂では商業ギルドからの寄付金はこの数か月で半減しているらしいしな。
これ以上、戦力が低下すればそれこそ、冒険者ギルドという組織の存在意義にすら関わる。ウィリーがこれほど精神を尖らすのもわからんでもないな。
「交渉前に私が奴らをのしてしまったから、奴らのメンツを潰したと?」
「そうだ。頼むから鼻っ柱をへし折る程度にしてくれ」
ウィリーが、イケメンらしからぬ何とも情けない顔で懇願の言葉を吐く。
相手はSランクの冒険者のいるファミリー。なのに、私の勝利を微塵も疑っていないウィリーに、黒髪の受付嬢を始め他の職員達は例外なく怪訝な顔をしていた。
「善処はしよう。で、そこの子供は私の保護下に入るとみていいかね?」
己のことが話題に上り、エイトはビクッと身体を硬直させる。
「本来なら、前途ある冒険者をお前のような怪物に預けるのは気が進まないのだが、この際だ。致し方あるまい」
「散々な言われようだな」
「当然だ。お前には前科がありまくるからな」
「うーむ」
否定できないのがつらい所だな。
「ではエイト、君、歳はいくつかね?」
「14歳です」
「ほう。私の一つ上か」
ならば、いっそのこと彼も私の弟子に加えてみるか。私としては一人増えようが大して負担とはならんし、プルート達もよい刺激となるかもしれん。
「ぼ、僕の方が年上!? でもその声?」
「ああ、これね」
首にかけていた変声器の機能を有するペンダントを外すと、途端に声が慣れ久しんだ子供のそれに代わる。
今度こそあんぐり口を開けるエイトと冒険者ギルドの職員一同。
「ではよろしく頼むよ」
「はい」
私が右手を差し出すと、消え入りそうな声で頷く。
長い前髪から僅かに除く両眼は、臆病な子犬のように揺れてはいたが、決して私から目を背けはしなかったのだった。
それから、ウィリーに事情を説明し、生徒達人数分の冒険者の登録を依頼する。
「まさかお前が魔導騎士学院の教授とはな。どうりで、シーザーの奴……」
「ん、シーザーは、この帝国に戻ってきているのか?」
あいつ、災害級の魔物討伐に最近東方へ出張中で音沙汰がなかったのだ。
「そうか。まだ知らないのか……」
「ウィリー?」
「あ、ああ、すまないな。そのうち会えるさ」
それ以来、ウィリーは口を堅く閉ざしてしまう。どうにも奥歯にものが挟まったような微妙な発言をするな。
ともあれ、生徒達の冒険者登録は済んだし、こうして人数分のカードも受け取った。シーザーの件はまた別の機会に聞けばいいさ。
エイトを連れて、冒険者ギルド会館を後にする。
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